漬物専門店「やなぎに桜」の店主・柳沢博幸さんが、上柳昌彦アナウンサーがパーソナリティを務める、ラジオ番組「上柳昌彦 あさぼらけ」内コーナー『食は生きる力 今朝も元気にいただきます』(ニッポン放送 毎週月・金曜 朝5時25分頃)にリモートでゲスト出演。漬物専門店を出店した思いをはじめ、漬物の歴史やおいしさ、栄養価、そして海外客が日本の漬物に関心を寄せている現状について語った。
柳沢さんは冷凍食品会社での勤務を経て、築地市場の漬物問屋へと転職。しかし、「自分が本当に良いと思う漬物を届けられない」という葛藤から独立を決意し、2011年に東京都文京区千駄木で「漬物専門店 やなぎに桜」を開業。以来、素材本来のおいしさを大切にした、無添加で健康的な漬物づくりにこだわり、家庭の味・故郷の味を伝えている。
右肩下がりの漬物業界で、あえて「漬物専門店」を出店
上柳:バブルが崩壊して、漬物業界も右肩下がりになっていたところで、柳沢さんはあえて漬物にこだわった専門店を出したそうですね。きっと、いろんな思いがあったのでしょうね。
柳沢さん:そうですね。そのときには、漬物が本来の姿からちょっと変容していたんです。均一の味を目指すようになったり、賞味期限を伸ばすために試行錯誤したり、いろんな調味料を使ったり。食べるというよりも、添え物や彩りのためのものになっていたんです。
上柳:なるほど。
柳沢さん:定食屋さんの右上に置いてあるピンク色、緑色のもの。プレートを華やかにするようなものになりつつあったので、漬け物のおいしさや健康という部分から、随分離れてしまったと感じました。そんな右肩下がりの漬物業界をなんとか盛り返すには、やっぱり原点に立ち返った方がいいんじゃないかと思い、自分でお店をやってみようという気になったわけです。
上柳:漬け物は添え物としてちょっとあればいい、という扱いじゃない。もっとおいしいものが日本中にあるだろうし、作れるだろうと思われたのですね。
柳沢さん:はい。
生よりも栄養豊富! ぬか漬けきゅうりの実力
上柳:日本人が漬物を“食べ物”として日常的に食べるようになったのは、歴史的にはいつ頃からなのでしょうか。何か分かっていることはありますか?
柳沢さん:縄文時代まで遡ることができます。おそらく、最初は保存食として生まれたものだと思います。
上柳:縄文時代は、特に食べものを保存することが重要だったでしょうね。今のように安定して、さまざまな食材が手に入る時代ではありませんから。
柳沢さん:はっきりと“漬物”として認識され、食べられるようになったのは大和朝廷時代だと言われています。中国から醸造技術が伝わり、粕漬けや味噌漬け、醤油漬け、麹漬けといった漬物が生まれました。さらに安土桃山時代、お茶の文化が花開く頃になると、漬物は飛躍的に進化します。この頃の漬物は、見栄を張るための存在だったようです。
上柳:庶民にも食べられていたのでしょうか?
柳沢さん:庶民に広がったのは江戸時代だと言われています。
上柳:江戸時代の頃には、庶民でも比較的お米を食べられるようになり、とにかくお米を食べる食生活が広がりました。その一方で、おかずはあまり取らず、米中心の食事が続いた結果、脚気になる人が増えていったと言われていますよね。
柳沢さん:現代の科学で測ると、生のキュウリを1本食べるよりも、ぬか漬けのキュウリを1本食べたほうが、生のキュウリ約6本分のビタミンや栄養を補給できるとされています。
上柳:江戸の人々も経験的に、「漬物を食べるとなんか調子がいいぞ」というのが分かったのかもしれませんね。
健康志向の海外客が「日本の漬物」に興味
上柳:日本の漬物文化は、非常に豊かで種類も多そうですね。
柳沢さん:そうですね、世界的に見てもすごく種類が豊富だと思います。海外にも漬物的なものはいろいろとありますが、酢漬けだけとか塩漬けだけとか、シンプルで単一のものが多いです。
上柳:日本に漬物は何種類ぐらいあるんですか?
柳沢さん:漬物の数を正確に把握するのは非常に難しいのですが、例えば京都のしば漬けはとても有名ですが、現在では全国各地でその土地ならではのしば漬けが作られています。地元の野菜を使ったり、独特の味付けをしたりと、しば漬けだけでも何十種類もあります。そこに、たくあん、ぬか漬け、しょうゆ漬け、みそ漬けなどを加えていくと、少なくとも1000種類は超えてくるのではないかと思われます。
上柳:「やなぎに桜」では何種類ぐらいの漬物が置かれていますか?
柳沢さん:常時50種類ぐらい扱っています。
上柳:私も実際にお店に伺いましたが、目移りしちゃいましたね。真空パックになっているものもあれば、ガラス戸を開けて、中からトングで取り出すようなものもあって、『楽しいな』と感じました。
柳沢さん:ありがとうございます。
上柳:最近はインバウンドのお客さんも、お店に結構いらっしゃるそうですね。
柳沢さん:この1、2年で増えてきました。特にヨーロッパの方は健康志向が高い方が多く、腸活を目的としているようです。店の入り口に「Natural pickles」という垂れ幕をしてから、本当に飛躍的に外国の方に反応していただけるようになりました。
上柳:「Natural pickles」を直訳すると漬物になるんですか?
柳沢さん:健康的なイメージを持つ漬物、という意味合いで書かせていただきました。
上柳:なるほど。外国の方の1番人気はなんですか?
柳沢さん:まず、「飛行機で持って帰れる真空パックのもの」というのが第一条件としてあるんですが、その中で1番人気なのは「いぶりがっこ」です。
上柳:外国の方が、いぶりがっこを好むんですね。
柳沢さん:あのスモークの香りも好きらしいです。他にも、ぬか漬けなどに関心を持たれる方も多いです。「どこで食べるんですか?」と聞くと、「今夜ホテルで食べるんだ」と話していました。
上柳:外国の皆さんは、どうやってこのお店を知ったのでしょうか。
柳沢さん:インスタグラムとか、以前に友達が来て良かったからとか。あとは、入り口の「Natural pickles」の垂れ幕を見て、急いでバスを降りて来た方もいました。その方は、「健康に良いナチュラルなものを日本で探したけど、なかなか見つからなくって」という話をしていました。
上柳:例えば、いぶりがっこは生産者によって味が違うのですか?
柳沢さん:微妙にですが、作り手によって変わってきますね。しょっぱさが際立っていたり、甘さが際立っていたりなど、いろいろあります。
――素材の力を生かし、余計なものを加えずに作られた漬物には、長らく日本の食卓を支えてきた理由がある。野菜を漬けることで水分が抜け、うま味や歯ごたえが際立ち、素材本来のおいしさが引き出される。発酵を伴うものは、栄養価が高まり、体にやさしい点も特徴だ。

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