ヨーロッパで暮らしていると、日本のものづくりがどれほど緻密であるかをあらためて実感します。日本では、日常のささいな道具がごく自然に「きちんと機能する」のは当たり前のことです。


ところがこちらでは、鉛筆の跡がうまく消えない消しゴムや、滑らかに動かずすぐ壊れてしまうファスナーも珍しくありません。そういう製品に出会うたびに、「日本の当たり前は世界の特別だったのだ」と静かに思い知らされます。

■日本の傑作文具も「ドイツ製?」程度の認識
実際、ヨーロッパでも日本の文房具は人気があります。パイロットのフリクションボールや三菱鉛筆のジェットストリームは多くの人が愛用しており、その品質は高く評価されています。しかし多くのユーザーは、それが日本製であることを知りません。

ブランド名や見た目からは製造元の国がうかがえないため、「ドイツ製なのでは?」といった程度の認識しか持たれていません。性能は評価されても、出自が霞んでしまう……これが日本の文房具の現状です。

■イタリア製に奪われたカワイイのお株
その一方で、イタリア発のキュートな文房具ブランド「レガミ・ミラノ」は、ヨーロッパの子どもたちをすっかりとりこにしており、息子の学校ではこの文房具を巡る盗難まで起きたほどです。

猫のポストイット、クマ型のペンケースにパンダのケーブルプロテクター、どこをどう見ても日本特有のカワイイ文化をそっくり模倣しているのに、こちらでは誰もが「イタリア発の新しいトレンド」と信じて疑いません。日本企業がもっと積極的に海外展開していれば、きっと「日本のアイデンティティー」として認知されただろうに……そう思うと、もどかしい気持ちになります。

■プレステはアメリカ製? ではゴジラは?
日本発であることを知られていないのは文房具だけではありません。ある日、息子の友人が「プレイステーションはアメリカの製品だ」と言った時には耳を疑いました。


同じようにカプコンのサバイバルホラーゲーム『バイオハザード』(海外名:Resident Evil)も、アメリカ的なタイトルやコンテンツ内容のせいか勘違いされがちです。これほど日本的に作り込まれたものが、アメリカ製と思われているのはなんとも皮肉です。

『ゴジラ』にしても、近年のハリウッド版から入った世代の中には「アメリカ映画のキャラクター」と思い込んでいる人もいるようです。結局、ブランドの打ち出し方ひとつで出自は簡単にすり替わってしまうようです。

■任天堂とポケモンで際立つ日本らしさ
対照的に、任天堂やポケモン、テレビゲームの「モンスターハンターライズ」などはしっかり日本発と認識されています。任天堂という響きの持つ東洋的なニュアンス、ピカチュウをはじめとするキャラクター設定(「ピカ」+「チュウ」という二拍子の語感は英語やヨーロッパ言語にはあまり見られず日本的に聞こえる)、モンハンライズの日本らしさを際立たせた世界観。

いずれも日本を想起させることで自然なかたちで出自を伝えており、海外マーケットを意識した無国籍な設定やネーミングと比較して、日本のブランド力に貢献してくれています。

■透明化した「Made in Japan」
かつて「Made in Japan」は憧れの響きでした。壊れないカメラ、性能抜群の家電製品。1970~80年代には「安くて壊れない」が合言葉のように世界を席巻しました。しかし今では、そのありがたみが薄れ、存在感を失ってしまったように感じます。

「空気のように不可欠、でも誰も意識しない」。
これは褒め言葉でもありますが、海外在住の日本人としては日本らしさが十分にアピールされていないブランド戦略はもったいない感じがします。

その点、スイス製は今も強さを誇ります。「Swiss Made」と聞けば時計や精密機器、高級チョコレートなどを連想し、国名そのものがすでに品質保証の印です。日本も同じような、ともすればスイス以上の実力を持ちながら、「クールジャパン」の旗の下でアニメと寿司ばかりが推され、国全体としてのブランド力は、まだ頼りなく感じられます。

■英語風より日本語風が武器になる?
パイロットの文房具やソニーのプレイステーションのように、無国籍的で英語風のネーミングは、かつての国際戦略として非常に有効であり、そして今もなお世界市場で成功を収めています。しかし時代は変遷し、いまや「日本的な名前や文化的要素」そのものが差別化の強みとなり、ブランド価値を高める時代になりました。

だからこそ、依然として日本製であることを意識させない無国籍的ネーミングの商品が世界で売れている現実は、むしろ「日本発であることに気づかれないまま成功している」という点が惜しまれます。その成功の背後にある『日本らしさ』をより前面に打ち出すことで、日本という国そのもののブランド価値をさらに高めてくれるのではと期待しています。

この記事の執筆者: ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。南米留学やフライトの合間の海外旅行など、多方面で培った国際経験を活かして、外国人の不可思議な言動や、外から見ると実はおもしろい国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説記事を主に執筆。日本語・英語・ドイツ語・スペイン語の4カ国語を話す。

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