2026年の入試問題は、単なる知識の詰め込みでは太刀打ちできない「思考の深さ」を問うものが目立ちました。
■【国語】「量より質」への転換。初見の文章に立ち向かう“高度な読解力”を
まずは、国語。登壇したのは、中学受験部国語科責任者・本多弘篤さん。はじめに国語の入試問題がどう変化してきているかが語られました。
2001年に開成中の国語の入試が記述問題を増やしたことを機に、中学入試全体の難度が上昇し、2010年代前後はやや長過ぎるように見える長文や記述の量が多い問題が目立ちました。
近年は長文化が落ち着いてきて、「新たなフェーズ」に突入していると本多さんは言います。大学入学共通テストの影響を受け、受験生に高度な読解力が求められる時代になっています。
注目すべきポイントは、出題作品の約59%が直近2年以内に発表・刊行されたものだったという点です。塾のテキストや模試で見たことがある文章ではなく、本番で初めて出会う文章に立ち向かえる力が不可欠です。
テーマ面では、哲学的・抽象度の高い論説文の増加が顕著でした。また、灘中が出題したパレスチナ系詩人の詩「おなまえ かいて」は、ガザの紛争地帯で子どもの身元確認のために足に、番号ではなく名前を書いておく習慣を題材にしたもので、ニュースでも大きく取り上げられました。
国語の問題は「量より質」へ転換しつつあります。語彙(ごい)力については、「コスパ」「アプリ」といった外来語の正式名称を問う問題も出てきて、日常生活で言葉に敏感に向き合う姿勢が求められます。
■【算数】合格の鍵は“数感”と“作図力”。「手を動かして試行錯誤できるか」が差を生む
次に算数では、中学受験部上席専門職の岡田聡さんが登壇。今年の印象を4つのキーワードで整理しました。「標準的な難度」「深化と進化」「テーマの拡大は穏やか」「解法技術の習得と論理的思考力は両輪」です。
入試問題自体の難度は標準的な学校が多かった一方、合格最低点が前年よりも下がった学校が目立ちました。
その理由の1つに、「自分の手を動かす問題」が増えたことがあります。グラフを読む問題より、自分でグラフを描いた上でそれを活用していく問題が増え、正答率が下がったのです。
例えば、開成中では30秒ごとに変化するグラフを自分で描き足す高難度の問題が登場しています。限られた時間の中でいかに効率的に手を動かして試行錯誤することができるかが求められます。
計算問題においても学校ごとの特色が表れており、「数感」を必要とする問題も出ています。「156」という数字を見て、「12×13だ」と瞬時に見抜けるか、9702を素因数分解して11の倍数と気付けるかなど、解法暗記ではなく、柔軟な数字に対するセンスが差を生みます。
また、後半の大問では誘導形式の問題も増え、「前の設問の答えが次のヒントになる」という流れになっていることを念頭に置いて解き進める力も不可欠です。
対策のポイントは、解法習得(インプット)とそれを使いこなす力(アウトプット)の両方だといえるでしょう。
■【社会】昭和100年、憲法、アメリカ情勢。用語暗記を超えた背景理解が必須に
社会の中学受験一課上席専門職の小口和秀さんは、2026年入試の時事問題を3つのテーマに整理しました。
1つ目は昭和100年・戦後80年。2025年8月15日の天皇陛下のお言葉に「戦後復興の苦難」が初めて加わったことを問う出題もありました。この「戦争の記憶を語り継ぐ」というテーマが今後も続くと見られます。
2つ目は憲法。2026年は日本国憲法の公布から80年にあたり、憲法関連の出題が大幅に増える見通しです。憲法は6年生になってから学ぶ内容ですが、早めに対策をすべきでしょう。
3つ目はアメリカの国際情勢。開成中では大問丸ごとアメリカを題材にするほど、トランプ政権による関税政策や自由貿易への影響について広く問われました。「関税」という言葉は知っていても、実際に誰が負担するかまで説明できる子は少ないと小口さんは指摘します。
「関税」「憲法」などの単語の暗記にとどまらず、背景まで理解することが社会の得点力につながります。
また、環境問題・地図・気象が関係してくる問題も増加傾向にあります。
地図については、慶應普通部で標高の断面図を使った問題が出題されました。写真や地図をビジュアルで理解する力を日常的に鍛えておくことが、これからの入試で差をつけるポイントになりそうです。
日頃から社会科に関する出来事や言葉、数字などに興味を持ち、「なぜ、そうなるのか」を問い続ける習慣を家庭でも育てていきましょう。
■【理科】猛暑、皆既月食、ノーベル賞……身近な現象を「なぜ?」と深掘りする習慣を
理科ではExiv御茶ノ水校の加西真吾さんが2026年の入試問題とトレンドについて言及。2026年度は皆既月食について難関校を中心に多数出題されました。
桜蔭・渋幕・海城といった学校で出され、2026年3月にも皆既月食があったことから、引き続き出題が予想されます。図を見て月の動きや地球との位置関係を考える問題が多く、仕組みの理解が不可欠です。
猛暑・熱中症警戒アラートの計算問題は、すでに定番化しつつあります。
学習院女子の問題は、いろんな都道府県の中の温度差のデータを示し、「最高気温と最低気温で70度の差が出るのはどこか?」を問う問題を出しました。
答えは、富士山と平地で県内の寒暖差が大きくなる静岡県です。1つの県内で寒暖差が大きくなる場合、標高差が条件になることに気付けたかどうかが鍵になりました。
知識問題では、2025年のノーベル賞関連の出題がありました。2026年度入試では受賞者の名前や主な研究内容を確認するものが多くありましたが、2027年度入試では受賞者の研究の内容を深く問うてくる出題が予想されます。
理科も他の科目と同じように、用語暗記にとどまらず「なぜその現象が起きるのか」ということの理解を深めることです。
普段、目にする現象について考える習慣や、ニュースを家族で話し合う時間などが、入試本番に直結することもあります。身近な事象への好奇心を大切に、日々の学びを積み重ねましょう。
■早稲田アカデミーの入試報告会に参加して
入試問題の解説を聞くと、暗記する量を競うのではなく、より考える力を求められる入試になっていることが分かりました。AIが進化していく中で、知識をやみくもに覚える能力よりも自分の手を動かして試行錯誤することが求められているようです。
この記事の執筆者:杉浦 由美子 プロフィール
キャリア20年の記者。
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