「学校に行かなきゃ」と自分を責め続けるわが子の姿をを前にすると、親はどのように声をかければよいか分からなくなることがあります。また、一時的に元気を取り戻したと思ったのに、再び落ち込む姿を見ると、「このまま回復しないのでは」と不安に感じることもあるでしょう。


「無理して行かなくてもいいよ」という言葉さえ受け入れられない子や、元気になったり落ち込んだりを繰り返す子に、親はどのように寄り添えばよいのでしょうか。

30年間にわたり不登校と向き合い続けてきた心療内科医・明橋大二さんは、著書『不登校からの回復の地図』(青春出版社)の中で、表面上は同じように落ち込んでいるように見えても、「決して同じところを堂々めぐりしているわけではない」と語っています。

今回は、本書の一部を抜粋し、子どもの複雑な心の動きや、それに向き合う親の姿勢について、明橋さんの具体的なアドバイスを紹介します。

■Q:子ども自身が「学校に行かなきゃ」と強く思い、毎朝苦しんでいます。どう声をかけたら?
子どもがどうしても学校に行けないとなったとき、親から「そんなに無理して学校に行かなくてもいいよ」と伝えて、ほっとした表情になり、それからゆっくり休むことができる子どももあります。

しかしその一方で、「無理して行かなくてもいいよ」と伝えても、子ども自身がなかなか受け入れられず、苦しむ子どももあります。

夜には「明日は学校にいくから」と準備万端整えて床に就くのですが、朝になると、布団から起きられず、自分を責めて苦しんでいます。

親としては、「学校に行けないんだ」と受け入れたほうが、早く楽になれるのに、と思いますが、子どもによっては、なかなかそれを受け入れられない子どももいるのです。

そういう場合は、やはり子どもの意志に任せるしかありません。無理やり休ませようとしても、そうすると、「親が学校に行くなと言ったから、学校に行けなくなったじゃないか」と親を責めることになります。

ですから、本人が学校に行くと言えば、そのための準備は一緒にする。朝行けなければ、それを責めたりせず見守る。
翌日また行くと言ったら「分かったよ」と答えて一緒に準備をする。朝やっぱり行けなければ、「分かったよ」と受け入れる。

そういうことを繰り返していくうちに、子どもも次第に、「自分は学校に行けないんだ」ということをようやく身をもって知ることになります。

それまでは「行こうと思えば行けるはずだ。自分が頑張れば行けるはずだ」と思っているのですが、行けないことが続くと、「やっぱりどう頑張っても行けないんだ」と悟るときがきます。

そしてそこまで悟って、ようやく子どもの本当の心の休養が始まるのです。

そこまで親は、とにかく付き合うしかないのではないかと思います。

■Q:「元気になっては落ち込む」を繰り返す息子。このまま回復しないのではないかと不安です。
何か、落ち込むようなショックな出来事があったとか、そういうことであれば、本人の気持ちを受け止めながら話を聞き、しばらく見守ることで少しずつ回復してくると思います。

しかし、特にそういうきっかけがないのに、周期的に落ち込みがやってくることがあります。

それはどういうことかというと、本人にとって回復するということは、少しずつまた現実に戻っていく、ということでもあります。


その現実というのは、本人にとって不登校にならざるを得なかった、それだけのつらい経験です。そこに向かっていくわけですから、当然、不安も出ますし、落ち込むこともあるのです。

しかしそれでも、周囲が本人の不安を理解して支えていけば、必ずまた元気になりますし、その不安は乗り越えていくことができます。ちゃんとそれだけの元気が、本人の心の中に溜まっていくのです。

表面的には同じような落ち込みを繰り返しているように見えますが、本人の悩んでいる内容は少しずつ変わってきています。

最初はそれこそ「生きるべきか死ぬべきか」「自分なんて生きていていいのか」ということで悩んでいたのが、今は「自分なんかに入れる学校があるのか」「自分にできる仕事はあるのか」という悩みに変わっていっています。それは本人が一歩一歩、社会的自立への道を歩んでいる証拠です。

決して同じ場所を堂々めぐりしているわけではない、むしろ、本人が1つひとつ壁にぶちあたり、それを乗り越えるプロセスをたどっているのだ、ということをぜひ知ってもらいたいと思います。この記事の執筆者:明橋大二 プロフィール
心療内科医。子育てカウンセラー。NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長。一般社団法人HAT共同代表。
児童相談所嘱託医。心療内科医としての勤務やぱれっとでの活動を通して、30年以上不登校の子どもたちを支援している。シリーズ累計500万部を突破した『子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版)など著書多数。最新刊は『不登校からの回復の地図』(青春出版社)。
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