お願いがあります。映画『アメリと雨の物語』の劇場情報を確認して、見に行ってください。


何しろ3月20日より日本での上映が始まってから、X(Twitter)では「圧倒された」「アニメーションの根源に立ち返る一作」「揺さぶられ過ぎてボロ泣き」など絶賛の嵐になっているのですから。

現在Filmarksと映画.comでは共に5点満点中4.1点の高評価。2025年アヌシー国際アニメーション映画祭では観客賞を受賞し、第98回アカデミー賞でも長編アニメーション部門にノミネートされており、評価はまさに折り紙付きなのです。

■前置き1:子どもから大人まで楽しめるエンタメ作品!
『アメリと雨の物語』は、後述する通り冒頭に「えっ!?」となる要素はあるものの、子どもから大人まで分け隔てなく楽しめるエンタメ性が根底にあり、どの場面も切り取って飾りたくなるアート作品としての魅力も、繰り返し観たくなる物語の奥深さもあります。そして、「日本を舞台にしたフランスのアニメ映画」であり、入念なリサーチを重ねているからこそ「日本の生活の解像度の高さ」があり、日本人こそがもっとも作品を理解できる、楽しめる作品にもなっているのです。

■前置き2:豪華な日本語吹き替え版が製作、上映館数も多いけれど……
さらに本作で注目すべきは、豪華なキャスティングの日本語吹き替えでしょう。永尾柚乃の愛らしさと、そのモノローグを担当した花澤香菜の可憐さ、包容力に満ち満ちた早見沙織による語り掛けなど、それぞれが「耳が幸せ」で、キャラクターそれぞれに深い味わいを与えています。時おり日本語の単語が話される字幕(フランス語)版だからこその気付きもあるので、余裕があればぜひ両方を見てほしいです。

大手のシネコンでの上映も広い地域で行われており、上映時間が77分とコンパクトで、かなり「選びやすい」作品であったのですが……公開後すぐから上映回数はかなり抑えられており、2週目からは多くの劇場で1日1回のみと、ごく限られています。

『パリに咲くエトワール』もそうですが、こうした落ち着いた作風の、それでいて眼福と言うにふさわしいアニメ表現を、流麗な音楽(担当したのは日本人作曲家の福原まり)と共に「体感」できる作品を、映画館という最高の環境で見逃さないでほしいと願うばかりです。

これ以上のことを知る必要はない、というくらいなのですが、ここからはさらに『アメリと雨の物語』が必見の理由を、本編の内容から記していきましょう。

■1:主人公は自らを「神」と信じた2歳半の女の子。
だけど……?
本作の主人公は、ベルギーからやってきた外交官の父を持つわずか2歳半の女の子・アメリ。それまで「無反応」状態だった彼女が、自らを「神」と信じるようになり、まるで魔法のような世界を生きていく……というのがあらすじです。
なぜ絶賛の嵐?フランスのアニメ映画『アメリと雨の物語』が「全日本人必見」である3つの理由
(C)2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
しかし、物語の序盤の彼女の振る舞いは、イヤイヤ期を超えてもはや「無敵」のような大暴れ。何かと叫びまくり、お姉ちゃんとお兄ちゃんとケンカをしてばかりで、お父さんもお母さんもすっかり疲弊してしまいます。

なかなか殺伐とした始まり方に思えるところですが、そんなアメリはおばあちゃんからもらったチョコレートのおいしさのおかげで、あっさりと「人間」として落ち着きます。そして、家政婦の「ニシオさん」と、かけがえのない友情を育んでいき、多くのことを学んでいくのです。

自らを神、つまりは「世界の中心」であり絶対的な存在だと思っていた女の子が、自分を人間だと気づく、つまりは「世界の一部」となり日々を過ごしていく様が、豊かなアニメーションでつづられていることが、絶賛が相次ぐ大きな理由でしょう。
なぜ絶賛の嵐?フランスのアニメ映画『アメリと雨の物語』が「全日本人必見」である3つの理由
(C)2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
何しろ、「輪郭線」がないキャラクターたちの絵本のような質感や、パステルカラー調の色彩の一軒家の風景を観ているだけでも面白いですし、アメリの目線から見た庭での「想像での冒険」がファンタジックに描かれています。

