東京都足立区教育委員会 おいしい給食担当課長・松本令子さんが、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)にゲスト出演。全国でも珍しい「おいしい給食担当課」を置き、公立小・中学校での食べ残しを7割も減少させた足立区の取り組みや、「給食がおいしい」と注目されるわけを聞いた。
給食の食べ残しを269トンも減らした足立区
上柳:足立区内の小・中学校で人気の給食メニューが紹介されているレシピ集『東京・足立区のおいしい給食レシピ』(主婦の友社)が大変人気で、重版されているそうですね。31の献立と87のメニューが載っていて、1960年代に給食を食べていた私は「今の給食ってこんなにおいしそうな感じになっているのか!」と驚いてしまいます。
足立区というと、2007年に近藤弥生区長が初当選されて『とてもパワフルな方だな』と思って取材に何回か行かせていただきましたが、今も近藤さんが区長さんなんですね。
松本さん:そうです、もう5期になります。
上柳:5期ですか、すごいですね。近藤区長は珍しい職歴で、青山学院大学大学院を出てから警視庁、税理士を経ているんですよね。
松本さん:さらに東京都議会議員もしており、その時に「東京都で出る生ごみの中で、一番多いのは学校給食の残菜(食べ残し)だ」という話を聞いたようです。
上柳:以前はみんな、給食を残していたのですね。
松本さん:はい、学校給食の残菜が東京都の生ごみの多くを占めていたんです。さらに、足立区内で転校されたお子さんが、転校先で給食を食べなくなってしまった、という話も聞いたそうです。
上柳:足立区から足立区へ転校した子が、転校先で給食を食べなくなってしまったのですか?
松本さん:そうなんです。区長も「同じ区の公立学校なのに、なんで学校によって味が違うのか?」と疑問を持ったそうです。
上柳:なるほど。
松本さん:給食をせっかく作っても、残してしまったらただのゴミとなってしまいますが、子どもたちが食べれば栄養になります。なので、『子どもが喜んで、楽しく残さず食べてくれる給食を実現しよう!』という思いからスタートしています。
上柳:給食に力を入れたことで、子どもたちが給食を残してしまう残菜の量は少なくなったのですか?
松本さん:足立区の小・中学校で平成20年には残菜が381トンあったのですが、令和5年は112トンまで減ったので、7割減です。
上柳:すごい効果があるものですね。
松本さん:『給食があるから学校に行こう!』と思ってもらえるような、そんな給食を提供していると思っています。

すべての小・中学校に栄養士がいる
上柳:『東京・足立区のおいしい給食レシピ』を出版される前に、実は2011年に『日本一おいしい給食を目指している 東京・足立区の給食室』という本も出していて、こちらも相当売れたみたいですね。
松本さん:7万部売れました。
上柳:私も読ませていただきましたが、学校で食べている給食をご家庭でも作れるような内容ですね。
松本さん:家でも食べていただきたい、という思いで作りました。
上柳:松本さんの推しメニューを教えてください。
松本さん:「小松菜ビスキュイパン」です。小松菜をクッキー生地に練り込み、食パンの上に塗って焼いたものですが、初めて食べたとき「こんなにおいしいものが給食に出るなんて!」と非常に驚きました。
上柳:足立区では、いい小松菜がいっぱい取れるみたいですね。
松本さん:小松菜がよく取れるのでシチューにも入っていますし、小松菜サラダもあります。
上柳:手の込んだものを作っているのですね。
松本さん:調理師さん達も素晴らしいですよね。足立区の学校には、必ず給食を作る調理室があって、すべての学校に栄養士さんが配置されています。足立区では、東京都から来る栄養士さん以外に区でも採用しているので、すべての学校に必ず1人配置できているんですよ。
「先生の声掛け」「天然だし」で残菜が激減
上柳:例えば、具体的にどんなことを変えたら、食べ残しが減ったのですか?
松本さん:味だけではなく、見た目や彩り、雰囲気作り、先生の声掛けなどさまざまです。
上柳:先生の声掛けとは?
松本さん:恥ずかしがって、自分からおかわりに行けない子もけっこういるのですが、残菜の少ないクラスの先生は、食缶を持って「おかわり、いる?」と言いながら配り歩いているんです。
上柳:なるほど、先生から「もうちょっと食べる?」と声をかけてくれるから、おかわりがしやすいのですね。
上柳:足立区の給食はなぜ「おいしい」と言われるのでしょうか?
松本さん:天然だしで素材のおいしさを味わってもらえるよう、かつお節、こんぶ、鶏がら、豚骨などすべて天然のだしを取って給食を作っています。
上柳:手間暇をかけて、本当に素晴らしいですね。幼い頃から天然のだしをちゃんと味わえるのは、とても良いことでしょうね。
松本さん:区長が「おいしい給食を通じて、子供たちの絶対音感ならぬ、“絶対味覚”を育てたい」といつも話していますが、子どもたちが「今日のだしはよく出ているね」と言うようになったと聞いたことがあります。
上柳:飲み屋さんのカウンターみたいな会話が、学校の教室でされているわけですね(笑)
松本さん:足立区では小松菜が1年を通じてよく取れます。地産地消を心掛けていますので、給食で使う小松菜はすべてメイドイン足立です。毎朝、生産者さんが学校へ届けてくれています。給食用ではなく、もともとは市場に出すために作っていた小松菜でしたが、足立区の栄養士さんが何度も足を運んで、その熱意に打たれて給食で食べられるようになった、という話があります。
上柳:きっと今では、生産農家の方も『私たちが作った小松菜で、子どもたちが育っているんだな』と感じているかもしれませんね。
栄養士が子どもに寄り添って考えた献立
松本さん:先ほども話しましたが、足立区の小・中学校には各校に栄養士さんが配置されており、すべての学校で異なる給食メニューが出されています。
上柳:栄養士さんは「私が考えた今日のメニューは、みんなどれぐらい食べてくれたのかな?」とすぐ分かりますね。
松本さん:各教室を回って子どもの様子を見たり、子どもと直接話したりする栄養士さんもいます。
上柳:子どもから素直な感想が聞けて、「じゃあ、次はこういう風にしてみよう」とアイデアも浮かびそうですね。栄養士さんは朝のとても早い時間から学校に来て、給食を作って、さらにヒアリングをするとなると、労力もかかりますよね。
松本さん:6時半過ぎくらいには、学校にいらっしゃいますからね。
上柳:さらに、給食の片付けまでされますから、本当に長い1日だと思います。
松本さん:サラダのドレッシングもすべて手作りですが、教室に持っていってからドレッシングをかけるようにしています。
上柳:サラダがベチャっとせず、シャキシャキの歯ごたえが残るわけですね。そこまで拘っているなんて、まるでレストランですね。
――東京都足立区の「おいしい給食」は、生産者が心を込めて育てた食材を、栄養士が知恵を絞って献立にし、調理員が手間ひまかけて作り、そして教師が見守る中で子どもたちが味わう、大勢の大人たちの協力によって支えられている。その結果、子どもの成長を支えるだけでなく、食べ残しの大幅な削減による食品ロス貢献にもつながった。給食の毎日の一皿一皿には、子どもたちの健やかな成長を願う、温かい思いが凝縮されているのかもしれない。
