オンラインショッピングは今や生活のインフラと言えるまでになった。欲しいものを検索し、比較し、すぐに購入できる。
サイズが合うか不安でも「合わなければ返品すればいい」と考えられるため、服や靴といった試着が必要な商品までネットで買うことが当たり前になっている。

しかし、その便利さの裏で、返品が生むコストは積み上がっている。返品には配送が伴い、輸送回数が増えることでCO2排出量は増加する。段ボールや緩衝材といった梱包資材も消費される。さらに見落とされがちなのが、返品された商品が必ずしも再販されないという点だ。汚損やタグ欠損があれば新品として戻せず、季節商品なら販売タイミングを逃して値下げや廃棄につながる可能性もある。

返品は消費者にとって合理的な選択であり、権利でもある。だがそれが習慣化し、前提として利用されるようになったとき、果たしてそれは持続可能なのだろうか。オンラインショッピング時代の「サステナブルな買い物」とは何かを考える必要がある。

ASOSの「シリアルリターナー課金」が投げかける問い

このテーマを象徴する動きとして注目されているのが、イギリスのファッションEC大手ASOS(エイソス)による返品ポリシーの変更だ。ASOSは返品率が極端に高い一部の顧客に対し、返品時に手数料を課す仕組みを導入した。

対象は、過去1年で3回以上購入し、返品率が70%以上の利用者で、返品1個口あたり3.95ポンドが返金額から差し引かれる。さらに返品率80%かつ5回以上注文する“常習者”には、通常の配送料に加えて同額の手数料が追加される。
返品率は12カ月単位で継続的にモニタリングされ、利用者もアカウント画面で確認できる。なお、1回の注文で40ポンド以上の商品を手元に残せば手数料は回避でき、不良品や誤配送については従来どおり無料返品の対象となる。

重要なのは、返品を全面的に禁止しているわけではない点である。ASOSは「大多数の返品無料を守りつつ、少数の過度な返品行動がビジネスモデルに与える負担を抑える」狙いを掲げる。返品無料は長く顧客体験を高める武器だったが、返品が増えすぎれば企業のコスト負担も環境負荷も膨らむ。ASOSの判断は、オンライン消費のあり方が転換点に差しかかっていることを示している。

返品が増える背景――「試して返品する買い物」へ、そして実店舗の縮小

返品が増えた背景には、買い物のかたちそのものの変化がある。ネットでは質感やサイズ感を完璧に把握しにくい。そこで消費者は、複数サイズ・複数色をまとめて購入し、合わなかったものを返す戦略を取る場合がある。

加えて、SNSやインフルエンサー文化も影響している。購入品を大量に並べて紹介する動画や、トレンド商品を次々と試す投稿は、消費のスピードを加速させる。結果として、手元に残す量よりも“試す量”が増え、返品が常態化しやすくなる。

さらに見逃せないのが、実店舗の縮小だ。
以前は店舗で試着し、色味や素材感を確かめ、スタッフのアドバイスも受けながら「失敗しない買い物」ができた。だが近所の店舗が減れば、その前提が崩れる。下見をしてから買うことが難しくなり、結果として「いったん買ってみて、合わなければ返品する」という行動に寄りやすくなる。

こうしてネットショッピングは「試して、合わなければ返す買い物」へと変質してきた。便利さが最大化された一方で、返品の負担は企業にも環境にも波及している。

サステナブルな買い物とは何か――「我慢」ではなく「設計」

サステナブルという言葉は、ときに「買わない」「我慢する」といった禁欲的なイメージと結びつきやすい。しかし、オンラインショッピングが社会インフラと呼べるほど一般化した以上、個人の精神論だけで問題を解決するのは難しい。

必要なのは「行動の設計」である。ASOSの仕組みは、返品の権利を維持しつつ、極端な返品行動にだけコストを発生させることで、消費者の意思決定に“考えるきっかけ”を差し込む。禁止ではなく、無理なく望ましい行動へ誘導する発想だ。

サステナブルな買い物とは、消費者だけの努力では成立しない。企業の仕組みや社会のルールとセットで支えられるべきものである。

消費者ができること――返品を減らす「選び方」

消費者側でできることもある。ポイントは「返品しない努力」ではなく、「返品が起きにくい選び方」に寄せることだ。


例えば、サイズ表を丁寧に確認する。レビューを読む。モデルの身長や着用サイズを参考にする。こうした行動は地味だが、返品率を下げる確実な方法である。複数サイズを買う場合も「どちらかは返す」前提で選ぶのではなく、手持ちの服と寸法を比べて可能性の高い方に絞る工夫ができる。

また、衝動的な購入が増えるほど、返品も増える。カートに入れて少し時間を置く、ウィッシュリストで寝かせるなど、ワンクッション挟むだけでも無駄な購入は減りやすい。

サステナブルな買い物とは、正解を押し付けるものではない。自分が納得できる選択を増やすことでもある。

企業側に求められる改善――返品を減らす責任

返品問題は消費者の責任だけではない。企業側にも改善余地は大きい。写真の色味が違う、素材感が伝わらない、サイズ表が分かりにくいといった情報不足は、返品を増やす原因になりうる。返品率を下げたいなら、購入者が判断できる情報を増やすべきだ。


さらに、サイズ提案の精度を上げる仕組みや、返品後の検品・再販ルートを整えるなど、返品を前提にしたサプライチェーンの設計も求められる。返品無料を続けるのか、条件付きにするのか、ASOSのように一部ユーザーへ課金を促すのか。企業は顧客体験と環境負荷のバランスを取りながら、仕組みを再設計する局面にある。

便利さを再定義する時代へ

オンラインショッピングの価値は揺るがない。時間を節約し、選択肢を広げ、生活を助けてきた。しかし便利さが行き過ぎると、社会は調整を求める。ASOSの「シリアルリターナー課金」は、その象徴と言える。

返品は悪ではない。返品は権利であり、信頼を支える仕組みでもある。ただし返品を前提とした大量購入が常態化すれば、環境負荷もコストも増え、その代償はどこかで支払われる。

そして、サステナブルな買い物とは、買わないことではない。買うことの背景を想像し、無理のない範囲で意思決定を少し変えることだ。
そしてその変化は、企業の仕組みとともに進められるべきである。

「何を買うか」だけではなく、「どう買うか」。返品を巡るルールが変わり始めた今、私たちの買い物も次のスタンダードへ移行しつつある。

文:中井 千尋(Livit
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