皇室をめぐる議論では、「皇族の数が減っている」という問題がしばしば取り上げられます。しかし実は、「皇位継承」と「皇族数の減少」は本来まったく別の問題です。


皇位継承とは、誰が次の天皇になるのかという国家の根幹に関わる制度です。一方で皇族数の問題は、公務の担い手に関する実務的な課題にすぎません。

本記事では『竹田恒泰の特別講義 天皇と皇族』(竹田恒泰・著/Gakken)より一部を抜粋・編集し、日本の皇位継承を支えてきた男系継承の原則と、その背景にある考え方を解説します。

■「皇位継承」と「皇族数減少」は別の問題
現在、政府も皇室を取り巻く状況を深刻に受け止め、早急な対応が必要だとして議論を進めています。しかし、ここで何より注意すべきなのは、「皇位継承」と「皇族数の減少」という2つの課題が、しばしば混同されているという点です。

はっきり言うと、この2つは本質的にまったく異なる問題です。

まず「皇位継承」とは、天皇の譲位あるいは崩御(ほうぎょ)により、次代の天皇に正統に皇位が引き継がれることを意味します。日本国憲法および皇室典範に則り、「皇統に属する男系の男子」が皇位継承資格者であると明確に規定されていて、それ以外は正統な皇位継承ではありません。

一方で「皇族の減少」は、現在の天皇陛下とそのご一族からなる皇族の人数が減ることによって、祭祀や儀式、公務の担い手が不足するという懸念を指しています。

この両者は一見同じ問題に見えても、論点としては明確に分けて議論されるべきものです。

「誰が天皇になるのか」という国家統治の根幹と、「誰が皇室の公的活動を担うのか」という実務の問題では、次元が異なるのです。

■皇位継承を支えてきた男系継承の原則
日本の皇室は初代・神武天皇以来、現在の今上陛下まで126代にわたり、連綿と皇位が継承されてきました。
たしかに、その間、時代に応じて継承順位のルールには変化がありました。

たとえば、かつては弟が兄より優先された時期もあり、1代限りとはいえ女性天皇が即位した例もあります。

しかし、変わらなかったのが「男系による継承」という原則です。すなわち、歴代すべての天皇が、父方の系譜をたどれば神武天皇に行き着く男系の血筋に属していたという事実です。

これは初代天皇からの不動不変の大原則であり、女系の人物が皇位を継ぐことはありえません。

現在、国会で行われている皇位継承の議論も、こうした原則をふまえたうえで、「いかにして男系男子による継承の流れを途切れさせることなく維持していくか」を前提に進められています。決して、女性天皇や女系天皇を認めるかどうかを主題にしているわけではありません。

むしろ、かつて小泉内閣時代に議論された「女性天皇・女系天皇・女性宮家」の検討は、現在の審議において重要な対象にはなっていないのが現実です。

■血統の原理を失えば王朝は変わる
そもそも、「天皇」という存在の根拠は、徳の高さでも、容姿でも、人格の崇高さでもありません。なぜ今上陛下が天皇でいらっしゃるのか。それは、天皇の血筋に生まれたからです。

生まれたその瞬間から、天皇になる運命を背負った存在——それが天皇です。
上皇陛下も、昭和天皇も同じです。これはすべて、皇統という血の流れによって成り立っています。

もしこの「血統の原理」を無視した継承が行われたならば、もはや別の王朝がはじまったに等しくなります。

欧州諸国では、王朝が断絶すると別の王家が王朝を受け継ぎ、国の体制も変わってきました。しかし日本は違います。一度も王朝が変わることなく、万世一系としてつながってきた唯一の国なのです。

しかも今、男系の血筋が完全に途絶えているわけではありません。昭和22年、GHQの占領政策によって臣籍降下させられた旧宮家の人々は、今もなお健在であり、男系男子の血筋を保ち続けています。私の祖父もその一人で、戦前には皇位継承順位を有していました。

そうした血統がまだ存続しているにもかかわらず、「もう男系は無理だから、女系でいい」という結論を出すことは、あまりにも短慮で軽率です。

■皇位継承は単なるジェンダーの話では済まない
「男女平等の時代なのだから、女性天皇であっても問題はない」という意見があることは承知しています。しかし、こと皇位継承に関しては、単なるジェンダーの話では済みません。


それは、日本の根幹をなすものであり、国家の同一性がかかっています。軽々しく変えてはいけないものがあるということです。

もし女性天皇が容認されば、その子どもは男子であっても女系であり、即位すれば女系天皇となります。

すると、「それはもう天皇とは認められない」と主張する人が少なからず出てくることでしょう。たとえ時代が変わろうとも、伝統に則ったかたちで皇位継承を守っていくことが、結局は最も確実な道なのです。

■象徴天皇に求められる「正統性」
日本国憲法第一条には、「天皇は、日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴である」と明記されています。

では、もし国民のなかに「この人は認められない」という声が一定数存在するような天皇が現れた場合、国民の意見が真っ二つに分かれて、深刻な分断と対立を生むことにならないでしょうか。さらにいえば、その天皇ははたして「日本国民統合の象徴」といえるでしょうか。

日本は世界でも稀にみるほど治安のよい国であり、政治的にも安定しています。政権が交代しても戒厳令が敷かれるようなことはなく、平和裏に政治が継続されています。しかし一部の国では、選挙のたびに混乱と対立が起き、場合によっては王が出てきて仲裁に入るというような事例も見られます。

だからこそ、日本のような安定した社会においても、非の打ちどころのない存在——誰もが敬意をもって受け入れられる天皇の存在は、ふだんは意識されないとしても、国家の根幹を支える重要な柱なのです。


■女性天皇が招く「皇室の終わり」
この観点から見ても、皇位継承においては「男系男子による継承」という原則をいかに維持するかを真剣に検討すべきです。私はそうした理由から、女性天皇には一貫して反対の立場をとってきました。

実際に、皇族のなかからも同様の懸念が示されています。「お髭の殿下」として知られた三笠宮家の寬仁(ともひと)親王殿下は、皇族としては異例ともいえるかたちで、女性天皇に対して公に反対の意志を表明なさいました。

殿下は「あえて火中の栗を拾いに行っているような嫌いがあります」とご自身の発言の重みを語りながら、女性天皇は最終的に女系天皇につながる危険があるとし、「それはすなわち皇室の終焉(しゅうえん)を意味する」と明言なさいました。

殿下のご発言は、単なる私見ではなく、長く皇統を担ってきた皇族としての責任と覚悟に裏打ちされたものであると、私は深く受け止めています。
この書籍の執筆者:竹田 恒泰 プロフィール
作家、実業家、皇學館大學非常勤講師。1975年、旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫にあたる。慶應義塾大学法学部法律学科卒。専門は憲法学・史学。『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)で第15回山本七平賞受賞。
2021年に第21回正論新風賞受賞。『天皇の国史』(PHP研究所)、『現代語古事記』『古事記完全講義』『竹田恒泰の特別講義 天皇と皇族』(以上Gakken)など著書多数。近年は、歴史教科書の執筆・出版、古墳型墓所の設計・販売なども行っている。
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