「JPSA設立60周年記念 World Para Swimming公認2025ジャパンパラ水泳競技大会」が13日から3日間にわたり、愛知県名古屋市の日本ガイシアリーナで行われた。初出場のフレッシュな選手から21日にシンガポールで始まるパラ水泳世界選手権の日本代表選手まで、多くの選手がエントリー。
世界選手権代表メンバーが記録更新!
平泳ぎ(SB14)の男子100mと200mの世界記録保持者である山口尚秀(四国ガス)は、今大会は自由形3種目にエントリー。200m自由形(S14)は大会新記録、パラ非種目の男子50m自由形(S14)は53秒47の日本新記録、パラ非種目の男子100m自由形(S14)はアジア新記録となる53秒47をマークし、3冠を達成した。世界選手権では平泳ぎがメインとなるが、今大会の勢いを維持し、「世界記録更新を狙う」と力強く語った。
山口は「これまであまり出場していないので記録を出せたら」と自由形にエントリーした
世界選手権代表メンバーでは、田中映伍(東洋大)が男子50m背泳ぎ(S5)で35秒94の日本新記録を樹立。本番へ弾みをつけた。また、高校生スイマーの川渕大耀(NECGSC溝の口)は、男子400m自由形(S9)と男子200m個人メドレー(SM9)で大会新。パリ2024パラリンピック(以下、パリ2024大会)の男子50m平泳ぎ(SB3)の金メダリスト・鈴木孝幸(GOLDWIN)は決勝で大会新記録となる48秒67でゴールした。48秒台は世界選手権で狙っていたタイムで、「シンガポールでも十分狙える」と自信を口にしていた。
女子100m背泳ぎ(S12)は辻内彩野(三菱商事)が美しいフォームで泳ぎきり、1分15秒13で大会記録を塗り替えた。また、女子50m自由形(S11)は石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)が決勝を29秒99で泳ぎ、優勝を果たした。パリ2024大会では表彰台を逃したが、その後は腕の回転数で押し切るパワー型から、大きなストロークからひとかきで距離を延ばす泳ぎへと変更し、約1年ぶりの29秒台をマーク。「ようやく戻ってきた。
若手選手も記録ラッシュの大活躍
次世代スイマーも奮闘した。男子100m平泳ぎ(SB5)は、今年度の日本パラ水連の育成S指定選手に選ばれている中学1年の山田龍芽(宮前ドルフィン)が予選で2分2秒93の日本新記録をマーク。さらに決勝では1分58秒84で泳ぎ、その記録を4秒以上更新した。病気のため2歳で車いす生活になり、5歳で水泳を始めた山田。小学1年からパラ水泳の日本選手権などに出場し、今年4月のワールドシリーズ静岡大会で国際大会デビューを果たした。脚の力が使えない分、平泳ぎでは上半身を波のように動かして推進力を生む。今大会は自由形3種目にもエントリーし、力強い泳ぎを披露した。今後は世界大会でメダルを獲得し、パラリンピックに出場することが目標と話す山田。まずは今年12月のドバイ2025アジアユースパラ競技大会での活躍を視野に、強化を進めていく。
中学生スイマー・都甲万結(大分パラ水連)も3冠と、存在感を示した。今大会は4種目にエントリー。
復調の南井「アジアパラでは4冠を狙う」
「今大会に一番、合わせてきた」と話すのが、南井瑛翔(トヨタ自動車)だ。3種目にエントリーし、男子100m背泳ぎ(S10)決勝を1分4秒53の大会新記録で制した。男子200m個人メドレー(SM10)は泳法違反で失格となったが、最終日の男子100mバタフライ(S10)は自己ベストまであとわずかとなる59秒42の好タイムで頂点に立った。
4種目のアジア記録、6種目の日本記録を保持している南井。東京2020大会、パリ2024大会と2大会連続でパラリンピックにも出場したが、今年の世界選手権は選考レースで派遣基準記録を突破できず、代表落ちとなった。「自分にはハングリー精神が欠けていたのだと思う。代表から落ちたことで、改めて自分を見つめ直すきっかけになった」と、受け止める。
現在は背泳ぎのスペシャリストで元日本代表の竹村幸氏に師事し、広背筋や骨盤の使い方、力の入れ方などを一から教わり、反復練習に取り組んでいる。「(不調だった)4月から6月ごろの試合から見ると、しっかり戻せている。100m背泳ぎでも、今できる最大限の泳ぎができた。
そして、南井はこう続ける。「今大会は改善するべき点も見つかってよかった。結果もついてきたし、やってきたことは間違っていなかったと証明できたと思う。これからも、世界選手権の上位に入れるようなタイムで泳いで、『南井を選べばよかった』と言わせたい」

2種目で好タイムをマークした南井。「南井を選べばよかった、と言わせる泳ぎをしたい」
来年、所属企業の地元でアジアパラ競技大会が開かれる。前回の杭州大会では男子100mバタフライ(S10)と男子200m個人メドレー(SM10)で金メダルを獲得。来年は、それを超える“4冠”を目指すと誓う南井。エースの復活と、さらなるスケールアップに注目したい。
デフリンピック日本代表選手も力強い泳ぎを披露
また、今大会は11月に開幕する聴覚に障がいがあるアスリートによる世界最高峰の大会「東京2025デフリンピック」の日本代表選手も多数エントリーした。茨隆太郎(SMBC日興証券)は、男子400m自由形(S15)と男子200m個人メドレー(SM15)の2種目で大会新記録を樹立するなど、存在感を示した。過去4大会で合計19個のメダルを獲得している茨は、前回のカシアスドスル大会後に引退を示唆したが、東京大会の開催が決まり、最前線に復帰した。

大エースの存在感を発揮した茨。デフリンピックでも活躍が期待される
前回のカシアスドスル大会の女子100mバタフライ(S15)で金メダルを獲得した齋藤京香(CPAEP)は、女子50mバタフライ(S15)と女子100mバタフライ(S15)の2種目をそれぞれ大会新記録で泳ぎ、好調さをアピールした。昨年秋から奈良に練習拠点を移し、そこで同じく東京2025デフリンピック日本代表の星泰雅(サムティ)や金持義和(JDSA)らとともにトレーニングに取り組んでいる。「スタミナをつける厳しい練習も、みんなに刺激を受けて取り組めている」と斉藤。前回大会ではリレー種目でメダルを獲得した星もまた、「デフの仲間とコミュニケーションを取りながら一緒に練習できるのは大きい」と話し、個人種目でのメダル獲得に意欲を示していた。
女子100m自由形(S15)決勝は、東京2025デフリンピック日本代表の4選手が勢ぞろい。前半から飛ばしてトップで折り返した串田咲歩(サンながら)がリードを保ち、1分1秒78のデフ日本新記録で優勝した。2位に齋藤、3位に吉瀬千咲(東京女子体育大)が入った。串田は得意の100m平泳ぎ(SB15)でも優勝。本番では「表彰台を狙いたい」と力強く語った。
取材・文/荒木美晴、写真/植原義晴