最近、モバイルバッテリーが原因と考えられる事故が、飛行機や鉄道だけでなくホテルやマンションなどでも頻発している。スマートフォンなどの充電にモバイルバッテリーを利用する人は多いが、使い方を誤ると、発熱だけでなく発火や発煙の危険も伴い、大惨事につながりかねない。


■飛行機・鉄道で次々発生した発煙事故
10月9日11時過ぎ、那覇空港から羽田空港へ向かう全日空(ANA)の機内でモバイルバッテリーから煙が出た。煙はすぐ収まり、幸いケガ人もなく運航スケジュール通りに到着した。各報道によると、乗客の手元にあった手荷物の中に入っていた(リチウムイオン電池の)モバイルバッテリーから煙が出ているのを隣席の乗客が気付き、水をかけると煙が消えたという。
【出発前に要確認】飛行機・鉄道のモバイルバッテリー持ち込み可否は? リコール製品は没収の可能性も
那覇空港 ※イメージ画像(画像筆者撮影)
モバイルバッテリーの発煙・発火は、飛行機にとどまらない。鉄道では10月4日、大阪メトロ御堂筋線の車内で乗客の女性のかばんに入っていたモバイルバッテリーが発火し、その女性を含む2人が軽傷を負って病院へ搬送された。これに伴い、約50分にわたり御堂筋線の上下線全線で運転を見合わせ5万5000人に影響が出た。

記録的な猛暑となった7月に山手線車内で突然発火したのも、乗客の手荷物にあったモバイルバッテリーだった。5人が軽傷を負い、約9万8000人が影響を受けた。

■2025年1月の事故以来、海外で規制強化の動き。日本は……
飛行機でモバイルバッテリーによる出火の危険性が広まったのは、1月28日、韓国・釜山(プサン)の金海(キメ)国際空港で、香港に向けて離陸準備をしていた格安航空会社(LCC)エアプサンの旅客機で発生した火災だった。機内の荷物棚から炎と煙が出て、乗員乗客176名が緊急脱出スライドで避難。旅客機の天井部分が大きく焼け焦げたこの火災事故は、日本を含む世界中に衝撃を与えた。


その後、韓国では、3月からモバイルバッテリーを含むリチウムイオン電池の機内持込制限が強化された。「電力量(Wh、ワット時定格量)によって持ち込める個数を制限」「機内ではジッパーバッグに収納するか端末部分に絶縁テープを貼る」「頭上の荷物棚に入れずに手元か座席ポケットに入れる」ことなどがルール化された。「座席のコンセントを使い、モバイルバッテリーを直接充電する」ことも禁止となった。

機内におけるモバイルバッテリーの使用厳格化は、世界各地に広がっている。シンガポール航空では、4月1日からモバイルバッテリーの機内持ち込みは100Wh未満なら承認不要ながらも、機内での使用・充電を禁止した。中国の国内線では、6月28日以降、「3C認証」(日本のPSEマーク相当)がない、またリコール対象のモバイルバッテリーの機内持ち込みを禁止した。

10月1日には、中東のエミレーツ航空が機内でのモバイルバッテリーの使用および充電を全面禁止とした(ただし、100Wh未満のモバイルバッテリー1個のみ機内に持ち込める)。

日本はというと、モバイルバッテリーをカウンターで預ける荷物(受託手荷物)に入れるのは以前から禁止。これに加え、2025年7月からは機内に持ち込む際は座席上の荷物棚に入れないこと、充電時は手元に置くことを要請している。高速バス・空港連絡バスなどを運行する京王電鉄バスも、走行中すぐには取りに行くことのできないトランクに入れず、手元や座席まわりに置くよう注意喚起。また、高速バス・空港連絡バス・観光バス全車両に延焼防止シートを完備するなどして対策を講じている。

■モバイルバッテリーだけではない、発火の恐れがある事故事例
発煙・発火の危険があるのは、充電用モバイルバッテリーに限らない。
消費者庁の公式Webサイトでは「リチウムイオン電池使用製品による発火事故に注意しましょう」と促し、ワイヤレスイヤホン、スマートウォッチ、携帯用扇風機で起きた事故実例も挙げられている。

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▼事故事例■ワイヤレスイヤホン
・4年前に購入したワイヤレスイヤホンが充電後に発火し、一緒にかばんに入れていた水筒などを焦がした。
・ワイヤレスイヤホンを使っていたら爆発し、首をやけどして衣服が少し焦げた。

■スマートウォッチ
・ネット通販で購入したスマートウォッチが充電中に熱で溶けた。
・スマートウォッチを腕につけたまま寝ていたところ、深夜に突然発火して、腕にやけどをし、シーツが焦げた。

■携帯用扇風機(ハンディフォン)
・パソコンのUSBポートに接続し使用していた携帯用扇風機が突然火柱を上げ発火した。
・かばんに充電済みの携帯用扇風機を入れていたところ、かばんから煙が出てきて異臭があった。慌てて取り出したところ発火した。

(出典:消費者庁)
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■メーカーが紹介する「発火原因」と「正しい使い方」
モバイルバッテリーの発火・発煙は、なぜ起きるのだろうか。大手コンピューター周辺機器メーカーのエレコムは、自社の公式Webサイトで「バッテリーの劣化で起きる電解質の酸化」「モバイルバッテリーの品質の低さ」を理由に挙げる。

そして、「PSEマークがついている製品を使う」「熱対策を万全にする」「強い衝撃を与えない」ことをアドバイスしている。
【出発前に要確認】飛行機・鉄道のモバイルバッテリー持ち込み可否は? リコール製品は没収の可能性も
機内に装備された電源ポート(画像は筆者撮影)
機内に電源やUSBポートが装備されていればモバイルバッテリーを使う必要はないが、特に格安航空会社(LCC)や小型機には設置されていないことが多い。


いまや多くの人にとって生活必需品の1つとなっているスマートフォンだけに、モバイルバッテリー関連のルールはさらに強化されるだろう。少なくとも、自ら事故の当事者にならないよう「安全な製品を正しく使う」ことを心掛けたいところだ。

この記事の執筆者: シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者として約7年、さまざまな取材活動に携わる。その後、国内外で雑誌やWebなど向けに、取材、執筆、撮影など。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、お土産、グルメなど。ニコンカレッジ講師をはじめ、空港や旅行会社などでのセミナーで講演活動も。

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