全国学力テストでトップクラスの成績を誇る石川県。しかしその一方で、点数を上げることを目的としたテクニック重視の指導や、正規の授業時間外に行われる過去問練習など、「過度なテスト対策」が行われていたことが報道されています。
なぜ、このような行き過ぎた対策が行われているのでしょうか。そして、それによって子どもたちが失っているものは何なのでしょうか。
『学校が合わない子どもたち それは本当に子ども自身や親の育て方の問題なのか』(前屋毅 著)から一部を抜粋し、全国学力テスト至上主義が学校現場に与える影響や、それが子どもたちにもたらす現実について考えてみます。
■「全国学力テストでトップクラス」の舞台ウラ
全国学力テストでトップクラスの成績をあげている自治体のひとつが、石川県です。
その地元の石川テレビが2022年8月1日、「そのウラで指摘される“過度な学力テスト対策”」と報じ、そのなかで教員組合の部長が「過度な学力テスト対策」があり、「直前に全国学力テストの過去のテスト問題(過去問)を解いているという実態も報告されています」と証言しています。
「そのウラ」とは、「全国学力テストでトップクラスの成績をあげている舞台裏」という意味です。
石川県の馳 浩(はせ ひろし)知事も8月1日の県総合教育会議で、「過去問調査を私は厳しく指摘しましたが、点数を上げるだけが目的じゃないわけですから」と苦言を呈し、「現場を所管する教育委員会の皆様にも意識してもらいたい」とも述べていました。
現場の教員の団体である教員組合だけでなく知事までもが、過度な学力テスト対策に苦言を呈しているわけです。
ところが石川テレビの取材に応じた教育長は、「(過度な対策があるとは)私どものほうでは聞いていません」と答えています。「調査します」でもなく、「知らない」で済ませようとしたのです。
過度な学力テスト対策を改める気がないからです。全国学力テストで上位の成績をおさめることは、よほど教育長にとって価値のあることなのでしょう。
実際、石川県の過度な学力テスト対策は、まったく改められていません。
2023年11月9日付の産経新聞は、「学力テスト“全国トップ”の石川県、小中4割で過去問など事前対策、『趣旨逸脱』指摘も」という見出しの記事を掲載しています。
石川県が全国学力テストでトップの成績をあげているのは「教育現場における事前対策への過度な傾注がある」からで、「県議会では問題視する意見が噴出」しているという記事です。
過度な学力テスト対策が、石川県では続いていたことになります。
前年に問題になったことで県教育委員会は各市町教育委員会にテスト対策をしないように通知を出したようですが、教員組合の調査では「管理職(校長や教頭)などから『4月中に事前対策をするな』との指示を受けた」のは、172校中55校にとどまっていたそうです。
教育委員会は通知を出したけれども、それを多くの学校が無視したことになります。学校が教育委員会を無視するなど異常なことで、そもそも通知は出したけれども本気で学校に守らせる気が教育委員会にあったのか疑いたくなります。
テスト対策をしないで石川県の順位が下がれば、県や学校の評価を下げることにもなりかねません。教育委員会や学校にとって、それは避けたい事態です。それほど全国学力テストでの順位が、教育委員会や学校を縛っていることになります。
しかも過去問に取り組ませるなど全国学力テストの対策を行っているのは、石川県だけではありません。いまやどこの自治体の学校でも、テスト対策は「常識」といわれるほどです。
■過度なテスト対策のために奪われる時間と学習意欲
そのテスト対策は、正規の授業として行われるものではありません。正規の授業とは別にやるものなので、時間を捻出するのもたいへんです。正規の授業時間にやれば、そこでやるはずだった正規授業をどこかで補塡しなければなりません。正規の授業の進行にも支障をきたすわけです。
テスト対策は、テストで点数をとるためのものなので、子どもたちはテクニックを覚えさせられることになります。子どもたちにとって楽しい時間なのかどうか、かなり疑問です。
実際に現場の教員に訊いてみたこともありますが、「過去問などの事前練習の繰り返しで、子どもたちの学習意欲は確実に下がっています」と、誰もが言ったものです。
全国学力テストは時間も奪い、学習意欲まで奪うものになっているのが現実です。
その影響もあってか、学校では全国学力テストだけでなく、テストで点数をとることだけに力を入れる傾向が強まっています。それを「学力」と考える人も少なくないのは事実です。
いまに始まったことでなく、ずっと以前から日本の学校での価値基準はテストでの点数にありましたが、全国学力テストがそこに拍車をかけています。
子どもたちにとっては窮屈な環境になっています。そんな窮屈な環境に順応できればいいのでしょうが、そういう子ばかりではないのです。この記事の執筆者:前屋 毅 プロフィール
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。最新刊『学校が合わない子どもたち~それは本当に子ども自身や親の育て方の問題なのか』(青春新書)など著書多数。
