「失敗したらどうしよう」「恥をかきたくない」——そんな不安から、一歩を踏み出せなくなることはありませんか?

実は国際調査でも、日本は「失敗を恐れる人が世界一多い」という結果が出ており、私たちは知らず知らずのうちに“他人の目”を気にする文化に縛られています。

精神科医・和田秀樹氏は、『落ち込まない 考えすぎない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、「他人はあなたの失敗を覚えていない」と断言します。


今回は本記事より一部抜粋・編集し、失敗を恐れる“呪縛”から自由になり、心をスッと軽くするヒントを紹介します。

■なぜ日本人は「失敗」が怖い? データが示す事実
「日本人は失敗を恐れすぎている人が多い」と私は常々思っていますが、それが表れている調査結果についてお話ししましょう。

国際機関のOECD(経済協力開発機構)は3年ごとに、PISA(ピサ)と呼ばれる国際的な学習到達度調査を行っています。

2022年の調査では、OECD加盟国をはじめとした81の国・地域が参加しました。その中で日本は、数学的リテラシーでは第5位、科学的リテラシーでは第2位、読解力リテラシーでは第3位と、3分野で世界トップレベルに入りました。

その一方で、日本の将来を考えると、心配な結果も出ています。

2022年のPISAの生徒質問調査では、日本の生徒は、自ら学ぶ意欲や、自力で学校の勉強をこなしたり、学習予定を立てたりする自信に欠ける傾向が浮き彫りになりました。

こうした自律的な学習に対する自己効力感をスコア化したところ、37カ国中第34位という結果が出ています。

また2018年に行われた生徒質問調査では、「失敗を恐れる程度」を調査する項目がありました。

この調査の結果、日本人生徒の「失敗を恐れる」傾向は、OECD加盟国中、最も高い数値を示しています。

15歳の生徒対象の調査結果ですが、大人を対象に同様の質問による調査を行っても、同じような結果が出ることが推測できます。むしろ、大人たちの傾向がそのまま子どもたちに伝わっていると見たほうがよいでしょう。


こうした傾向を持つ子どもたちが、失敗せずにすむ無難な道だけを選ぶようになれば、日本の社会はどうなっていくのでしょうか。

挑戦のないところに発展はありません。目まぐるしい変化と多様化が進む世界情勢の中では、現状維持すら難しくなるでしょう。

■日本人を縛りつける「恥の文化」の正体
ではなぜ、日本人はここまで失敗を恐れる傾向が強いのでしょうか。

その理由は、日本人の控えめで謙虚な気質にあるのではないかと分析する人がいます。

また、日本には「恥の文化」があるといわれています。これはアメリカの人類学者ルース・ベネディクトが著書『菊と刀』の中で、日本人に特徴的に見られる文化類型として用いた言葉です。

「恥の文化」においては、「他人に笑われたくない、恥をかきたくない」という意識がく、世間の評価を気にしながら行動し、他人から批判されることを恐れる特徴が見られます。

そのような文化的背景から、失敗を恐れる気持ちが強くなってしまうと見る向きもあります。

しかし本当に、「失敗は恥」でしょうか。「フロー型」(※考えすぎる前に「まずやってみよう!」と動けるタイプ)を目指すなら、「恥の文化」の呪縛から自らを解放しなければなりません。

「失敗を恐れる生き方」は、自分自身を縛りつけ、追い詰めてしまう生き方であることを、もっと認識すべきなのです。


■精神科医・和田秀樹が経験した「盛大な挫折」
現在の私の主な仕事は精神科医ですが、それ以外にも、受験指導や大学教員、作家活動など、多岐にわたる職業に携わっています。

そんな私の子どもの頃からの夢は映画監督でした。私は幸いなことに子どもの頃からの夢を叶えることができ、これまでに映画監督として5本の映画を世に送り出しています。

初めて映画監督として映画を撮影したのは、大学生のときでした。16ミリ映画でしたが、プロの俳優さんに出演を依頼し、本格的な映画撮影に臨んだのです。

ところが所詮はズブの素人で、段取りも何もあったものではなく、スケジュールに大幅な遅れが発生して、俳優さんの所属事務所から怒られて、出演を辞退されてしまったのです。

そのため映画自体が撮影中止となり、そのままフェードアウトすることになってしまいました。

「ああ、なんて失敗をしてしまったんだろう」

このときは、自分の未熟さや不甲斐なさに呆れ、落ち込みました。

■人は他人の失敗なんて覚えていない
しかし、大学を卒業して医師となり、それ以外の仕事もしながら、いつの日か再び映画を撮る日が来ると信じ、機会があれば逃すまいと心に誓っていました。

そうして四半世紀余りの時を経た後、『受験のシンデレラ』という映画でメガフォンを取り、今度は完成させることができました。

世間の評価も上々で、「素人監督の撮った映画とは思えない」とお褒めの言葉もいただき、モナコ国際映画祭でグランプリ受賞という栄誉に浴することにもなりました。

あの失敗の際には「やっぱり映画監督なんて、無謀だったんだ」「もう映画を撮るチャンスなんてないだろうな」というあきらめや「笑われているだろうな」といった自己嫌悪の気持ちもありました。


しかし、失敗の後に、段取りを知らないから失敗したと指摘され、素直に映画の段取りを学んだ結果、気持ちがすっとラクになったのです。

もう一つ私が気づいたのは「人は他人の失敗なんて、見ていない。覚えていないし気にしていない」ということです。

そのことに気づかなかったら、私はいつまでも悔やんで落ち込んで、映画監督に再び挑戦しようという気持ちになれなかったかもしれません。

少なくとも私自身は、自分の周りで誰かが失敗しても、たいがいは忘れてしまいます。また、他人の失敗で自分が迷惑を被っても、いつまでも根に持つこともありません。周りを見ていても、忘れてしまう人が大半です。

映画でも、巨匠といわれる名監督が世に送り出した作品のすべてが、後世まで語り継がれるわけではありません。多くの名監督にも、散々に酷評された作品があるものです。そのような作品の記憶は、名作の記憶に上書きされて、忘れ去られてしまいます。

まして、日常生活の中の他人の失敗など、とるに足らないもの。記憶している人などいないのです。


めまぐるしく世の中が動いている中で、多くの人は、他人の失敗をいちいち気にかけていられるほどヒマではないのです。「他人の目を気にして失敗を恐れる」のは、無意味で無駄なことです。この書籍の執筆者:和田秀樹 プロフィール
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。
東京大学医学部卒附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院を経て、現在は精神科医。 国際医療福祉大学教授、ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表。一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。川崎幸病院精神科顧問。和田秀樹こころと体のクリニック院長。立命館大学生命科学部特任教授。
編集部おすすめ