AI時代に“信頼される価値”をどうつくるか。CNNが歩むメディア・広告・クリエイティブの未来
生成AIの進化により、ニュースや広告など、あらゆるコンテンツがかつてないスピードと量で生み出されている。一方で、フェイクニュースや誤情報、過剰な広告表現といった社会的リスクも顕在化し、私たちはこれまで以上に「信頼に値するコンテンツ」を見極める力を求められている。


こうしたなか、グローバルメディアのリーディングカンパニーであるCNNは、メディアと広告の役割をどう捉え直しているのだろうか。

CNNインターナショナル・コマーシャルの中核を担うシニア・バイス・プレジデントのロブ・ブラッドリー氏と、クリエイティブ領域を統括するグローバル顧客ソリューション担当 シニア・バイス・プレジデントのジェームズ・ハント氏へのインタビューを通じ、AI時代におけるメディアの責任、広告の価値、そしてクリエイティビティの未来を探っていく 。

AI時代におけるメディアの価値とは?

生成AIの普及により、コンテンツ制作のハードルは低くなった。誰もが情報発信者になれる時代において、メディアの存在意義は速報性や情報量ではなく、「事実であるか」「信頼できるか」「価値ある情報か」という点へとシフトしている。

英国オックスフォード大学「ロイター・ジャーナリズム研究所」の調査でも、AI主導のニュースへの安心感は12%にとどまる一方で、人間が制作したニュースへの安心感は62%にのぼっている。

世界規模でニュースを届けるCNNは、AI時代に自社の価値をどのように位置づけているのか。

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ブラッドリー氏「CNNの価値は『信頼と事実に基づくジャーナリズム』です。私たちは実際に現場に赴き、テレビ、デジタル、SNSなどのマルチメディアプラットフォームを通じて世界に事実を伝えています。45年前、CNNがケーブルテレビ技術を活用して世界初の24時間ニュースチャンネルとなったように、AIを含む最新技術も積極的に取り入れていく方針です」

さらに同氏は、「最新技術を取り入れた現代的な報道機関であっても、『信頼と事実に基づくジャーナリズム』の価値を決して見失ってはいけない」と続ける。

真偽不明な情報が氾濫するAI時代だからこそ、CNNのように長年にわたり現場取材を積み重ねてきた報道機関の存在は、私たちが情報を取捨選択するうえで重要な指標となる。

影響力を広げるオムニチャネル展開

メディアの在り方や情報の取り扱いにおける倫理観などが問われるなか、業界のリーディングカンパニーとしてのCNNの役割は一層大きくなっている。その影響力を示すのがオーディエンスの数だ。

ブラッドリー氏「現在、CNNのデジタル資産には約1億2,000万人が訪れ、ポッドキャストの月間リスナーは約1,100万人、SNSの総フォロワー数は約3億人にのぼります。この数字は、信頼できる情報を提供する企業としての規模と、その情報に対する強い信頼を示すものです」

200以上の国と地域 で視聴可能なCNN。
さらにSNSの特性上、フォロワー数を超えて情報が拡散される可能性も高い。その影響力はまさに世界規模といえる。

「オーディエンスの存在こそが社会への影響力そのものだ」と語るブラッドリー氏。クリエイティブ・広告制作においても、影響力のある人々に “何をどのように届けるか”が鍵を握る。

ブラッドリー氏「CNNは、食卓での会話を活性化させ、政府の政策形成に影響を与え、人々の日々の意思決定を支えるオーディエンスを抱えています。クライアントがCNNで広告を出す際に期待しているのは、私たちが築いてきた信頼です。ブランドコンテンツやスポンサーシップを通じて協業すれば、影響力のあるオーディエンスに対して、ブランドストーリーを一貫したかたちで、効果的かつ大規模に伝えることができます」

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こうした影響力のあるオーディエンスのニーズに合わせて進化してきたのが、現在のオムニチャネルマーケティングだ。CNNはケーブルテレビにとどまらず、ポッドキャストやSNSなど、複数のプラットフォームでニュースやコンテンツを展開している。

ブラッドリー氏「人々がどのようにメディアを消費するか、そして私たちがどのように最新技術を取り入れるかは、時代とともに変化します。私たちのミッションは、時代に合ったかたちで情報を届け、エンゲージメントを高めることです。視聴者や読者は自らプラットフォームを選び、学んで、世界を理解する——。その結果、より良い意思決定や暮らしにつながるよう、情報を提供し続けたいと考えています」

メディアはクライアント(広告主)とのパートナーシップによって成り立っている。
そのため、選ばれ続ける存在であることが不可欠だ。クライアントの多様なニーズに応えるためにも、最新かつ複数のプラットフォームへの対応が求められている。

