鉄道や飛行機、バスなどの公共交通機関で、「座席を変わってくれませんか」と頼んでもすんなりいかないケースを聞くようになった。それどころか座席変更を巡って揉め、トラブルに発展することも……。
年末年始の旅行シーズンを前に、譲る側・譲られる側の双方で「気を付けたい」パターンを紹介する。

■新幹線で「席を譲ってくれない……」スルーする人たちの本音
新幹線で「席を譲ってくれない」人は冷たいのか? 飛行機はなぜ「全席指定」なのに揉めるのか?
東海道・山陽新幹線「のぞみ」は、年末年始など繁忙期は「全席指定」となる(画像は筆者撮影)
先日、東海道・山陽新幹線「のぞみ」の3号車に乗ってきた子連れの家族が座席を確保できず、ぐずり続ける子どもをあやしながらデッキで途方に暮れていた。その子連れ客は、「のぞみの3号車が指定席になった」ことを知らなかったようだった。

指定席と比べれば自由席の運賃は安いが、1駅間が長い「のぞみ」で長時間の立ちっぱなしは大人でもつらいものがある。

とはいえ、2025年3月から16両編成の「のぞみ」では1~3号車だった自由席が1~2号車のみに減った。昨今のインバウンド増加もあり、混雑時は自由席が満席になって車内の通路やデッキまで乗客があふれる状態に。乗客の「積み残し(乗客が全て乗車できない状態)」も珍しくない。小さな子ども連れなど、一昔前なら誰かに「譲ってもらえる」ことが多かったケースでも、今の日本ではなかなか難しいのが現状だ。

そもそも新幹線や特急は、在来線や路線バスにある「優先席」が存在しない。どうしても座席を譲ってほしい・変わってほしい場合は、まず相手に声をかけてみて、難しそうな反応だったら無理強いせずに車掌に相談するのが最もスムーズと言える。

なお、年末年始や大型連休といった繁忙期の「のぞみ」は全席指定席になるため、自由席がある「ひかり」などに乗客が集中して混雑する点にも注意したい。

■飛行機は「全席指定でも」トラブルが起き続ける理由
新幹線で「席を譲ってくれない」人は冷たいのか? 飛行機はなぜ「全席指定」なのに揉めるのか?
飛行機は全席指定。空席に見えても、まずは客室乗務員に移動可能かどうか聞くこと(画像は筆者撮影)
飛行機は、搭乗前から「全席指定」が基本である。
それでも、座席を巡るトラブルは本当によく起こる。
例えば、家族や友人同士で座席が離れ離れになってしまった場合。搭乗前までに調整できればよいが、満席時は融通が利かず、機内で「子どもがいるので隣り同士で座りたい」「窓側席がいいから変わって」などと頼まれるケースに遭遇するかもしれない。もし譲ってもいいならそうすればよいし、譲りたくなければ譲る義務はない。

ただ、飛行機の座席指定は、実は鉄道よりややこしい。座席ごとに氏名が登録されており、トラブル発生時の確認作業で問題が起きかねない。また、LCC(格安航空会社)は事前座席指定を「有料オプション」扱いにしている(大手航空会社でも最近増えている)。

小型機で乗客が少ない便に関しては、飛行中のバランスを考えて乗客の座わる席があらかじめ決められていることも。さらに、航空会社の都合で使用機材(機体等)が変わった場合、事前指定した座席から強制的に変更されるケースもあり得る。

■座席変更で揉めて飛行機がUターン、他の乗客に大迷惑も
新幹線で「席を譲ってくれない」人は冷たいのか? 飛行機はなぜ「全席指定」なのに揉めるのか?
日本国内線と国際線を運航するLCC「スプリング・ジャパン」(2024年4月、画像は筆者撮影)
飛行機での座席変更を巡っては、最近もいくつかトラブルに発展したケースがあった。

2025年12月1日には、LCC「スプリング・ジャパン」の成田発上海(浦東)行きの便で、男性客が一緒に旅行していた女性客と座席が離れてしまったため、離陸後に客室乗務員に対して「隣りにしろ」と要求。客室乗務員が断ったところ口論となり、結局、飛行機は成田空港へ引き返した。
他の乗客は翌朝の代替便で上海へ向かったという。

スプリング・ジャパンの座席指定も有料で事前購入が必要。事前に指定していない場合、座席は搭乗手続き(チェックイン)の際にランダムで指定される。

2024年12月にはブラジルで、乗客同士のトラブルから法的措置に発展した例もあった。女性客が事前予約していた窓側の席に子どもが座っていたため、移動するよう要求。すると、子どもが駄々をこねて泣き始め、その様子を撮影した動画(撮影者は子どもの母親)がネットで拡散したため女性は第三者から非難を浴びたのだ。その後、仕事も辞めざるを得なくなった女性は、航空会社と撮影者に対して法的措置を取ったという。

筆者自身も約2年前、東京発インド行きのJAL便(日本航空)でインド人女性から座席の交換を求められたことがある。明らかに交換してもいいとは思えない席だったため断ったが聞き入れてもらえず、見かねた客室乗務員がやや強い口調で仲裁に入ってくれたことがあった。機内で揉めた場合は、やはり客室乗務員に相談するのがベストだろう。

ただ、「座席の移動はお控えください」とはっきりアナウンスするLCCも増えている。安易に座席の移動を受け入れると金銭的な不公平感が生じる可能性もあるため、よほどの事情がない限り「座席移動は無理」と考えた方がいい。


■「昔と今は違う」と割り切れば心身とも楽になる
新幹線で「席を譲ってくれない」人は冷たいのか? 飛行機はなぜ「全席指定」なのに揉めるのか?
飛行機の窓から景色を楽しみたい人もいる。窓側席の事前指定は有料にしている航空会社もある(画像は筆者撮影)
在来線や路線バスなどの「優先席」は、その対象となる人が優先的に座ることができる座席である。一般の座席はどうかというと、これも一昔前は、お年寄りや障がい者、妊婦、乳幼児を連れた人らに譲ることが当たり前だった。

そんな習慣が薄れつつある現代においては、先の新幹線での出来事も「子連れなのに、なぜ指定席を買わなかったのか」「親として事前にしっかり調べて準備するべき」「子どもが気の毒」など、譲られる側の行動を疑問視する声も多い。

また、用意周到に座席を指定していた人が乗車後にいきなり「子どもがいるから譲ってくれ」と懇願されたら、釈然としない気分になるもの理解できなくはないだろう。むしろLCCのように、有料オプションで事前座席指定する方が心理的に楽でもある。

座席を譲る・譲らないは、あくまで善意で成り立っている。「昔は当たり前だったかもしれないけど、今は違う」と割り切り、現状にあわせて冷静に対応することが、結果として心身の負担軽減につながるのかもしれない。

この記事の執筆者: シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者として約7年、さまざまな取材活動に携わる。その後、国内外で雑誌やWebなど向けに、取材、執筆、撮影など。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、お土産、グルメなど。ニコンカレッジ講師をはじめ、空港や旅行会社などでのセミナーで講演活動も。


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