「JPSA60年記念 World para Athletics公認2025ジャパンパラ陸上競技大会」が7日から2日間にわたり、宮城野原公園総合運動場 弘進ゴム アスリートパーク仙台で開かれた。パリ2024パラリンピック(以下、パリ2024大会)で活躍した選手や東京2025デフリンピックの日本代表内定選手らを含む国内トップアスリートがエントリーし、頂点を争った。
石山、高橋らが不調を抱えながらも次につながるパフォーマンス
男子走幅跳(視覚障害T12)の日本記録保持者でパリ2024大会5位の石山大輝(トヨタ自動車)は、3回目の跳躍で6m16をマークしたあと途中棄権した。4月の日本選手権で右脚に軽度の肉離れを発症。今大会はコンディション調整を優先し、前半の3回のみと決めて臨んでいたという。2日目の男子100mも棄権した。ただ、怪我はほぼ治っている状態で今月は海外遠征も予定しているといい、復活の大ジャンプに期待がかかる。
世界選手権でも活躍が期待される男子走幅跳(T12)の石山大輝
男子走幅跳(視覚障害T13)は福永凌太(日体大)が6回目の跳躍で7m08を跳び、自身が持つアジア記録を2年ぶりに塗り替えた。パリ2024大会では400mで銀メダルを獲得し、走幅跳は7位。大会で走幅跳に挑戦するのはパラリンピック以来だったが、1本目で9月末に開幕する世界選手権(インド)の派遣基準記録を突破するなど、好パフォーマンスを披露した。今季から自転車競技にも挑戦している福永。自転車に乗る機会は月に2~3回程度ではあるものの、「やるほどに上達するので楽しい」と話し、「フィジカル的な相乗効果があると感じている。これからも続けていきたい」と、笑顔を見せていた。
パラリンピアンがそろう男子やり投(上肢障害F46)は、パリ2024大会6位で日本記録保持者の高橋峻也(トヨタ自動車)が1投目で57m35を記録し、優勝を果たした。同じくパリ2024大会7位の山﨑晃裕(順天堂大職員)も3投目で56m87と高橋の記録に迫るが、及ばなかった。

男子やり投(F46)の高橋峻也は力強いフォームで1投目から好成績を残した
前述の石山は、高橋らが所属企業のトヨタ自動車のサポートや応援を受けて競技に臨む姿を見て、4月に入社した。高橋は「石山選手から“憧れます”と言われていたので、入社してくれた時は嬉しかった。パリでの彼の活躍にも刺激をもらった」と話す。また、やり投の助走練習はスプリンター・石田駆の走りを参考にすることも多いといい、「練習場所が同じなので、石田選手ともコミュニケーションを取り、より効率的な助走を追求している。相乗効果でみんなでレベルアップしていけたら」と語った。
その石田は男子100m(上肢障害T46)に出場し、11秒43でゴールした。抱えていた原因不明の左脚かかとの痛みの影響でフィニッシュ後は脚を引きずるしぐさを見せた。

男子100m(T46)を制した石田駆。ケガに悩まされながらも次につながるパフォーマンスを見せた
視覚障害T13の川上秀太(アスピカ)は男子100mを10秒96で走り、大会記録を更新した。日本記録保持者の川上は、4月の日本選手権で追い風参考のため非公認となったが、日本記録を塗り替える10秒64で駆け抜けた。目標に掲げる「10秒5台」は、5月上旬の健常者の大会でマークしたといい、「しっかりトレーニングを積んでいきたい」と力強く語った。
また、4月の日本選手権で男子100m、400m、1500m(車いすT52)の3種目で優勝を果たした佐藤友祈(モリサワ)が今大会も存在感を発揮した。2022年から取り組む100mは3着だったものの、400mは55秒44の大会新記録で優勝。1500mは3分19秒12をマークし、自身が持つアジア記録を7年ぶりに更新した。
カヌーからやり投に転向の小松が世界選手権派遣基準記録を突破!
女子やり投(座位F54)は小松沙季(電通デジタル)が1投目で16m99を投げ、日本記録と世界選手権の派遣基準記録(15m04)を大幅に上回って優勝した。「スイングスピードを上げるために1キロのメディシンボールをできるだけ早く投げるといったトレーニングをしてきて、練習では安定して15m台を出せるようになっていたけれど、(この記録は)びっくりした」と、驚きを隠さなかった。

カヌーから競技転向した小松沙季はやり投で再び世界を目指す
小松はパラカヌー選手として東京、パリと2大会連続で日本代表に選ばれたパラリンピアンだ。3月いっぱいでカヌー選手としての活動を終え、やり投に競技転向した。地元・高知を拠点とし、自己流で練習を始めたばかりで専用の投擲台にも乗ったことがなかったが、初の競技会出場となった4月の日本選手権では14m66を投げ、いきなりパラ陸連の強化B標準記録を突破するなど大器の片鱗を見せていた。「カヌーも捻転動作があるので、経験がやり投に生きるところはある」と小松。世界選手権では「記録というより、国際大会ならではの雰囲気や試合の流れ、アップの仕方なんかを学んできたい」と語った。
今年3月に高校を卒業した吉田彩乃(WORLD-AC)は、パリ2024大会にも出場した注目の若手レーサーだ。今大会は女子100mと800m(車いすT34)で2冠を達成。両種目で世界選手権の若手選手のための派遣基準記録を突破した。4月から岡山に移り住んでトップ選手が在籍するWORLD-ACで走りを磨き、右肩上がりの成長曲線を描く。目標は3年後のロス2028パラリンピックでのメダル獲得。「強くなりたいという想いは誰にも負けない。トップを目指して一生懸命にやっていきたい」と話し、前を向いた。
上肢障害T47の女子100mと200mは中川もえ(西池AC)が制した。4月の日本選手権では自身が陸上を始めたきっかけとなった憧れの辻沙絵(Ossur Japan)に初めて勝利し、注目を集めた。その際に辻から「任せたよ」と言われたという中川。その辻が今大会の6日前に現役引退を発表し、中川は「辻さんが持つ日本記録を塗り替えられなかった。改めてすごい選手であることを実感したし、これからも記録更新に挑戦し、今度は私がつないでいきたい」と話した。
男子100mを制した佐々木「デフリンピックで世界記録更新を狙う」
11月の東京2025デフリンピックの日本代表に内定している選手も活躍した。男子100mは、前回大会の金メダリストで連覇が期待される佐々木琢磨(仙台大TC)が11秒12のタイムで優勝した。デフリンピックは4大会連続出場となる佐々木は日本を代表するデフアスリートのひとりだ。東京大会では仙台大の後輩たちが同じ日本代表に選ばれており、31歳の佐々木は「彼らと一緒に走ることがモチベーションであり、競技継続につながっている。東京大会では世界記録の10秒21を超える走りをしたい」と、力強く語った。同200mはその佐々木を抑え、山田真樹(ぴあ)が22秒27で制した。また、女子の生井澤彩瑛(仙台大)は100mと200mの2冠を達成した。

豊富な経験とリーダーシップで、デフ陸上界をけん引する佐々木琢磨
音が聴こえない聴覚障害クラスの短距離のレースでは、スタートの合図を視覚的に伝達する「光刺激スタートシステム(スタートランプ)」が使用された。400mまでの種目は1レーンにひとつずつ置いて、「On your marks(赤)→Set(黄)→Bang(緑)」と3つの光の変化で知らせもので、長距離種目などはスタンディングスタートランプを用いる。デフリンピックは、こうした工夫を凝らした情報保障も注目ポイントとなる。
文・荒木美晴
写真・丸山康平(SportsPressJP)