■飛行機・鉄道で次々発生した発煙事故
10月9日11時過ぎ、那覇空港から羽田空港へ向かう全日空(ANA)の機内でモバイルバッテリーから煙が出た。煙はすぐ収まり、幸いケガ人もなく運航スケジュール通りに到着した。各報道によると、乗客の手元にあった手荷物の中に入っていた(リチウムイオン電池の)モバイルバッテリーから煙が出ているのを隣席の乗客が気付き、水をかけると煙が消えたという。
記録的な猛暑となった7月に山手線車内で突然発火したのも、乗客の手荷物にあったモバイルバッテリーだった。5人が軽傷を負い、約9万8000人が影響を受けた。
■2025年1月の事故以来、海外で規制強化の動き。日本は……
飛行機でモバイルバッテリーによる出火の危険性が広まったのは、1月28日、韓国・釜山(プサン)の金海(キメ)国際空港で、香港に向けて離陸準備をしていた格安航空会社(LCC)エアプサンの旅客機で発生した火災だった。機内の荷物棚から炎と煙が出て、乗員乗客176名が緊急脱出スライドで避難。旅客機の天井部分が大きく焼け焦げたこの火災事故は、日本を含む世界中に衝撃を与えた。
その後、韓国では、3月からモバイルバッテリーを含むリチウムイオン電池の機内持込制限が強化された。「電力量(Wh、ワット時定格量)によって持ち込める個数を制限」「機内ではジッパーバッグに収納するか端末部分に絶縁テープを貼る」「頭上の荷物棚に入れずに手元か座席ポケットに入れる」ことなどがルール化された。「座席のコンセントを使い、モバイルバッテリーを直接充電する」ことも禁止となった。
機内におけるモバイルバッテリーの使用厳格化は、世界各地に広がっている。シンガポール航空では、4月1日からモバイルバッテリーの機内持ち込みは100Wh未満なら承認不要ながらも、機内での使用・充電を禁止した。中国の国内線では、6月28日以降、「3C認証」(日本のPSEマーク相当)がない、またリコール対象のモバイルバッテリーの機内持ち込みを禁止した。
10月1日には、中東のエミレーツ航空が機内でのモバイルバッテリーの使用および充電を全面禁止とした(ただし、100Wh未満のモバイルバッテリー1個のみ機内に持ち込める)。
日本はというと、モバイルバッテリーをカウンターで預ける荷物(受託手荷物)に入れるのは以前から禁止。これに加え、2025年7月からは機内に持ち込む際は座席上の荷物棚に入れないこと、充電時は手元に置くことを要請している。高速バス・空港連絡バスなどを運行する京王電鉄バスも、走行中すぐには取りに行くことのできないトランクに入れず、手元や座席まわりに置くよう注意喚起。また、高速バス・空港連絡バス・観光バス全車両に延焼防止シートを完備するなどして対策を講じている。
■モバイルバッテリーだけではない、発火の恐れがある事故事例
発煙・発火の危険があるのは、充電用モバイルバッテリーに限らない。
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▼事故事例■ワイヤレスイヤホン
・4年前に購入したワイヤレスイヤホンが充電後に発火し、一緒にかばんに入れていた水筒などを焦がした。
・ワイヤレスイヤホンを使っていたら爆発し、首をやけどして衣服が少し焦げた。
■スマートウォッチ
・ネット通販で購入したスマートウォッチが充電中に熱で溶けた。
・スマートウォッチを腕につけたまま寝ていたところ、深夜に突然発火して、腕にやけどをし、シーツが焦げた。
■携帯用扇風機(ハンディフォン)
・パソコンのUSBポートに接続し使用していた携帯用扇風機が突然火柱を上げ発火した。
・かばんに充電済みの携帯用扇風機を入れていたところ、かばんから煙が出てきて異臭があった。慌てて取り出したところ発火した。
(出典:消費者庁)
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■メーカーが紹介する「発火原因」と「正しい使い方」
モバイルバッテリーの発火・発煙は、なぜ起きるのだろうか。大手コンピューター周辺機器メーカーのエレコムは、自社の公式Webサイトで「バッテリーの劣化で起きる電解質の酸化」「モバイルバッテリーの品質の低さ」を理由に挙げる。
そして、「PSEマークがついている製品を使う」「熱対策を万全にする」「強い衝撃を与えない」ことをアドバイスしている。
いまや多くの人にとって生活必需品の1つとなっているスマートフォンだけに、モバイルバッテリー関連のルールはさらに強化されるだろう。少なくとも、自ら事故の当事者にならないよう「安全な製品を正しく使う」ことを心掛けたいところだ。
この記事の執筆者: シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者として約7年、さまざまな取材活動に携わる。その後、国内外で雑誌やWebなど向けに、取材、執筆、撮影など。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、お土産、グルメなど。ニコンカレッジ講師をはじめ、空港や旅行会社などでのセミナーで講演活動も。
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