なぜ、このような行き過ぎた対策が行われているのでしょうか。そして、それによって子どもたちが失っているものは何なのでしょうか。
『学校が合わない子どもたち それは本当に子ども自身や親の育て方の問題なのか』(前屋毅 著)から一部を抜粋し、全国学力テスト至上主義が学校現場に与える影響や、それが子どもたちにもたらす現実について考えてみます。
■「全国学力テストでトップクラス」の舞台ウラ
全国学力テストでトップクラスの成績をあげている自治体のひとつが、石川県です。
その地元の石川テレビが2022年8月1日、「そのウラで指摘される“過度な学力テスト対策”」と報じ、そのなかで教員組合の部長が「過度な学力テスト対策」があり、「直前に全国学力テストの過去のテスト問題(過去問)を解いているという実態も報告されています」と証言しています。
「そのウラ」とは、「全国学力テストでトップクラスの成績をあげている舞台裏」という意味です。
石川県の馳 浩(はせ ひろし)知事も8月1日の県総合教育会議で、「過去問調査を私は厳しく指摘しましたが、点数を上げるだけが目的じゃないわけですから」と苦言を呈し、「現場を所管する教育委員会の皆様にも意識してもらいたい」とも述べていました。
現場の教員の団体である教員組合だけでなく知事までもが、過度な学力テスト対策に苦言を呈しているわけです。
ところが石川テレビの取材に応じた教育長は、「(過度な対策があるとは)私どものほうでは聞いていません」と答えています。「調査します」でもなく、「知らない」で済ませようとしたのです。
過度な学力テスト対策を改める気がないからです。全国学力テストで上位の成績をおさめることは、よほど教育長にとって価値のあることなのでしょう。
実際、石川県の過度な学力テスト対策は、まったく改められていません。
2023年11月9日付の産経新聞は、「学力テスト“全国トップ”の石川県、小中4割で過去問など事前対策、『趣旨逸脱』指摘も」という見出しの記事を掲載しています。
石川県が全国学力テストでトップの成績をあげているのは「教育現場における事前対策への過度な傾注がある」からで、「県議会では問題視する意見が噴出」しているという記事です。
過度な学力テスト対策が、石川県では続いていたことになります。
前年に問題になったことで県教育委員会は各市町教育委員会にテスト対策をしないように通知を出したようですが、教員組合の調査では「管理職(校長や教頭)などから『4月中に事前対策をするな』との指示を受けた」のは、172校中55校にとどまっていたそうです。
教育委員会は通知を出したけれども、それを多くの学校が無視したことになります。学校が教育委員会を無視するなど異常なことで、そもそも通知は出したけれども本気で学校に守らせる気が教育委員会にあったのか疑いたくなります。
テスト対策をしないで石川県の順位が下がれば、県や学校の評価を下げることにもなりかねません。教育委員会や学校にとって、それは避けたい事態です。それほど全国学力テストでの順位が、教育委員会や学校を縛っていることになります。
しかも過去問に取り組ませるなど全国学力テストの対策を行っているのは、石川県だけではありません。いまやどこの自治体の学校でも、テスト対策は「常識」といわれるほどです。
そういうなかで石川県だけがテスト対策をしない道を選択するのは難しいはずです。
■過度なテスト対策のために奪われる時間と学習意欲
そのテスト対策は、正規の授業として行われるものではありません。正規の授業とは別にやるものなので、時間を捻出するのもたいへんです。正規の授業時間にやれば、そこでやるはずだった正規授業をどこかで補塡しなければなりません。正規の授業の進行にも支障をきたすわけです。
テスト対策は、テストで点数をとるためのものなので、子どもたちはテクニックを覚えさせられることになります。子どもたちにとって楽しい時間なのかどうか、かなり疑問です。
実際に現場の教員に訊いてみたこともありますが、「過去問などの事前練習の繰り返しで、子どもたちの学習意欲は確実に下がっています」と、誰もが言ったものです。
全国学力テストは時間も奪い、学習意欲まで奪うものになっているのが現実です。
その影響もあってか、学校では全国学力テストだけでなく、テストで点数をとることだけに力を入れる傾向が強まっています。それを「学力」と考える人も少なくないのは事実です。
いまに始まったことでなく、ずっと以前から日本の学校での価値基準はテストでの点数にありましたが、全国学力テストがそこに拍車をかけています。
子どもたちにとっては窮屈な環境になっています。そんな窮屈な環境に順応できればいいのでしょうが、そういう子ばかりではないのです。この記事の執筆者:前屋 毅 プロフィール
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。最新刊『学校が合わない子どもたち~それは本当に子ども自身や親の育て方の問題なのか』(青春新書)など著書多数。
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