小学校の大きなイベントの1つといえば、運動会。子どもにとってはもちろん、保護者にとっても、わが子の晴れ姿を見ることができる数少ない機会です。運動会で、特に保護者が映像に残したいと思う種目の1つが「ダンス(表現運動)」なのではないでしょうか。今回は、「ダンス」にまつわる意外と知られていない裏側を、現役の小学校教師の松本隼司さんに伺いました。(今回の質問)運動会の種目・ダンスの曲目や振り付けは、どうやって決めているのですか? (回答)子どもたちも保護者も知っていて楽しめる流行曲を選び、学年に応じてダンスの内容を決めています。また、観客からどのように見えるかも考えながら、構成を工夫しています。どういうことなのか、以下で詳しく解説します。■運動会のダンス曲、選び方のポイントは?運動会での表現種目の内容は、流行りのダンスや学校ごとの伝統的な踊りなど、学校によってさまざまです。ダンスに使用する曲を選ぶ際には、流行曲だけでなく、SNSで人気が再燃している昔のヒット曲(懐メロ)をチェックすることもあります。流行りの曲でダンスをする場合は、子どもたちはもちろん、保護者の皆さんも知っているポピュラーな曲を選ぶようにしています。必ずしも最新の曲に限定しているわけではありません。例えば今年は、Mrs. GREEN APPLEの「ケセラセラ」や「ライラック」などの曲が人気です。逆に、少し古い曲が選ばれることもあります。近年はSNSなどを通じて昔の曲が再び流行することもあるため、そういったトレンドも意識しています。曲が決まったら、まずダンスを教える前に、その曲を子どもたちと一緒に歌う機会を設けています。どんな曲も最初から全員が知っているわけではありませんから、まずはみんなで歌ってその曲に親しみ、ダンスの練習も歌いながらできるようにしていますね。■職員室では熾烈(しれつ)な曲争奪戦も!?学校ごとに方法は異なりますが、私がこれまで勤務してきた学校の多くは、運動会の前になると職員室に「ダンスで使いたい曲」の記入表が掲示され、曲名や使用するアイテム(フラッグや鳴子など)を記入する仕組みでした。早い者勝ちで書くパターンもあれば、ほかの学年の先生の出方をうかがいながら決めるパターンもありますが、やはりかぶらないようにするというのは大前提です。ソーラン節のような伝統的な演目がある学校では、新しい曲を探したり振り付けを考えたりする手間は少なくなりますが、一方で、新しい試みにチャレンジしにくいというデメリットはありますね。もう何年も前のことですが、安全のために組体操を辞めたときは、子どもたちや保護者から大きな反発がありました。ダンスの振り付けは、発達の段階に合わせてYouTubeなどで紹介されているダンスを参考に構成しています。見本の動画を見せることもあれば、教師がお手本を見せることもありますが、どんな方法にせよ大事なのは「教師自身も一緒に踊ること」です。一緒に踊ることで、子どもたちとコミュニケーションを取れますし、子どもたちが難しいと思う部分を教師自身も身をもって感じることができるのも大きいですね。■想像以上に考えられている子どもたちの「見え方」最後に、ダンスの種目における子どもたちの並び順が気になる方も多いのではないでしょうか。基本的には、身長や男女のバランスを考慮して並び順を決めます。ただし、背の高い子がずっと後ろにならないよう、隊形移動を取り入れて、全員が一度は前列に出られるよう工夫しています。また、振り付けに自信のない子どもについては、2列目以降に配置し、前列の子どもを見て安心して踊れるように配慮しています。上から見ると円形になるような隊形移動は見応えがありますが、同じ高さの位置から観覧している保護者には、その様子が見えにくい。俯瞰(ふかん)での美しい隊形が見られるのは、朝礼台に立つ教師だけかもしれません(笑)。それよりも、正面から見て迫力のある隊形を意識しています。松下隼司さん大阪府公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。令和6年版教科書編集委員。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクール文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門優秀賞などの受賞歴を持つ。新刊「先生を続けるための『演じる』仕事術」(かもがわ出版)など著書多数。voicyで『しくじり先生の「今日の失敗」』を発信中。この記事の執筆者:大塚 ようこ子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。