「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
元祖鯛めし
来年(2022年)で150年を迎える日本の鉄道。

N700S新幹線電車「ひかり」、東海道新幹線・新富士~静岡間
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾・東海軒編(第1回/全6回)
東京から約1時間、富士山を横目に通過した東海道新幹線「ひかり」号が静岡駅を前にスピードを落としていきます。現在、毎時2本の「ひかり」のうち、東京03分発・42分着の列車が静岡と浜松、一部は三島または熱海にも停車します。とくに静岡では「のぞみ」の通過待ちを行うため、「ひかり」でありながら約5分停まります。旅慣れた方のなかには、この5分を使って、静岡の名物駅弁を買い求める人もいます。

元祖鯛めし
静岡の名物駅弁と言えば、やっぱり、明治30(1897)年発売の「元祖鯛めし」(750円)。誕生から124年の歴史を誇る、日本のご当地駅弁のパイオニア的な存在です。いまも愛されている「鯛めし」は、いったいどのように作られているのか? 駅弁膝栗毛恒例企画「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第29弾は、「株式会社東海軒」にお邪魔して、明治時代以来続く、日本の駅弁文化と新たな取り組みについて、たっぷりと伺いました。

東海軒
明治22(1889)年の東海道本線全通直後から、静岡駅の駅弁を手掛けてきた「東海軒」。本社は以前、静岡駅近くにありましたが、再開発に伴い、いまは静岡市駿河区の登呂(とろ)に移りました。

鯛めし製造風景(東海軒提供)
桜飯(静岡における醤油ごはん)の上に、鯛のそぼろが載ったシンプルな「元祖鯛めし」。最初は「興津鯛」とも呼ばれた、興津(おきつ/現・静岡市清水区)沖で獲れるアマダイを使っていたそうですが、いまは真鯛を使い、じつに「3日」をかけて作られていると言います。

鯛めし製造風景(東海軒提供)
1日目はそぼろを甘く味付け、2日目は丸々寝かし、そして、3日目に火を入れて、大釜でじっくりと炊き上げていきます。

鯛めし製造風景(東海軒提供)
鯛そぼろの美味しさのカギはホロホロ感! 伝統のレシピはそのままに、その日の気温や湿度に合わせて、職人さんの技によって味付けを調整していると言います。もちろん、鯛そぼろは、桜飯(醤油ご飯)の上に1つ1つ手作業で盛り付けられていきます。

鯛めし製造風景(東海軒提供)
ちなみに、桜飯をはじめとした東海軒の弁当に使われるご飯は、毎年約2ヵ月にわたって、社内で行われる“新米試食会”を通過したオリジナルブレンドのお米が使われています。

鯛めし製造風景(東海軒提供)
折に鯛めしが詰められ、香の物が入れられると、鯛の絵が描かれた紙蓋が載せられます。黄色い紐が機械によってかけられ、割り箸が挟み込まれて、「元祖鯛めし」の完成です! このあと、配送車で静岡駅の売店等へ運ばれていく他、昼間は工場の前にある売店で直売も行われています。この売店では弁当の在庫が足りなくなると、工場へ追加注文が入ることもあり、その場合は出来立ての弁当をいただくことができるかも!?
元祖鯛めし
【おしながき】
・桜飯
・鯛そぼろ
・たくあん漬け
自然な甘みの鯛そぼろと、ふんわり冷めても美味しい桜飯のバランスが絶妙な「元祖鯛めし」。最初は“子どもでも食べられる駅弁”として開発されたと言いますが、時代が下ったいまでは、明治の質実剛健な空気が詰まった「タイムカプセル」と言ってもいい存在です。

元祖鯛めし
そんな元祖鯛めしも、コロナ禍で人の流れが抑えられ、なかなかいただきにくい状況です。そこで東海軒では、全国の皆さんに駅弁文化とともに鯛めしを届けるべく、約5ヵ月をかけ、冷凍技術を確立しました。しかし、商品化には大きな設備投資が必要です。そんな折、木版印刷技術を継承する京都の印刷業者・藤澤萬華堂と接点ができたことをきっかけに、冷凍駅弁実現のため、木版手刷印刷による元祖鯛めしの「復刻掛け紙」をリターンとした、クラウドファンディングを立ち上げることになりました。

復刻される明治30年代の掛け紙(東海軒提供)
復刻されるのは、明治30年代に使われていた元祖鯛めしの掛け紙。職人が写真をもとに彫刻刀で彫り上げた版木によって刷られた復刻掛け紙が、冷凍の元祖鯛めしと一緒に、クラウドファンディングの出資者に届きます。東海軒によると、全国の「駅弁」を愛する皆さんに出資を仰ぎながら、冷凍駅弁の商品化を何とか実現して、コロナ禍の苦境を打開する契機にしたいと言います。

373系電車・特急「ふじかわ」、東海道本線・清水~興津間
クラウドファンディングは、9月10日から始まり、10月29日までを予定しています。駅弁の掛け紙は、デザイン性がある上、その時代のキャッチフレーズが入ることもあって、「時代を映し出す鏡」と言ってもいい存在。今回の復刻の取り組みは、歴史的な価値も、大きいものと思われます。次回は東海軒のトップに話を伺いながら、静岡がリードしてきた日本の「駅弁文化」について、よりディープに掘り下げてまいります。
https://www.makuake.com/project/ekiben/
連載情報

ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/