2026年の恋愛トレンドとして、静かに存在感を強めているのが「AIシチュエーションシップ(AI situationships)」という概念だ。これは、人とAIチャットボットの間に恋愛的・情緒的なつながりが生まれつつも、関係性が明確に定義されないまま継続する状態を指す。


Euronewsが紹介したマッチングアプリhappnのレポートによれば、英国の回答者の約4割が「パートナーがAIと親密な関係を持つこと」を肯定的に捉える一方、16%はそれを「感情的浮気」とみなしているという。AIとの関係性は、すでに単なる技術利用ではなく、恋愛や親密さの延長線上で評価され始めている。

本稿では、AIシチュエーションシップがなぜ2026年の恋愛トレンドとして注目されているのか、その背景と意味を整理し、AIと恋愛の境界が揺らぐ時代の社会的含意を考察する。

「AIシチュエーションシップ」とは何か

「シチュエーションシップ(situationship)」とは、明確な恋人関係ではないものの、感情的なつながりが続いている曖昧な関係性を指す言葉だ。近年の恋愛文化では、「恋人」「パートナー」といった関係性や将来の約束を避けながら、親密さだけを維持する関係として語られてきた。

AIシチュエーションシップは、この構造が人とAIの関係に拡張されたものだ。ユーザーはAIと日常的に会話し、相談し、ときに恋愛的な言葉を交わす。しかし、その関係は法的にも社会的にも定義されておらず、「恋人」「浮気」「友人」といった既存のカテゴリーには収まらない。

重要なのは、この曖昧な関係性が一部の特殊な利用者に限られた現象ではなくなりつつある点だ。肯定、違和感、不安、倫理的懸念が混在し、評価が割れていること自体が、AIシチュエーションシップが社会的な議論の対象になり始めていることを示している。

なぜAIシチュエーションシップは2026年の恋愛トレンドとして注目されているのか

AIシチュエーションシップが2026年の恋愛トレンドとして注目されている背景には、AI技術の進化だけでなく、恋愛や親密な関係をめぐる価値観の変化がある。とりわけ、人間同士の関係において、関係性を明確に定義しないまま親密さを保つことが一般化しつつある点が、この現象を後押ししている。

近年、恋愛関係においても「恋人」「パートナー」といったラベルや、将来の約束をあえて明示せず、感情的なつながりだけを維持する関係が珍しくなくなってきた。こうした関係は、人間同士の間で語られてきた「シチュエーションシップ」と呼ばれる状態であり、AIとの関係にも自然に拡張されている。


happnの調査では、AIとの親密な関係を肯定的に捉える人と、「感情的浮気」と感じる人の評価が分かれている。この分断は、AIが単なる便利なツールではなく、恋愛や親密さと同じ文脈で受け止められ始めていることを示している。重要なのは、ここで問われているのがAIの性能ではなく、「その関係をどう定義するのか」という価値判断である点だ。

また、AIとの関係は、恋人や結婚といった明確なゴールを前提としない。AIは感情的な支えや会話の相手として機能しながらも、排他性や責任、将来設計を要求しない。この「定義されない親密さ」は、恋愛に対する心理的負荷や不確実性を避けたいと感じる人々にとって、現実的で受け入れやすい形となっている。

こうして見ると、AIシチュエーションシップは、AI技術の進化が直接生んだ新奇な現象というよりも、すでに変化していた恋愛観や親密さのあり方が、AIという存在と結びついた結果として浮かび上がってきたものだと言える。その意味で、2026年の恋愛トレンドとして注目されているのは、AIそのものではなく、AIを通じて可視化された関係性の変化なのだ。

AIが恋愛にもたらす影響と、私たちの向き合い方

AIシチュエーションシップをめぐる議論は、単なる恋愛トレンドの話にとどまらない。そこには、心理的影響、倫理的な線引き、そしてテクノロジーと人間関係の将来像が複雑に絡み合っている。

心理的な側面では、AIが感情的な支えとして機能すること自体は否定されるべきではない。孤独感の緩和や感情整理の手助けとして、AIとの対話が一定の役割を果たす可能性はある。一方で、過度な依存は、現実の人間関係を築く意欲や機会を狭めるリスクも伴う。
AIは常に肯定的で、関係が破綻することもないため、摩擦を含む人間関係から距離を取る誘因になる可能性があるのだ。

倫理的な観点では、「感情的浮気」という言葉が象徴的だ。身体的接触がなくても、感情の独占や親密さが問題視される時代において、AIとの関係をどこまで許容するのかについて、明確な社会的合意は存在しない。AIは責任を負わず、関係を終わらせても傷つかない存在であるが、その非対称性をどう受け止めるかは、個人の判断に委ねられている。

同時に、AIを一方的に「人間関係の代替」として捉える必要もない。AIは、コミュニケーションの練習相手として機能したり、自分の感情を言語化する補助ツールになったりする可能性もある。AIとの対話を通じて自己理解が深まり、結果として人間関係が改善されるケースも考えられる。

重要なのは、AIを恋愛や親密さの「置き換え」として閉じるのではなく、どのような位置づけで関係に組み込むのかを意識的に考えることだ。テクノロジーが関係性の形を広げる時代において、AIとの距離感や役割をどう設計するのかは、利用者だけでなく、開発者や社会全体に問われている。

関係を定義するのは誰か

AIシチュエーションシップは、突飛な未来像ではなく、すでに始まりつつある現実だ。それは、恋愛の形が変わったというよりも、私たちが「親密さ」や「関係性」をどのように定義してきたのかを問い直す現象でもある。

AIとの関係は、法や制度によって定義されていない。
一方で、当事者にとっては確かな感情や意味を持つ場合もある。では、その関係が「恋愛」なのか、「浮気」なのか、それとも単なる対話なのかを決めるのは誰なのだろうか。テクノロジーが関係性の形を拡張する時代において、私たち自身がどこに境界線を引くのか。その判断そのものが、これからの社会に問われているだろう。

文:中井 千尋(Livit
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