ブラッドリー氏「ビジネスの観点からも、新しいプラットフォームを積極的に取り入れることが必要です。広告展開においても、オムニチャネルマーケティングは極めて効果的だと考えます」

人間を中心に。AI活用におけるCNNの流儀

CNNでは現在、有識者で構成されるAIカウンシル(評議会)を設置し、定めたガイドラインに基づいてAIの活用方法や運用ルールを管理している。

CNNインターナショナル・コマーシャルでは、「SAM(Sentiment Analysis Moderated)」というツールを用い、視聴者・読者のトレンドや行動パターンを分析。記事や動画の内容がポジティブかネガティブかといった感情の傾向を把握し、コンテンツ制作に活かしているという。

また、同社ではインハウスのクリエイティブスタジオ「CNN Create」を展開しているが、クリエイティブ・広告制作において、AIをどのように活用しているのだろうか。ハント氏に聞いた。

ハント氏「カラーグレーディングや編集など、主にポストプロダクションの工程でAIを活用しています。作業スピードと効率が大幅に向上し、クライアントのストーリーをより迅速に届けられるようになりました」

もっとも、すべてをAIに委ねることはない。CNNが大切にする“ストーリーテリング”は、ボタンひとつで生み出されるものではなく、“現場”からしか生まれないからだ。


AI時代に“信頼される価値”をどうつくるか。CNNが歩むメディア・広告・クリエイティブの未来
ハント氏「私たちの哲学は、人々の心に響く人間味あふれるストーリーを生み出すことです。そのため、カメラの前でAIを使うことはありません。クライアントも実際の場所に足を運び、そこでの体験を通じたリアルなストーリーを求めています。それはAIにはできないことです」

生成AIによって誰もがコンテンツをつくれる時代、改めてプロフェッショナルの存在意義が問われている。

ハント氏「CNNでは人間に焦点を当てています。物事の背景にある興味深いストーリーを伝えるためには、対象となる人々と実際に向き合い、関係を築くことが不可欠です。また、この価値をクライアントと共有することも重要です。研究によれば、感情的なつながりを生むコンテンツは記憶に残りやすく、購入意欲やブランドへの忠誠心、ひいては顧客ロイヤルティの向上につながるとされています。これは、あらゆるクライアントが目指す成果でしょう」

AI時代も変わらないメディアの本質

生成AIをめぐっては、「どう使いこなすか」という議論が注目される。しかし、最も重要なのは、人々が何を求めているのかを見誤らないことだろう。CNNが一貫して大切にしているのは、信頼や共感といった人間から生まれる感情やストーリーである。この価値観は、技術がどれほど進化しても、メディアが果たすべき本質的な役割として揺らぐことはない。


ブラッドリー氏「私たちは今後も、AIをはじめとする最新技術を積極的に取り入れていきます。しかし、オーディエンスが求めているのは人間がつくったコンテンツです。私たちコマーシャル部門も同じ考えを持っています。人間が主導するコンテンツは、将来的にますます高い価値を持つでしょう」

ハント氏「AIが制作した動画や映画には、素晴らしいものも多くあります。一方で、私たちのクライアントは、人間がしっかりとファクトチェックを行い、責任を持ってつくったコンテンツに魅力を感じています。AIがつくるコンテンツと人間がつくるコンテンツには、それぞれ求められる場所がある。そして、人間がつくるコンテンツがここに存在する。それこそが私たちの強みです」

AI時代に“信頼される価値”をどうつくるか。CNNが歩むメディア・広告・クリエイティブの未来
最後に、この急速に変化する環境のなかで、CNNが描く未来について尋ねた。

ブラッドリー氏「私たちは先頃、ストリーミング、モバイルファースト、縦型動画に注力したデジタル製品・サービスに大規模な投資をすると発表しました。さらに、広告やその他のビジネスを支えるサブスクリプションも展開予定です。イノベーションは私たちの活動の中心にあります。これからも投資を続け、ニュースやコンテンツがどうあるべきか、常にメディアの在り方を再構築していきたいと考えています」

ハント氏「私たちは『Global Perspectives』という新しいイベントを立ち上げます。
ジャーナリストがパートナーやクライアント、関心を持つ人々の前で、ゲストやスピーカーにライブでインタビューを行うイベントです。人と人が対面で語り合う場は、CNNやクライアントの真摯な姿勢を示す機会になるでしょう」

AIがどんなに進化しても、信頼や共感は人間が生み出すもの。CNNの姿勢は、この本質的な価値を改めて示している。あくまでも人間が主体であること。それは、記事を発信する私たち自身も忘れてはならない。

文:安海 まりこ
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