生成AIにより写真家の58%が仕事喪失 1万人調査が示す“静かな雇用崩壊”
「生成AIは仕事を奪うのか?」という問いは、すでに少し遅れているのかもしれない。正確に言えば、生成AIはすでに仕事を奪っている。


しかもそれは遠い未来の話でも、一部の極端な事例でもない。いまこの瞬間、特定の職種でははっきりと数字として現れているのだ。

本記事で扱うのは、生成AIが労働市場に与えている影響についての「予測」ではない。実際に起きている「変化」である。

1万人超の実務者を対象にした調査が示すもの

英国の作家や音楽家、写真家、イラストレーター、俳優などを代表する職能団体のIndependent Society of Musicians(以下、ISM)は、2022年から2025年にかけて大規模調査を行った。

調査対象となったのは、これらの分野で生計を立てている1万人以上のプロフェッショナル。生成AIによる雇用・収入への影響を、複数年・複数調査を突き合わせ、定量データと自由記述の証言を組み合わせて分析している。

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ISMが実施した大規模調査「Brave New World?」
https://www.ism.org/brave-new-world/#read-the-report同調査が示しているのは、「AIが将来仕事を奪うかもしれない」という可能性ではない。すでに失われた仕事の割合である。

たとえば、写真家では58%が「生成AIを理由に仕事を失った、もしくはキャンセルされた経験がある」と回答している。イラストレーターでも、32%が同様の影響を受けたと答えた。音楽分野では、73%が「このまま無規制でAIが使われ続ければ生計を立てることが難しくなる」と感じている。

さらに、注目すべきなのは仕事の喪失が必ずしも「ゼロか100か」ではない点だ。
多くの場合、先に起きているのは収入の目減りなのである。

同調査によれば、写真家は平均で年間約1万4,400ポンド(約300万円)、イラストレーターでも約9,200ポンド(約190万円)の収入減を経験している。これは副業レベルの話ではなく、本業としての持続可能性を揺るがす水準だ。

消えているのは「花形の仕事」ではない

ここで重要なのは、どのような仕事が失われているのかという点だ。調査結果を詳しく見ると、真っ先に消えているのは、業界のスターやトップ層の仕事ではない。若手や副業層が担ってきた、比較的小規模だが継続的な仕事である。

写真であれば、広告用の素材撮影やストックフォト。イラストであれば、書籍の挿絵やマーケティング用のビジュアル。音楽であれば、CMや動画向けの短尺音源やセッションワーク。いずれも派手さはないが、キャリア初期の生活を支える仕事たちだ。

生成AIは、こうした業務と相性がいい。一定水準の品質が求められ、スピードとコストが優先されるため、人間の成果物は「検討対象にすらならない」ケースが増えているのだ。

同調査には、「理由の説明もなくキャンセルされた」「AIで代替することにしたと言われただけだった」といった証言も多く含まれている。


仕事が消えた先で起きている「価値の移動」

労働市場の変化をより正確に理解するには、「仕事がなくなった」という事実だけでなく、「お金がどこへ移動しているのか」を見る必要がある。

同調査では、写真分野だけでも英国全体で数億ポンド規模の価値が、人間の労働からAI関連企業へと移転している可能性が指摘されている。個々のクリエイターから見れば「少しずつの減収」だが、業界全体で積み上げると、無視できない金額になるだろう。

これは単なる技術革新ではない。労働によって生まれていた価値の配分構造が変わりつつあるということだ。

「AIを使える人が勝つ」は万能ではない

生成AIをめぐる議論では、「AIを使える人材になればいい」という言説がよく聞かれる。確かに、AIを活用して生産性を高めている人は存在する。しかし、同調査が示しているのは、「使えるようになる前に、仕事そのものが消えるケースがある」という現実なのだ。

さらに、AI関連の仕事に関わった人の多くが、必ずしも有利な条件で関与できているわけではないことも明らかになっている。

音楽分野では、AI学習やデータ提供に関わった経験を持つ人はごく一部に限られ、実際に報酬を受け取った人はさらに少数だった。契約内容が不透明なまま、後から再利用されるリスクを抱えるケースも報告されている。

「AIに適応する側」になれば安泰、という単純な構図は成り立たない。労働市場の入口そのものがすでに変わり始めているのである。

AIに仕事を奪われるのは「一部の業界の話」ではない

この問題を、クリエイター業界特有の話として片づけるのは簡単だ。しかし見方を変えれば、クリエイター業界は生成AIが労働市場に及ぼす影響が最初に可視化された分野にすぎないとも言える。


どの業界でも最初に影響を受けるのは、比較的若く、定型性の高い業務だ。そこから徐々に中核業務へと波及するという構造自体は、過去の技術革新でも繰り返されてきている。

ただし、生成AIには、過去の技術革新とは決定的な違いがある。変化のスピードが速いため、仕事が「減っていく」のではなく、「ある日突然なくなる」点だ。しかも、その仕事が元に戻る保証はない。

ビジネスパーソンにとってのAIリテラシーとは何か

生成AI時代のビジネスリテラシーは、単にツールを使いこなす能力ではない。どの技術が、どの仕事を、どの順番で置き換えているのかを見極める力だ。

どのようなスキルを積むか。どのような仕事を選ぶか。どのようなAIと付き合うか。その判断は、キャリアの安定性に直結する。同調査が示しているのは、「AIは便利だから使う」という姿勢だけでは不十分であるということだ。


生成AIによる雇用への影響は、もはや未来の話題ではない。すでに労働市場の形を変え始めている現実である。その変化を直視することが、これからの仕事選びにおいて最初の一歩になる。

文:岡 徳之(Livit
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