マーケティングは今、大きな転換点に差しかかっている。これまでのように「いかに多くの人に認知されるか」「どれだけ効率よく購買につなげるか」といった指標だけでは、ブランドが選ばれ続けることが難しくなりつつあるのだ。


TikTokが発表した最新のトレンド予測レポート「TikTok Next 2026」は、その変化を象徴する内容だ。そこでは、ユーザーが単なる受動的な視聴者ではなく、共感できる価値や意味を自ら探しにいく存在へと変化していることが示唆されている。

TikTokは単なる動画プラットフォームではない。検索・コメント・コミュニティを起点に文化が派生し、ユーザーの関与によってブランドとの接点が生まれる場である。こうした環境を踏まえ、TikTok Next 2026では2026年に向けてマーケターが注目すべき3つの潮流が提示された。

それが「Reali-TEA」「Curiosity Detours」「Emotional ROI」である。

以下では、この3つを整理しながら、次世代マーケティングの核心を読み解いていく。

1.Reali-TEA:飾らないリアルが共感を生む

最初のトレンドは「Reali-TEA」だ。これは“作られた理想像”よりも、“等身大のリアル”が支持される流れを指している。

SNSマーケティングでは、長らく洗練されたビジュアルや完成度の高い広告表現が重視されてきた。しかし、TikTokでは近年、完璧に整った広告よりも、生活の中の本音や自然体の瞬間が強く共感される傾向がある。

たとえば、化粧品ブランドであれば、「美しく仕上がったモデルカット」よりも、「寝不足の日にこれだけは助かった」「正直期待してなかったけど良かった」といったリアルな体験談が信頼を生む。作り込みよりも“距離感の近さ”が重要になる。


また、飲食やD2Cブランドでは、新商品開発の試行錯誤や社員の裏側を見せるコンテンツが支持されやすい。ブランドが企業として語るのではなく、人間の集まりとして語ることで共感が生まれる。共感は広告表現の技巧ではなく、「本音に近いかどうか」で生まれる時代になっている。

2.Curiosity Detours:好奇心の回り道がブランド接点を広げる

2つ目の潮流が「Curiosity Detours」だ。

直訳すれば“好奇心の回り道”。これはユーザーが偶発的な発見や深掘り体験を通じてブランドと出会う行動を指している。

TikTokでは、ユーザーは動画を流し見するだけでなく、気になったキーワードを検索し、関連動画をたどり、コメント欄を読み込むことで理解を深めていく。つまり、TikTok上では「探索」が行動の中心になりつつある。

この前提に立つなら、ブランド側も「検索される言葉」を設計する必要がある。旅行ブランドなら「#韓国ホテルおすすめ」「#一人旅モデルコース」、食品なら「#簡単夜ごはん」「#コンビニアレンジ」など、生活者が探す言葉を軸に接点を作るべきだ。

さらに、TikTokではコメント欄が“第2のメディア”になる。「これどこで買える?」「別の色も見たい」といった声に対し、ブランドが返信動画で拾えば、コメント起点でコンテンツが増殖していく。

探索の回り道は商品カテゴリを越える。
家電ブランドが「掃除ルーティン」文化で伸びたり、文房具ブランドが「勉強Vlog」界隈で支持されたりするように、ブランドは自社領域の外にある文化と接続することで新たな発見の対象になる。

探索されるブランドとは、単に目立つブランドではなく、深掘りされる価値を持つ存在である。

3.Emotional ROI:購買を動かすのは感情的価値

3つ目が「Emotional ROI」である。

TikTok Next 2026は、価格や機能以上に「そのブランドがどんな感情を与えてくれるか」が購買判断を左右する時代が来ていると指摘する。

ユーザーが買うのは商品そのものではなく、その商品によって得られる気分や安心感、自己肯定感である。

従来の訴求は「このシャンプーは保湿成分が豊富」だった。しかし、これからは「これを使うと自分を大事にしている感じがする」という情緒が購買を動かす。

家具ブランドならサイズ説明よりも、「部屋に帰った瞬間ちょっと嬉しくなる」という生活の感情を描くことが重要になる。スターバックスが単なるコーヒーではなく“自分の時間”を提供しているように、ブランドは感情価値を中心に据える必要がある。

さらに、感情価値はコミュニティと結びつく。スポーツブランドが“挑戦する人の場”になるように、ブランドが「好きな人同士の所属先」を提供できれば、Emotional ROIはより強固になる。

2026年に向けてブランドが備えるべきこと

TikTok Next 2026が示す3つの潮流は、それぞれ独立した現象ではない。共感が生まれ、探索が起こり、感情価値が購買を動かす――この一連の流れが、次世代マーケティングの基本構造になりつつある。

ブランドに求められるのは、個別施策の最適化ではなく、この構造を前提とした設計である。


まず、生活者のリアルに寄り添い、共感される語り口を持つこと。

次に、検索やコメントを起点とした探索導線を整えること。

そして最後に、商品価値を“感情の体験”として提示し、コミュニティの中で共有される存在になることだ。

広告を届けるのではなく、文化の中で語られるブランドへ。この転換に適応できるかどうかが、2026年の競争力を左右する。

共感され、選ばれる存在へ

2026年、ユーザーは単なる視聴者ではなく、意味を探し、共感し、感情で選ぶ存在になる。TikTokはその変化が最も先鋭化しているプラットフォームだ。

マーケターに求められるのは、広告を最適化すること以上に、文化の中で共に語られるブランドになることだろう。TikTok Next 2026が示す未来は、マーケティングの本質が「共感」と「関与」に戻っていく未来でもある。

ブランドはその未来に向けて、今こそ“選ばれる理由”を感情の側から問い直す必要がある。

文:中井 千尋(Livit
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