「学校に行かない子どもに、親として絶対にしてはいけないことは何?」「夫が子どもを責めてしまい、夫婦喧嘩が絶えない」──不登校への対応をめぐって、家庭内に深刻な対立が生じることは珍しくありません。特に、子どもを心配するあまり厳しく接してしまう配偶者との考え方の違いに悩む保護者は多いのではないでしょうか。しかし、間違った対応は子どもをさらに追い詰め、取り返しのつかない事態を招くこともあります。30年間にわたり不登校支援に携わってきた心療内科医の明橋大二さんは、『不登校からの回復の地図』(青春出版社)の中で「子どもが家にも学校にも居場所を失ってしまう危険性」に警鐘を鳴らしています。今回は、本書から一部を抜粋し、不登校の子どもに対して避けるべき対応や、夫婦が協力して子どもを支えるための方法をご紹介します。■Q:子どもが学校に行かないとき、親が絶対にやってはいけないことはなんですか?やはり、暴力的に行かせる、力ずくで行かせる、ということだと思います。学校に行けなくなるのは、決してなまけややる気がない、というようなことではなく、それだけのよくよくの理由があるからです。その理由がまったく解消されていないのに、暴力的に登校を無理強いされると、子どもは学校の中に居場所を失うだけでなく、家の中にも居場所を失います。「親も自分の味方にはなってくれないのか」と思うと子どもは深く絶望し、そうなると、最後は自殺を考えるしかなくなってしまいます。学校に行かないことと自殺と、どっちがましなのか、そう考えれば答えは明らかだと思います。■Q:夫が不登校の子どもを責めます。私が止めると夫婦喧嘩に。夫とはどう話をすれば?夫も子どものことを心配して言われているのだと思いますが、やはりそのやり方は間違っていると思います。まずは正しい知識を知らない、というところに原因があると思うので、正しい知識を知ってもらうことが必要でしょう。なかなか本も読まないようであれば、医者とかカウンセラーとか、校長先生や教頭先生、こども園の園長先生など、専門家の人から話をしてもらうと、比較的聞くこともあります。子どもにとって、どういう対応が必要か、ということが分かれば、少しは変わるかもしれません。しかしそのように話をしても態度を変えない、聞く耳を持たない場合は、少し問題の根は深いところにあるかもしれません。それはお父さんの生育歴やストレスに関する問題です。たとえばお父さん自身が、学校でつらい思いをしていたのにそれを周囲に理解してもらえず、自分の力で乗り切ってきた、という自負のある場合や、お父さん自身が現在もストレスを抱えていて、子どもの不登校を受け入れるだけの心の余裕がない場合などです。日本の多くの男性は、「家族を養うために、必死の思いで、嫌なことにも耐えて、仕事をしている」と思っています。自分も本当は仕事をやめたい、だけどそれは許されない、そんな中で必死で頑張って仕事を続けているのかもしれません。そんなときに子どもが不登校になって、学校を休んでいる。ところが母親は、ちっとも子どもを学校に行かせようとしない。子どもに甘い。だから自分が少々厳しいことを言うと、今度は母親は自分を責めてくる。学校にちっとも行こうとしない子どもには、母親は甘いのに、頑張って仕事に行っている自分に対しては、責めてくる、これはとうてい、納得がいかない、そんな気持ちなのかもしれません。もちろん母親も、不登校の子どもの気持ちに寄り添い、大変なところを頑張っているわけですから、お互い様なのですが、往々にして父親にはそのことが見えていない場合があるのです。子どもが不登校になったとき、父母がお互いに責め合うのではなく、大人も頑張っているのですから、お互いをねぎらい合って、子どものことで話し合うことができれば、親も楽になるし、子どもも楽になるのではないかと思います。この記事の執筆者:明橋大二 プロフィール心療内科医。子育てカウンセラー。NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長。一般社団法人HAT共同代表。児童相談所嘱託医。心療内科医としての勤務やぱれっとでの活動を通して、30年以上不登校の子どもたちを支援している。シリーズ累計500万部を突破した『子育てハッピーアドバイス』(1万年堂出版)など著書多数。最新刊は『不登校からの回復の地図』(青春出版社)。