海外には、日本とは違う文化や習慣、マナーが数多く存在する。分かってはいても、うっかり禁止行為をやってしまう人もいる。
「ごめんなさい」で済めばよいが、宗教上のタブーや犯罪となれば当然ながら許されない。「日本人はマナーが良い」というのは、もはや過去の話なのか。海外旅行中に日本人がやりがちなマナー違反を、旅行ジャーナリストである筆者の実体験と共に紹介する。

■韓国や台湾も……空港・駅の「撮影禁止」は意外と多い
バス車内でお茶をぐびぐび……だけじゃない、海外旅行で「日本人」がやらかす笑えないマナー違反
「北朝鮮が見えるスタバ」があることで人気の韓国・愛妓峰(エギボン)平和生態公園。ここは撮影可能だが、韓国海兵隊の管理下で撮影禁止の場所もある(画像は筆者撮影、以下同)
先日、韓国・釜山(プサン)の金海(キメ)国際空港で、首から一眼レフカメラを下げた日本人旅行者がいた。搭乗口からバスに乗って飛行機へ移動する間もそのままだったので、心配になった筆者はその日本人を目で追い続けた。

というのも軍事基地でもある金海空港には、搭乗口に「NO PHOTOGRAPHY」と掲示されており、機内でも「この空港での撮影は禁止されています。機内の窓から撮影することも禁止です」と繰り返しアナウンスされる。

韓国では、金海以外にもソウル・金浦(キンポ)、清州(チョンジュ)、大邱(テグ)などの各空港も同様。中国、台湾、中近東、インド、アフリカなど、空港が原則「撮影禁止」という国・地域は多い。スマートフォンで友人や家族と記念写真を撮る程度なら怒られないが、それすら空港スタッフが即座に駆け寄ってくる空港もある。

空港以外にも、鉄道や地下鉄の「駅」や「橋」、「軍事施設」や「政府関係施設」なども気を付けたい。いずれも国・地域によっては重要な軍事拠点。
安易にスマートフォンを向けただけでもスパイと疑われたり、身柄を拘束されたりする可能性はゼロではない。また「宗教施設」は信者にとって神聖な場所なので、撮影が可能な場合でも大声で話したりフラッシュ撮影するのは避けたい。
バス車内でお茶をぐびぐび……だけじゃない、海外旅行で「日本人」がやらかす笑えないマナー違反
シンガポールは、空港周辺での撮影に厳しく、容赦なく罰金が科せられる
スマートフォンがあれば気楽に写真が撮れる時代だけに、くれぐれも注意が必要だ。

■地下鉄の車内で「ちょっと飲食」したら数万円の罰金に
同じく韓国の仁川(インチョン)国際空港では、空港リムジンバスに乗ってソウル中心部に移動していた際、車内でいきなりお菓子の甘い匂いが漂い始めて驚いたことがあった。ペットボトルのお茶をごくごくと飲む別の乗客もいたが、いずれも日本人旅行者だった。公共交通機関での車内飲食は、日本以外のアジア諸国をはじめ禁止されている国が多い。韓国でも地下鉄・路線バス内での飲食は禁止。外国人が多い空港リムジンバスについてはグレーな運用をしている部分もあるが、韓国人の間では飲食禁止のマナーが徹底されているため周囲が気付くほど匂う飲食をする人は皆無である。

一方、台湾の地下鉄は、車内はもちろん駅のホームでの飲食も禁止。駅の改札前にある黄色いラインを境に、水やガムすらも禁じられている。路線バスも同様だ。もし違反すると、最高7500元(約3万7000円)の罰金。
シンガポールも地下鉄などは車内飲食禁止で、違反すると500シンガポールドル(約6万円)と厳しい罰金が科せられる。

■空港・ホテルの「ラウンジ」で……日本人の恥ずかしい行為
空港やホテルのラウンジには軽食やドリンクが設置されており、利用客は自由に飲食できる。ここで近年、ラウンジの飲食物を「持ち出す」日本人が少なからずいるのだ。

筆者が目撃したのは、オーストラリアのシドニー国際空港で大量のバターをポケットいっぱいに入れる高齢の日本人男性。韓国・ソウルの空港では「ラウンジ外へ持ち出さないでください」と貼り紙されたカップ麺を堂々とリュックサックに入れる日本人を、ハワイのホテルでもベーグルを自前のクーラーボックスにガッサリと入れていく日本人女性を目にした。
バス車内でお茶をぐびぐび……だけじゃない、海外旅行で「日本人」がやらかす笑えないマナー違反
韓国の空港ラウンジに設置されたカップ麺。中央に注意書きが添えられているのだが……
無料となると無性に持ち帰りたくなるのだろう。しかし本来は、ラウンジ内での飲食に限った無料サービスだ。「お持ち帰り」はマナー違反であり、正直、盗んだと言われればそれまでだ。ミネラルウオーターやアルコールをサーバー形式にするラウンジが増えているのも、持ち出し防止策なのだろう。

これ以外に、海外でホテル館内をパジャマやスリッパのまま歩き回る、「チップ」文化が常識の国でチップを渋ったり渡さなかったりするのも日本人旅行者に多い。さらに「女性優先(レディーファースト)をしない」「ぶつかっても謝らない」「買わない商品にベタベタ触る」のも、海外ではれっきとした違反行為だ。

■「旅の恥」が一瞬にして全世界へ拡散される時代
海外滞在時のマナーは、昔からずっと、旅行ガイドブックに掲載されている。
現地の日本大使館がホームページで注意喚起するケースもある。ところが最近は、わざわざ有料の旅行ガイドブックを買わずにSNSで手に入る無料の情報を頼りにする旅行者が増えている。海外が今より特別な存在だった頃は、「その国にお邪魔させていただく」という敬意を払い、現地のマナーを入念に下調べしてから渡航する人も多かった。今の時代、そういう意識を持つ人は果たしてどれだけいるだろうか。

2025年12月上旬、インドネシアのバリ島で修学旅行中の日本人高校生による集団窃盗事件が起きた。現地に加え、日本や諸外国でも「日本人は礼儀正しくマナーがいい」というイメージが大きく損なわれる事態となった。子どもたちが悪いのは当然だが、修学旅行はそもそも学校教育の一環だ。事態の深刻さは言うまでもない。

「旅の恥はかき捨て」ということわざがある。「顔見知りが居ないという理由で、普段は恥ずかしくて出来ない事も旅先ではしがちなものだ」(新明解国語辞典)という意味だが、今の時代、“旅の恥”は画像や動画と共に瞬く間に全世界へ拡散される。ほんの一握りの日本人が犯したマナー違反や犯罪行為が、「日本人がやったこと」になってしまうのだ。

「世界最強」と言われて久しい日本のパスポートは、先人たちが積み重ねてきた努力のたまもの。
海外旅行中の軽々しい行為には、改めて気を付けたい。一度失った信用を取り戻すのは簡単なことではない。

この記事の執筆者: シカマ アキ
大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業後、読売新聞の記者として約7年、さまざまな取材活動に携わる。その後、国内外で雑誌やWebなど向けに、取材、執筆、撮影など。主なジャンルは、旅行、飛行機・空港、お土産、グルメなど。ニコンカレッジ講師をはじめ、空港や旅行会社などでのセミナーで講演活動も。

編集部おすすめ