日本の子どもは、身体的な健康水準が高い一方で、精神的な幸福度が低い——。国際調査が示すこの結果は、家庭での過ごし方や親子の関係性とも深く関係しています。


一方、世界幸福度ランキングで10年以上にわたり、常に上位にいるデンマークでは、日々の生活の中で、親子が自然に話し合う時間が大切にされています。

本記事では、『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』(ニールセン北村朋子・著/青春出版社)より一部抜粋・編集し、デンマークの家庭で当たり前のように行われている親子のやりとりから、日本の子どもたちの「幸せ」を考えるヒントを紹介します。

■デンマークの家庭教育——子どもを「個人」として尊重する
日本で生まれ育った私にとって、デンマークでの子育ては、正直に告白すると、実に「面倒くさい」ものでした。なぜかというと、デンマークでは家庭でも、常に「民主的であること」が求められるからです。

例えば、子どもにいま、何かをしてもらいたいと頼む時。私が子どもの頃は、父や母がよく私に「いますぐ〇〇しなさい!」と言ってきました。

私自身はその時に何かをやりかけていたり、すぐにやりたい気分ではなかったりして「え~どうして? いまじゃなきゃダメなの?」としぶります。

すると「いいから早くやりなさい!」「口ごたえしないで、すぐに言うことを聞きなさい!」と問答無用でやらされることも多く、よくモヤモヤしたりムカムカしたりしたものでした。

でも、デンマークではこのやり方は一切通用しません。もし子どもが何かをやっている最中だとしたら、子どもが納得するように説明できなければ、子どもは親の指示でもすぐには従わないことが多いのです。

だから、「これから、〇〇をしてほしいと思っているの。理由は××だから」と説明すると、子どもが「いますぐじゃなきゃダメ? いま、△△をやっているから、あと30分くらいしたら、〇〇ができると思うんだけど」「そう。
じゃあいまやっていることが終わったら、30分後くらいを目処(めど)にお願いね」という具合です。

これは、子どもから大人に何かを頼んだりする時も同じです。できるだけ、お互いが納得して合意した上で、できるような状況に持っていこうとします。

■お互い違うからこそ、よく話し合う
子どもは親の所有物ではなく、独立した個人です。親から生まれていて、親の庇護のもとにもあるけれど、親と子、兄弟姉妹それぞれ性格も考え方も違います。それを大前提として受け入れる努力をしながら、子どもも大人も成長していきます。

これは言ってみれば当たり前のことなのですが、日本で育つとそれを忘れがちです。

つい「どうして私が思っているようにできないのかしら?」「どうして、すぐに言うことを聞かないんだろう?」などと、こと自分の子どものことになると、つい親である「私」や「自分」を基準に物事を考えがちですが、私の「当たり前」や私の「普通」という感覚は、あくまでも自分だけのものであって、人はそれぞれ、たとえ自分の子どもであっても、少しずつ違う感覚を持っています。

だからこそ、デンマークの人たちは、できるだけ話し合いをします。2人の場合はお互いが、複数人の時は、そこに参加しているすべての人にとって良さそうな「落とし所」、言ってみれば、みんなにとってのセカンドベスト、デンマーク人がよく使う言葉で「最上の妥協点」を探ろうとします。

■なぜ日本の子どもは「精神的幸福度」が低いのか?
2025年5月に公開された、ユニセフのイノチェンティ研究所の「レポートカード19:予測できない世界における子どもたちのウェルビーイング」によると、日本は総合順位で36か国中14位、全体の中ほどに位置しています。

身体的健康では1位をキープ、スキルの分野では12位である一方で、精神的幸福度の分野では32位に位置し、若者(15~19歳)の自殺率は、2018年の10 万人あたり7.4人から2022年には10.4人に増加。
高所得国平均の6.24人のほぼ2倍です。

身体的健康に関しては言うことなしですが、精神的幸福度と自殺率に関しては、非常に気になるデータです。

精神的幸福度が低い理由として、レポートを見ると、親と少なくとも週に1~2回以上会話をする時間を持つ青少年の割合が、日本はわずか53%で最下位(ちなみにデンマークは84%。トップはアイルランドで91%)で、親と話す時間の頻度と生活満足度というデータを見ても、「毎日、もしくはほぼ毎日話す」と回答した子どものほうが、生活への満足度が高くなっています。

■親子で話す時間が少ないのはなぜ?
前述の通り、日本で子どもの精神的幸福度が低い理由のひとつとして、親子の会話の時間が他国に比べて少ない、とありました。では、なぜそうなってしまうのでしょう?

ひとつは、子どもも大人も忙しい、ということが考えられます。

子どもは、学校の部活、習い事、塾などに通っている人も多く、なかにはこれをいくつか並行してこなしている子どもたちもいます。学校の部活は、平日だけでなく、土日や、夏休みなどの長期休暇の時にも当たり前のように活動を行っています。

その上、塾や習い事にも週に何日か通う子どももいることでしょう。塾の帰りも、学年が進むにつれて、または住んでいる環境によっては遅くなる場合もあります。

そうしたことから、通常、家族が食事を取る時間に、一緒に食べることが難しい日も出てきます。

大人は大人で、仕事が忙しかったりして、帰りが遅くなると、家族と共に過ごす時間や、ごはんを一緒に食べる時間が少なくなりがちです。


大人も子どもも忙しい状態だと、親子の会話の時間を見つけるのは物理的に難しくなります。

落ち着いて話す時間が持てないと、ちょっと悩んでいることや困っていること、話し合ってみたいことなどをじっくり聞いたり話したりしづらくなります。そうなると、良好なコミュニケーションを保つことが難しくなるのも当然の帰結です。

子どもも親も幸せに生きるためには、シンプルですが、もっと、いましかない一緒にいる時間を大切にすることに尽きます。

大人にとって、その残業、休暇を取らずに続けるその仕事……。子どもにとって、休みもなかなか取れない部活、たくさんこなす習い事、夜遅くまである塾や数限りない模擬テスト、夏期・冬期講習……。長い人生を後悔せずに生きることを考えた時、本当に、そこまで重要なことでしょうか……?

この書籍の執筆者:ニールセン北村朋子 プロフィール
文化翻訳家。神奈川県出身。会社員、米国留学等を経て、2001年よりデンマークのロラン島在住。教育や持続可能な社会、民主主義などについて、さまざまな発信と連携、実践的な取り組みを行っている。デンマーク・インターナショナル・メディア・プレスセンター代表メンバー。DA NSK 主宰。
デンマークそもそもラジオ パーソナリティ。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会アドバイザー。京都芸術大学通信教育部「食文化デザインコース」講師。デンマーク発祥デモクラシーフィットネス公式トレーナー。著書に『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』(青春出版社)、『ロラン島のエコ・チャレンジ~デンマーク発、100%自然エネルギーの島』(新泉社)がある。
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