新学期やクラス替えの季節は、子どもの人間関係が大きく変わる時期。「最近、わが子の様子がどこかおかしい」「もしかして学校で何か起きているのでは……」と、不安を感じる親もいるかもしれません。


もしわが子がいじめられていると知ったとき、親はどう行動すればよいのでしょうか。

児童精神科医・佐々木正美さんは「相手を罰するのではなく、むしろ“いじめっ子”に愛情を注ぐことが解決への近道」と、ハッとさせられる視点を提示します。

本記事では、書籍『この子はこの子のままでいいと思える本』(主婦の友社)から一部を抜粋・編集し、いじめに直面したとき親ができる対応について紹介します。

■「もしかして、いじめられている?」わが子の異変に気づいた親の不安
【お悩み】
いじめられている息子に親ができることは?(小3と4才男の子の母)

小3の息子はおっとりした穏やかな子です。半年くらい前から弟に意地悪になり、激しくワガママを言うことが増えました。

よくよく聞いてみると、クラスの男子にいじめられているようです。行動が遅いことで押されたり蹴られたり……。ときにはなぐられることもあるようです。

息子は腕に大きなあざがあるのですが「これはもうすぐ死ぬ印」と言われたそうです。

中心になっている子は学校のサッカーチームで活躍している人気者のAくんです。

ほかの子のママからAくんのママにそれとなく話してもらったところ、「先生から聞いたので、Aを厳しくしかった。ふだんから、いけないことをしたらなぐってでも蹴ってでもしつける」と言っていたそうです。


でも、逆効果のような気がしてなりません。

担任は新任の先生で、対応もその場しのぎに見えます。息子を支え、息子の学校生活を楽しいものにするために、親にできることを教えてください。

■わが子がいじめられていたら、親はどう動くべき?
【回答】
もしもいじめられているのがわたしの子なら先生に「Aくんに目をかけてください」と頼みます。Aくん親子とは仲よくなるよう努力します。

友だちに暴力をふるう、友だちをいじめるという事件が起こると、先生の指導力だとか、子ども同士の人間関係が取りざたされます。

しかし、もっとも重要なことは親子関係です。

あえて言わせていただきますが、いじめっ子はほぼ例外なく、親子関係になんらかのストレスを抱えています。

親が虐待しているとまではいかなくても、家族内の人間関係がうまくいっていないのです。だから学校という場でも健全な人間関係をつくることができずにいるのです。

しかし、他人の家庭の問題に足を踏み入れることは非常に難しいうえに、いじめっ子の親自身も十分な愛情を注がれずに育っている場合が少なくありません。だからこそいじめ問題は根深いのです。


わたしはいじめ問題の専門家ではありませんから、「わたしの子がいじめられていたら、わたしならどうするか」という前提でお話ししたいと思います。

■まず担任に相談。「いじめっ子に目をかけてください」とお願いする
わたしなら、わが子が転校したい(あるいは転校させたほうがいいと親が思う)なら、転校させます。逃げる・逃げないではなく、子どもにとってよい環境を探すことは非常に大事なことだからです。

もしも子どもが「転校はイヤだ」とかたくなに言うのであれば、必要に応じて学校を休ませつつ、学校の先生と話し合いをします。

まずは担任の先生に、「Aくんに十分に目をかけてあげてください」とお願いします。

この子はこれまでにも、さんざんしかられていることでしょう。親からはなぐられているのです。

この子にいま必要なのは、精神の安定です。善意や好意や愛情です。それを担任の先生に注いでもらえるようお願いします。

たとえば彼に用事を頼み、「力持ちだから助かるよ」などと、ほめる場面を多くつくってもらいます。


■「なぜいじめっ子にやさしく?」問題の根本は“子どもの不安定さ”
「なぜいじめっ子にやさしくしなくちゃいけないの?」と思われるかもしれませんが、いじめている子が不安定でストレスがたまっているうちは、問題は解決しないからです。

幼児教育の現場では、友だちに乱暴する子がいたら、真っ先に乱暴した子を抱きしめてあげるというやり方が効果を上げています。園内の暴力が減っていくことが実証されているのです。

また、いじめはクラス全体の問題なので、保護者会で議題にしてもらいます。

教室内にいじめがあることを知らない保護者もいますから、事実を共有し、各家庭でわが子に対して「友だちに暴力をふるうのはいけない」「身体的な特徴をからかってはいけない」と伝えてもらえるようにお願いします。

状況を見ながらですが、学校の先生からAくんの親に「なぐってでも蹴ってでもしつける」という方法をやめてもらうようお願いします。このしかり方は決定的にまちがえています。暴力の連鎖を生むだけです。

ただ、先生とAくんの親の間に信頼関係がないと「おまえのせいでわたしが恥をかいた」とAくんがしかられる可能性があるので、十分な配慮が必要です。

■親同士の関係づくりが、いじめ解決のヒントになる
家庭では、わが子の話を気のすむまで聞いてあげたいと思います。とはいえ、「今日、どうだった?」とストレートに聞くのは控えます。

学校から帰ってきたら、おやつを用意して、いっしょに食べながらおしゃべりをするのです。
そのときに、子どものほうから学校でのことを話してきたら聞いてあげます。

「聞き出す」のではなく、子どもが本音を言える状況をつくるということです。言わなければ、無理に聞き出すことはしません。

子どもが自分から話すようになるためにも、このような問題が起こる前から、子どもが話しかけてきたときには少しだけでも手を止めて聞く、子どもの意見を頭ごなしに否定しない、という習慣をつけておくといいですね。

そして、わたしだったらAくんに「家に遊びにおいで」と声をかけると思います。彼と自分の子を連れて、休日に遊園地やサッカーの試合を見に行くこともすると思います。

もちろん、しかったりすることはしません。できるならAくんの親御さんもいっしょに行きたいと思います。親同士のいい人間関係をつくることが、遠回りでもわが子にとっていい効果をもたらすことになるからです。

親にできることは小さなことです。けれど、Aくん(と親)の精神が安定すれば、ゆっくりであっても事態は解決の方向に向かうと信じて、わたしなら動いていくでしょう。

これは理想論でしょうか。
確かにここに書いたこと、すべてできるかどうかはわかりません。でも、できることから一歩ずつ進めていきたいと、わたしは思うのです。
佐々木正美 プロフィール
1935年、群馬県前橋市生まれ。1966年、新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学に留学して児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後は国立秩父学園や横浜市の療育施設などで児童臨床医として活動し、自閉症の子どもと家族を支える療育の実践と普及に尽力。川崎医療福祉大学教授などを歴任。『この子はこの子のままでいいと思える本』(主婦の友社)、『子どもへのまなざし』シリーズ(福音館書店)など著書多数。2017年6月逝去。
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