また、いじわるなお兄ちゃんを「鯉」に重ねて見たりもする、クスッと笑えるシーンもあります。それぞれが日本文化への入念なリサーチに基づいているものなので、日本人こそが「そうなんだよなあ」と納得できるのではないでしょうか。

そんなアメリの日常を見て、大人は「あの頃の自分もこんなところがあったのかも」と想像できますし、子どもも素直で生き生きとした彼女を好きになれるでしょう。ともかく、まずはエネルギーに満ち満ちた、2歳半の子どもの日常こそを楽しんでほしい作品なのです。


■2:「チューブ」の意味は?実は哲学的な作品でもある
前述した通り、アメリは自らを神と信じたりするのですが、それよりも前の、映画の冒頭から自らを「チューブ」に例えることにびっくりする人は多いのではないでしょうか。原作となる小説『チューブな形而上学』は、実際に神戸で生まれたベルギー人のアメリー・ノートンによる自伝的な内容であり、そちらから哲学的な考察を繰り広げていたりもするのです。

このチューブというモチーフは形而上学的かつ位相幾何学(トポロジー)的で、難解に思えるところですが、「中身が空洞で、通り抜けていくことに真理がある(あるいはない?)」と考えると分かりやすいでしょう。アメリが興味津々な「掃除機(のホース)」や、終盤に登場する「点滴」も、まさにそのチューブであり「通り抜けていくことで機能する」ものです。
なぜ絶賛の嵐?フランスのアニメ映画『アメリと雨の物語』が「全日本人必見」である3つの理由
(C)2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
そして、アメリはそのチューブとは正反対の、「通り抜けることができない」「何かを溜めておく」存在の「ビン」を大切にしていたりもします。そのビンが何を「遺して」いて、アメリに何を見せていたのかと考えると、納得できるかもしれません。

とはいえ、チューブにまつわる思考はごくわずかであり、後述するように普遍的な「死」についての考えが主体なので、意味がわからなくて戸惑い続ける、ということはまずないでしょう。

■3:子どもが「死」を考えて「アイデンティティ」を確立する物語でもある
楽しく彩りに満ちた日常が描かれる作品ですが、はっきりと「影」も描かれています。何しろ、舞台は1960年代の日本の神戸という「戦後」。特に家政婦のニシオさんは戦争で家族を亡くしており、とある悲しい出来事をきっかけに、「楽しい話じゃないよ」とためらいつつも、アメリに戦争の話をするのです。

そのシーンで、「料理の音」が「空襲」をはじめとした「命が奪われる出来事」の恐ろしさを示す演出は秀逸でした。劇中では戦争は直接的には描かれておらず、ニシオさんや大家の「カシマさん」が吐露する気持ちなどで、あくまで「余波」として示されるバランスになっています。
なぜ絶賛の嵐?フランスのアニメ映画『アメリと雨の物語』が「全日本人必見」である3つの理由
(C)2025 Maybe Movies, Ikki Films, 2 Minutes, France 3 Cinéma, Puffin Pictures, 22D Music
アメリはそうした大人たちの過去と、また自身が危険な目に遭うことで、さらにはっきりと「死」を意識します。誰しもが子どもの頃に、漠然と「死ぬってなんだろう?」と考えたことがあるでしょうが、アメリは前述した哲学的な思考も相まって、より死について「深い」ところまで入り込んでいきます。

日本の「死生観」を示した「お盆の灯籠流し」のシーンもあります。死者の魂を弔い、川に火を送る光景は、本作の独特の絵柄でこそ、より美しく映えます。それぞれで「死」について考えるきっかけになるというのも、本作の大きな意義でしょう。

そうした死についての思考だけでなく、アメリはニシオさんから、自分の名前につながる「雨」という日本の漢字を習い、自らを日本人だと思います。彼女はそうしたところからアイデンティティを確立していき、そして大きな「気付き」を得るのです。だからこそ、本作は子どもの考えを甘く見ない、子どもはとてもよく考えているのだと、大人こそに気付かせる作品であると思いました。

もちろん、実際の子どもは、劇中のモノローグのように多くの言葉を扱えるわけではありません。しかし、あくまでその時点では言葉を知らないというだけで、大人と同じか、あるいはそれ以上に複雑な考え方をしているのではないか、と想像できることにも、この『アメリと雨の物語』の面白さがあります。ぜひぜひ、繰り返し見てみて、さらなる魅力も発見してほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。
雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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