小学校時代、年度変わりに新たな気持ちで学校に行き、まず気になっていたのが「クラス替え」と「担任の先生」だったのではないでしょうか。

一刻も早く知りたいのに、先生たちは発表の瞬間まで絶対に教えてくれない。
そんな“秘密主義”に不満を感じたことがある人も少なくないかもしれません。しかし、そこには教育のプロならではの深い理由がありました。

今回は、現役小学校教師の松下隼司さんに「始業式の後に先生がしていること」、そして「情報を徹底して隠す理由」についてお聞きしました。

▼【質問】新年度の始業式当日、先生たちは裏側でどのような準備をしているのでしょうか。

▼【回答】発表の瞬間まで情報を一切漏らさないよう、きわめて慎重に動いています。あえて始業式が終わるのを待ってから、大急ぎで荷物を運び込み、数分間で教室を整えるのには深い理由があるのです。

どういうことなのか、くわしく解説します。

■「自分の荷物」さえ運べない? 徹底して情報を隠し通す理由
新学期初日、始業式が終わるといよいよクラス分けの発表ですね(地域によってさまざまかと思いますが、私が勤務する地域では始業式で各クラス担任の配置を発表し、始業式後に子どもたちのクラス分けを発表します)。

始業式が終わってまず急いでするのは、教師自身の荷物を教室に運び込むことです。

「そんなことは始業式前にやっておいたらよいのでは?」と思われるかもしれませんが、この順番が実はとても大事なんです。

というのも、子どもの中には先に荷物を置いてしまうと「この荷物は○○先生のものだ」と気付く鋭い子も。そうなると「3組は○○先生だ!」と始業式前から子どもたちがザワザワしてしまう可能性があります。


正式な発表前から「○○先生が担任らしいよ」「仲よしのあの子とクラスが別になったかもしれない」などという不正確、あいまいな情報が流れてしまうと、子どもたちの間に不安や混乱が伝染してしまうかもしれません。そのため、教師は荷物移動1つにおいても、扱いが慎重になるのです。

■新学期初日の“ザワつき”を先生が全力で防ぐワケ
そもそも、先生がクラス分けやクラス担任などの情報を発表のタイミングまで徹底的に隠すのは、こうしたザワザワが起こらないようにするためだと私は捉えています。

教師が意図しないタイミングで情報が流出すると、せっかくの新学期初日を混乱の中で過ごすことになってしまい、自己紹介や新しい関係性づくりなど、本来やりたいことが十分にできずに1日が終わってしまう可能性があります。

さらには、ザワザワと落ち着かないことで初日から担任に怒られるなんてことも……。

1人でも多くの子どもが「今年の学校生活も楽しそうだ」という前向きな気持ちで終えられるよう、クラス分けやクラス担任の発表のタイミングはとても大切なのです。

■最高の「出会いの瞬間」を作るベテランの配慮
私は、始業式後はとにかく「子どもたちがザワザワする時間」が短くなるようにクラス分けを発表しています。

具体的には、始業式後にクラス発表を教室前で行い、その後すぐに自分の教室に入るよう促す、教室に入った後もあらかじめ決めておいた座席に素早く座らせるようにしています。

子どもたちがクラス分けについて一喜一憂する時間をとにかく短くするために、発表されてから教室に入るまでの動線を極力短くし、席についたらすぐにクラスとしての時間を始めるのがポイントです。

この方法にしてから、子どもたちが始業式の日に過度にざわつくことがなくなりました。

もちろん、子どもたちにはいろんな思いがあると思いますが、まず初日には新しい仲間との出会い、先生との出会いの瞬間を大切にしてほしいと思っています。

そのために、少なくとも教室の中では不安な思いや嫌な気持ちにならないようにこうした配慮をしています。


■「聞く姿勢」を作る仕掛け。1年間の土台を築くレクリエーション
教室に入ってからは、新しい学用品に名前を書いたり、翌日以降のクラスのルールについて話をしたりといった時間もありますが、私は子どもたちとの距離を縮めるためのレクリエーションを必ずするようにしています。

低学年ならジャンケンだけでも盛り上がりますが、学年が上がってからはさらにもう一工夫することも。

よくするのが「船長さんは言いました」というゲームです。

ルールは「船長さんが言いました」の後に続く指示に従うだけの簡単なゲームです。「船長さんが言いました、皆さん立ってください」と言われたら立つ、という感じですね。

「皆さんとても上手ですね、では座ってください」と、「船長さんが~」なしの引っかけ指示を混ぜると盛り上がるのですが、このゲームは教師と子どもの心の距離を縮めるだけではなく「楽しく先生の言うことを聞く習慣」を身に付けてもらうねらいも含まれています。

遊びの中で「ルールの中で楽しく活動することの大切さ」を感じてもらいたいと思い、このレクリエーションを行っています。

そのほか、ミニすごろくシートを用意して、隣の席の子ども同士でやらせる場合もあります。これには、子ども同士のコミュニケーションの様子を見ることで、どんな子たちなのかをうかがう意図があります。

始業式後、先生が子どもたちと関われる時間は約3時間。その中で、これからの学校生活にワクワクし「明日からも学校に行きたい」と思ってもらえるようにするために、朝から先生たちはかなり綿密にスケジュールを立てているのです。
お話を聞いたのは:松下隼司さん
大阪府公立小学校教諭。令和4年度文部科学大臣優秀教職員表彰受賞。令和6年版教科書編集委員。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクール文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門優秀賞などの受賞歴を持つ。新刊『がっこうとコロナ』(教育報道出版社)など著書多数。voicyで『しくじり先生の「今日の失敗」』を発信中。

この記事の執筆者:大塚 ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。
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