運動や勉強、人づきあい——わが子の「苦手」が気になり始めると、「このままで大丈夫だろうか」と不安になることもあるでしょう。
児童精神科医・佐々木正美さんは「得意・不得意を親が気にするそぶりを見せないことが大切」と語ります。本記事では、書籍『この子はこの子のままでいいと思える本』(主婦の友社)から一部を抜粋・編集し、子どもの自信を育てる関わり方を紹介します。
■入園・入学、新学期——気になり始める「わが子の苦手」
【お悩み】
わが子の「苦手」や「不得意」にどう向き合う?(5才男の子の母)
わたしは子どものころからスポーツも勉強も苦手で、親に「なんで○○もできないの?」「走る練習をしろ」「努力が足りない」などと言われました。
息子もわたしに似て運動神経がよくありません。2~3才のころ、公園の遊具で同年代の子どもたちと遊ぶ姿を見て確信しました。
だからわたしは否定的なことは言わず、「この前よりじょうずになったね!」と肯定的な言葉かけを意識的に続けてきたのです。
それが功を奏したようで、5才になったいまは「オレ、走るの速いんだ」「サッカーが得意なんだ」などと言うようになってきました。実際には、そんなに速くもないし、得意にも見えませんが、幼児のうちはこれでいいと思っています。
でも、小学生になってまわりのことが見えるようになると本人も気がつくはず。もしかしたら、勉強や人間関係での「苦手」も目につくかもしれません。親はどうフォローすればよいでしょうか?
■子どもの苦手を、親が無理に克服させる必要はない
【回答】
子どもの得意や不得意を親が気にするそぶりを見せないことです。
子どもがいくつになっても、得意や不得意を親があまり気にしないでお育てになると、いいですね。
友だちに比べて何ができるできないは、子ども自身が自然に感じていくものです。どう感じるかも、子ども自身にまかせておきましょう。
子どものほうから「かけっこでビリだった」「友だちにへたくそって言われた」などと言ってきたら、「気にしなくていいんだよ」「でも、あなたはこれが得意だよね」となぐさめてあげるといいでしょう。
誰にでも得意なことと不得意なことがあるということは、ぜひ言ってあげてください。
ご自身も運動が苦手だったようですから、「お母さんも走るのが遅かったんだよ。わたしに似たんだね。でも、絵を描くのが好きなところもお母さんに似ているね」と言ってあげると、子どもは安心します。
苦手なことを克服させようと、親が一生懸命にがんばる必要もありません。
■ほめすぎもNG? 大きすぎる期待が子どもを追い詰める理由
わが家の子どもたちも、運動が得意な子、普通の子、苦手な子がいました。
その中で、運動の得意な子と苦手な子が同じ野球部に所属していた時期がありました。得意な子はレギュラーとして活躍し、苦手な子は勝ち負けが確定した9回にピンチヒッターで出してもらえる程度でした。
そのころ、わたしはやや意識していましたが、子どもが試合などで活躍してもあまりおおげさにほめませんでした。逆に試合で失敗したり、出番がなかったりしたときにも、がっかりした顔はけっして見せませんでした。
ほめすぎない、がっかりしないことは、兄弟姉妹がいるといっそう大切です。よくできる子をほめすぎる、できない子にがっかりする。そうすると、子どもの中に質の悪い優越感、質の悪い劣等感を植えつけることになってしまうのです。
できたことを「よかったね」とほめるのはいいのですが、できない子が卑屈になるようなおおげさなほめ方はしないようにと、意識されるといいと思います。
ほめすぎることは、しかりすぎることと同じくらい、子どもを追い詰めることがあるということも知っておいてください。
オリンピックで活躍する選手が、「結果を出せなくて申し訳ございません」とカメラに向かって頭を下げる姿を見たことがあるでしょう。いったい誰に何をわびる必要があるのかと思いますね。日本中でその人よりもじょうずにできる人がいないから出場しているのですから。
大きな期待がいかに大きな負担になるかを証明していると思います。
■苦手はそのままでいい。子ども時代は「やり過ごす」時期
わたしの息子の中で運動が苦手だった子は、高校に入学してテニスを始めました。息子の学校のテニス部はインターハイに出場するような強豪校で、練習も非常に厳しいのです。
息子には無理だろうと思ったのですが、彼は「大好きな友だちがテニス部で、彼らに誘われたから入部したい。試合に出られなくても、いっしょに練習できればうれしいんだ」と言うのです。
顧問の先生も「佐々木くんにうちの部はきつすぎるのでは」と心配していらしたので、わたしから「本人がそのように申していますので、おじゃまでなければおいていただけませんか?」とお願いしました。
顧問の先生は理解のある方で、快諾してくださり、「みんながグラウンドを3周するところを佐々木くんは1周、というように配慮しますね」とおっしゃってくださいました。
そのような配慮もあって、息子は高校での3年間、部活でテニスを続けることができました。
あるとき、家族旅行で宿泊したホテルにテニスコートがあり、家族でテニスをしたことがありました。そうしたら、その子だけ特別にじょうずでした。運動神経のいい子よりはるかにじょうずなのです。
こつこつ3年間続けるというのはそういうことなのだと、感動しました。
息子は運動が苦手ながら、一生楽しめるスポーツを手に入れたのです。いい学校のいい部活動と出合えて、本当によかったと感謝しています。
人には誰しも、得意なことと不得意なことがあります。長所は長所として発揮しつつ、弱点や苦手があっても、それを持ち合わせたまま、弱点が目立ちやすい時期をやり過ごすのがいいと思います。
大人になれば、走るのが速いかどうかなど、誰にもわかりません。走るより自転車に乗ったほうが、ずっと速くて便利なのですから。
佐々木正美 プロフィール
1935年、群馬県前橋市生まれ。1966年、新潟大学医学部卒業後、東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学に留学して児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後は国立秩父学園や横浜市の療育施設などで児童臨床医として活動し、自閉症の子どもと家族を支える療育の実践と普及に尽力。川崎医療福祉大学教授などを歴任。『この子はこの子のままでいいと思える本』(主婦の友社)、『子どもへのまなざし』シリーズ(福音館書店)など著書多数。









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