成果主義が広がり、他人と比べられる場面が増えた現代。私たちはいつの間にか、周囲を「競争相手」として見る癖を身につけてはいないでしょうか。


しかし精神科医・和田秀樹氏は、『落ち込まない 考えすぎない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中で、他人を蹴落とすよりも「仲間にする」ほうが、目標達成への近道だと説きます。

受験や仕事、スポーツの世界にも共通する“高め合う関係”の力とは? 今回は本書より一部抜粋・編集し、比較に振り回されず、「自分軸」で生きるためのヒントを探ります。

■競い合うほど、組織は弱くなる?
日本の終身雇用と年功序列は、高度経済成長期を支える柱でもあったのですが、いつしか欧米諸国に倣った成果主義を導入する企業が増えました。

現在では成果主義の弊害も語られつつも、中堅・大手企業の7~8割が成果主義を柱とする人事制度を導入しているという調査結果もあるようです。

成果主義のもとでは、社員同士の競争が生まれやすくなります。その結果、業績も上がると考えられていたのですが、成果主義の導入以降、かえって業績が落ちたという会社も少なくありません。競争に勝てない従業員の意欲が低下するなどして、当初の目論見とは真逆の方向に向かってしまったのです。

営業の分野では、終身雇用・年功序列の時代から競争が行われており、競争が過激になると社員同士のつぶし合いや、顧客の奪い合いが起こり、業績低下の原因になることが指摘されていました。

そのようなセールス競争に見られる弊害が、成果主義の導入により全社的に広がった形になったわけです。

成果主義で業績が落ちた企業では、評価基準を見直したり、人材育成とセットで導入したりするなど、さまざまな改革が行われるようになりました。

例えば「個人の目標達成よりもチームでの目標達成を重視する」といったことも取り入れられています。「個人」ではなく「チーム」での目標達成に切り替えることで業績が伸びるという点については、私自身の経験に重ねても、その通りだと思います。


■灘高生は競わない? 東大合格へ導く「仲間」の力
話は私の大学受験の頃に遡ります。

受験戦争という言葉がありますが、大学入試では、推薦入試の推薦枠を巡って成績が比較されるケースなどを除いては、他の受験生との比較ではなく、自分が何点を取ったかで合否が決まります。合格ラインの点数を取れば合格できるわけで、ライバルが落ちれば自分が合格するというシステムではありません。

したがって、同級生や他の生徒をライバル視して「あの人に勝たなきゃ合格できない」と躍起になったり、学内で成績を競い合ったりする意味はありません。

私が在学していた灘高では、東大には毎年100名前後が合格するので、大体上位150番くらいまでの成績であれば、東大合格の可能性は十分にあります。しかし、100番以内の順位にいても、本番の試験で合格点を取れなければ不合格になります。

そうなると、生徒の関心は「誰かを蹴落とす」ことではなく、「みんなが合格点を取れる」方向に向きます。

その結果、友達同士で「こんな問題集を見つけたよ」「この参考書はわかりやすくていいよ」など、さまざまな情報交換が行われていました。

わからないところを教え合ったり、調べた結果を持ち寄ったりと、助け合いながら勉強していたので、なおさら理解も進み、それぞれが実力を高めていくこともできました。それによって学校全体では、東大合格者数日本一が当時確保できていたのです。

そのときの経験をもとに、私は受験指導の場でも「志望校に受かりたければ、友達と仲良くしなさい」といっています。友達と仲良くすれば、いろいろ有益な情報が入ってくるし、助け合いながらお互いを高めていくことができるからです。


■他人との比較をしていい人、しないほうがいい人
仲間を作って互いを高め合うほうが、競い合うより目標達成の近道になるのは、仕事に関しても同様です。また勝敗を決するスポーツ競技などの世界でも、団体競技はもちろん、個人競技でも同様のことがいえます。

他人を蹴落とそうとする人、とにかく自分だけが勝てればいいとがむしゃらになる人は、ある程度まで上にいけることはあっても、トップを極められないといいます。

スポーツの世界で優れた実績を残した人の中には「自分の成長や成功はライバルの存在があったからだ」という人がいます。

「よきライバル」とは、拮抗する力量を持つ者同士が、互いに競い合いながらもリスペクトし合い、ともに向上し合う関係にある相手のことです。ライバルの存在によって、目標に向かうモチベーションが上がり、競い合うことでともに力を伸ばしていける関係です。

このようなよきライバルの存在の効果は、「レッドクイーン効果」と呼ばれます。これは生物進化学の用語で、生物同士が競い合って進化し合うことを意味する言葉です。こうした効果は、スポーツだけでなく、人の活動のあらゆる場面に当てはまります。

注意が必要な点があるとすれば、「よきライバル」となるのは、自分の実力とほぼ互角の相手であることです。

自分よりずっと高い実力の人は目標にはなりますが、一気に目標に到達しようとすれば、挫折を味わう結果にもつながります。一歩一歩、段階を踏みながら目標に向かっていくことが大切なのです。


■比較が「心の毒」になる前に。自分軸を取り戻す考え方
いずれにしても、他人が刺激となり、自己の成長につなげられるなら、他人との比較にも意味があります。

しかし、他人を見て、自分に足りないところに目が向いて、自信をなくしたり、相手をうらやんだりするのなら、他人との比較は毒になってしまいます。

自分より下の人がいると安心する人や「自分はそこまで下じゃない」と現状に満足して、挑戦しなくなる人も同様です。

こうなってしまうなら、他人との比較などするものではありません。手に入れられるものは何もないうえに、将来にわたって失うものが大きいからです。

「他人は他人、自分は自分」そう割り切ると、気持ちがラクになり、さらに、これまでは曇りガラスに遮られてよく見えなかった自分が見えてくるようになります。

基準を他者に置くのではなく、自分軸で考え、判断する。それが最も自分を幸せにできる生き方なのです。この書籍の執筆者:和田秀樹 プロフィール
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。
東京大学医学部卒附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院を経て、現在は精神科医。
国際医療福祉大学教授、ヒデキ・ワダ・インスティテュート代表。一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。川崎幸病院精神科顧問。和田秀樹こころと体のクリニック院長。立命館大学生命科学部特任教授。
編集部おすすめ