イランへの攻撃など中東情勢に対して強気な姿勢を見せ、世界を震撼させているトランプ大統領。しかしその裏では、政権を揺るがす“火種”がくすぶっているのをご存知でしょうか。


特に波紋を広げているのが「エプスタイン文書」の公開です。このスキャンダルを機に、あんなにも熱狂的だったトランプ氏の岩盤支持層(MAGA派)にすら、離反の兆しが見え始めているといいます。

迫る中間選挙や新たな対立軸の台頭の中で、アメリカはどこへ向かうのか。アメリカ政治の中枢を知り尽くす早稲田大学教授・中林美恵子氏が、現在の政治構造からその行方を読み解きます。『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(辰巳出版)より一部抜粋・編集して紹介します。

■エプスタイン文書が引き金に? トランプ氏を襲う支持層「MAGA派」の離反
トランプ大統領の身辺で気になる出来事があります。「エプスタイン・スキャンダル」です。

大金持ちの実業家として知られていたジェフリー・エプスタイン氏は、児童売春斡旋などで逮捕され、その後獄中で自殺したとされています。

エプスタイン被告は生前、莫大な寄付などを通じて、アンドルー王子やビル・クリントン元米大統領など欧米の政財界で広い人脈を持ち、トランプ氏もその中の1人でした。

トランプ氏は「MAGA」(Make America Great Again)というフレーズを大統領選挙で使ってきました。それに賛同する支持層は「MAGA」派と呼ばれ、トランプ氏の岩盤支持層となっています。

彼らの多くは「陰謀論」を信じていて、「エプスタイン問題」についても、エプスタインは他殺であり、著名な顧客のリストを持っていた、などと信じているのです。


トランプ氏は大統領選挙でこれを大いに利用し、自分なら陰謀を白日のもとにさらすことができると主張。MAGA派の絶大な信頼を勝ち取りました。

トランプ政権誕生後、MAGA派の人々は当然ながら、エプスタイン元被告について、彼らにとっての「真実」が公表されることを期待しました。しかし、トランプ政権は就任から半年経った7月になっても、新情報の公開に消極的で、司法省の回答は、公表済み情報の焼き直しにすぎませんでした。

そんな時に、2025年7月に『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が、トランプ氏からエプスタイン氏へ送った卑猥とされる手紙の存在を報じました。

トランプ氏は否定していますが、これによって大きな波紋が広がり、「MAGA」派のトランプ氏離れが危ぶまれているのです。

■トランプ氏は過渡期の存在? ポスト・トランプを占う“3つの仮説”
2025年1月に就任して以来、トランプ大統領はほぼ毎日のように、世間を騒がせています。アメリカで「トランプ革命」が起きていると言ってもいいかもしれません。

しかし、2028年にはトランプ大統領の任期は終了します。その時点で「トランプ革命」は終了するのでしょうか。

アメリカでは、トランプ氏について3つの仮説が論じられています。

1つは、トランプ氏は「ただの乗り物」だという説、2つ目は、トランプ氏は「過渡期の存在」であり、これからが本番だという説、3つ目は、若手が創る「新しい保守党」説です。
詳しくは本書に記していますが、これら三つの仮説に従えば、アメリカの「トランプ革命」は始まったばかりだと見るほうがいいのかもしれません。

トランプ大統領という存在は、現在のアメリカ社会を象徴する「現象」なのです。彼の背後にあるアメリカ社会の怒りと不満は、構造的であり今後も継続すると見られます。

それを「思想」として定式化したのがデニーン教授の「乗り物」説であり、「政策設計」に進めたのがキャス氏の「過渡期」説であり、「政治の主流」へ昇華させたのが、バンス氏やルビオ氏など新世代がその実践者として浮かび上がる「新保守」説なのです。

■「リベラルvs保守」は終わる? ポスト・トランプで変わる“対立軸”
今、この先のアメリカの姿が、おぼろげながら見え始めています。

トランプ大統領のように、政治とエンタテインメントを見事に融合できるようなカリスマ的指導者は再び現れることはないかもしれません。

共和党は、「左派」の経済政策を大胆に吸収した「反リベラリズム」の保守政党に生まれ変わる可能性も皆無ではありません。そして一方の民主党は、まだ自分探しの旅を終えていません。

「リベラリズム」対「保守」という従来のイデオロギーの枠組みは組み換えが始まり、今後は新しく、「グローバリズム」対「地域主義」、あるいは「エリート支配」対「生活者主導」という対立軸も浮上してくるでしょう。

「ポスト・トランプ」のアメリカの政治構造は、様々な対立軸のもとでこれまでとは違った二大政党制に変遷する可能性も秘めているということです。

■トランプ氏が「裸の王様」になる日。2026年中間選挙とアメリカの行方
2026年にはアメリカにとって重要な2つのイベントがあります。


1つは、7月4日の「アメリカ合衆国建国250周年」です。奇しくも、これまでの周年事業は共和党大統領のもとで行われてきました。

100周年は、U・S・グラント大統領(第18代)、150周年はJ・C・クーリッジ大統領(第30代)、200周年はニクソン大統領辞任の後を受け継いだG・R・フォード大統領(第38代)でした。そして、今回はトランプ大統領です。

もう1つは、11月の中間選挙です。第1期トランプ政権時の中間選挙では、下院の多数派を民主党に奪われています。

トランプ大統領が王様のように振舞っていても、やがて国民の目には「裸の王様」に映るようになるかもしれません。そうなれば、1期目と同じことが起こることも考えられます。

これからアメリカはどこに向かっていくのでしょうか。今のところまだ、はっきりとした姿を思い浮かべることはできません。

しかし、1つだけ明確なことがあります。

アメリカの統治構造には、国民がどう見るかで、意味合いが大きく変わる仕組みが組み込まれているということです。
それが、大統領と連邦議会、そして連邦裁判所が、それぞれ持つ権限を互いにチェックする「三権分立」なのです。この書籍の執筆者:中林美恵子 プロフィール
政治学者。早稲田大学教授。公益財団法人東京財団理事長。埼玉県深谷市生まれ。大阪大学博士(国際公共政策)。ワシントン州立大学修士(政治学)。米国家公務員として連邦議会上院予算委員会に勤務(1993年-2002年)。約10年間、米国の財政・政治の中枢で予算編成の実務を担う。元衆議院議員(2009年-2012年)。著書に『日本人が知っておくべきアメリカのこと』(辰巳出版)など。
編集部おすすめ