「友達に『変』って言われた」「仲間外れにされた」——。

子どもが傷ついて帰ってきたとき、親としてなんと声をかければいいのか、胸が痛む瞬間です。
下手に慰めてもいいのか、それとも強く言い返すべきなのか……悩みますよね。

モンテッソーリ講師の丘山亜未さんは、著書『1分だけ子どもを待ってみる モンテッソーリ流 子どもの才能を伸ばす100の小さなこと』(青春出版社)で、「言葉そのものよりも、それをどう意味づけるかが大切」と説きます。

本記事では、ネガティブな言葉をポジティブに変換して子どもの自己肯定感を高める「親の切り返し方」と、子どもの心を強くするために親自身が大切にしたい「言葉の習慣」を、同書から一部抜粋・編集してご紹介。

また記事の最後では、なぜ親の言葉選びがそれほどまでに子どもの心を育てるのか、モンテッソーリ教育の視点に基づいた「解説」もお届けします。

■「違っていても、いいんだよ」と伝える
子どもの世界は自分が基準。だから「違い」に出合うと「あの人、変だよ」と素直に言ってしまいます。

でも、それは自然な違和感。「そんなこと言っちゃダメ」と隠すより、「違っていても、いいんだよ」と返してあげましょう。

ときには子ども自身が「変だって言われた」「嫌いって言われた」と、言葉に傷つくこともあります。そんなとき、親のひと言で子どもの受け取り方は大きく変わります。

「“変”って悪い意味じゃなくて、“違う”って言いたかったのかもしれないよ」

「嫌いって言葉を使ったけど、“今は一緒に遊びたくない”って意味かもしれないね」

そんなふうに、子どもが受け取った言葉の背景を想像して代弁してあげるだけで、子どもは安心できます。大切なのは、言葉そのものより「どう意味づけるか」を子どもが学んでいくこと。


親が「言葉にはいろんな意味があるよ」と伝えていけば、子どもはやがて自分で「違う見方」を選べるようになります。それは、他人の言葉に揺さぶられず、自分らしく生きていくための力になるでしょう。

人はみんな顔も違うし、考え方も違う。だから喧嘩することもあるし、自分とは違うことを言ったりやったりする。だけどあなたが世界にたったひとりの大切な人であるように、誰もが世界でたったひとりの特別な人。だから違いを不安に思わなくて大丈夫。

そんな大人の言葉や態度から、違いを自然なものとして受け止められた子は、世界に出ても自分らしく輝けるのです。

■子どもの前では、人を傷つける言葉を手放す
子どもは、大人の言葉を驚くほど敏感に受け取ります。

「疲れたなぁ」「今日はしんどいな」そんな弱音は大丈夫。

けれど「あの人ってダメね」「あの子にはどうせ無理」「あの家は○○だから」といった悪口や噂話は別です。

大人にとっては何気ない会話でも、子どもには“世界の真実”のように響きます。すると、世の中は不満や不信でいっぱいだと感じてしまい、人を信じる心が育ちにくくなるのです。


大人の言葉は、子どもが安心して人と出会い、人を信じ、世界へ歩み出すための力になります。

弱音はあっていい。でも人を傷つける言葉や陰口はできるだけ手放していく。言葉にしたくなったら、そのときは大人同士で。

子どもの耳に残るのは、どんな言葉であってほしいですか?

■「おはよう」「ありがとう」「ごめんね」と言う
朝、起きない子どもにイライラして、怒りながら「おはよう」も言えずに送り出した日。夜になってふと思い出すと、胸の奥がチクリと痛む。

「ありがとう」を飲み込んでしまったときや、「ごめんね」を言えないまま過ぎてしまったときも、心には小さな引っかかりが残るものです。

「おはよう」は、一日を明るくやわらかく始められる言葉。

「ありがとう」は、存在そのものを喜び合える言葉。

「ごめんね」は、また寄り添える言葉。

大人が挨拶に心を込めたとき、初めて子どもは本当の挨拶の意味を受け取ります。

忙しさや疲れで心がついていかない日があっても大丈夫。
今日がダメでも、また明日、心を込めて「おはよう」が言えたらそれでいい。

たったひと言で、心の距離はぐっと縮まります。

■解説:親の言葉で子どもの穏やかな心が育まれる
モンテッソーリ教育では、言葉を「人間の精神を形づくる力」として見つめます。

言葉の獲得とは、知識の習得ではなく、“自我の芽生え”そのもの。

名前を呼ばれ、応え、思いを伝える。そのくり返しの中で、子どもは「私は理解されている」「私は存在していい」と感じ、自我の芽が静かに育っていきます。

言葉は、他者への働きかけであると同時に、自分の内側を見つめる道具でもあります。この発達を支えるのが、日常の“語りかけ”。

特別な言葉ではなく、生活の中の自然なやりとりーー「おはよう」「おいしいね」「ありがとう」。そんなあたたかい音の積み重ねが、子どもの中で「世界はやさしい」という感覚を育てます。そしてその安心感が、やがて豊かな言葉と穏やかな心を育むのです。

モンテッソーリは、言葉を「思考が外にあらわれたもの」として捉え、心の発達と深く結びつけて考えていました。


子どもにとって言葉を学ぶとは、自分を知り、世界と調和して生きる力を育てること。

だからこそ、大人にできるのは、“言葉を教える”ことではなく、子どもが安心して言葉を育てていける環境をつくること。

安心と尊重の中で、子どもは自分のタイミングで言葉を見つけ、世界を理解していくのです。この書籍の執筆者:丘山亜未 プロフィール
株式会社kototo代表。モンテッソーリ幼児教室「ちいさないす」とモンテッソーリの学びを広げる教育事業「kototo Montessori Life」を主宰し、2万5,000組以上の親子を支援する。著書に『子どもの才能を伸ばす5歳までの魔法の「おしごと」』、『0~7歳 モンテッソーリ教育が教えてくれた子どもの心を強くする10のタイミング』(どちらも青春出版社刊)。
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