「東大の推薦入試」と聞くと、国際大会優勝のような実績を持つ「スーパー高校生」のための制度と思われがちです。

しかし、2010年台の後半に女子最難関・桜蔭高校から推薦で合格し、現在は「東大卒110kgの女」として活動するYouTuber・うさねこらーじさんの体験談からは、異なるリアルが見えてきます。


鉄緑会に通い、一般入試でも合格圏内の学力を持っていた彼女が、あえて推薦に挑んだのは「志望学部に直結できる」という極めて合理的な戦略からでした。独力で書類を練り上げた孤独な準備を経て、いよいよ東大教授陣との直接対決に臨みます。

■圧迫面接? 教授5人を相手にした40分の激闘
ほぼ1人で提出書類を作り上げ、東大の推薦に出願したうさねこらーじさん。待っていたのは、教授5人を前にした約40分間の面接だったと言います。

「合格体験記を読むと和やかな面接だったと書かれていることが多々ありましたが、私の場合は手厳しい面接を受けました」

面接では将来やりたい研究についてかなり細かく問われました。

志望理由書に書いた「人間に近い判断を行うAIを作りたい」という研究の構想に対し、「どう実現するのか」「既存研究ではなぜだめなのか」「社会にどう影響するのか」といった質問が続きます。

自分なりに方法を答えても、「それで実現できるなら苦労しない」と切り返される場面があり、その厳しさを実感したそうです。

高校での学習の範囲を超える話にも及び、少しでもあいまいな部分があると、すぐさま鋭い突っ込みが入る。まさに受験生の「知のタフさ」が試される場でした。

■「体育が苦手」で爆笑。エリートの殻を破る「面白み」
うさねこらーじさんの面接の話で印象的だったのは、試験官による「学校成績」への指摘です。彼女の成績はほぼオール5でしたが、「4が混ざっているんだね」と言われたとのことです。


ここに東大推薦の本質が見え隠れします。

うさねこらーじさんは女子最難関校の桜蔭の生徒でした。桜蔭でオール5に近い成績(評定平均4.8)をとるというのは、学年でも上位数パーセントに位置することを意味し、世間一般からすると「すごい」の一言です。

しかし、あえて「4」を指摘する。それは東大推薦において、難関校でのオール5は「当然の前提」であることを物語っています。筆者が取材した他の東大推薦合格者も、ほぼ全員がオール5でした。

一方で、厳しい面接の中に「人柄」が伝わる場面もありました。苦手科目を聞かれて「体育です」と答えたところ、笑いが起きたというエピソードです。面接を終えて部屋を出ると、試験官たちのさらなる爆笑が聞こえてきたそうです。

桜蔭生というと真面目一徹な優等生というイメージがありますが、彼女にはそれを裏切る個性や面白味があり、教授たちにはそれが魅力的に映ったのかもしれません。見事合格し、東大進学を決めました。

■東大推薦は「異能」のためだけの制度ではない
推薦で東大に進学すると、一般選抜組とどう違うのでしょうか。
うさねこらーじさんは、推薦入学は「学生生活を大きく変えるわけではない」とも話します。

基本的なカリキュラムは一般入試組と同じで、違いがあるとすれば、希望すれば2年生から早期履修ができることくらい。入学後に自分から言わなければ、周囲に推薦組だと認知されることもあまりないと言います。

彼女の話から分かるのは、東大の推薦入試は「スーパー高校生」だけを入学させるものではなく、一般選抜で合格できるような高い学力を持つ学生が、志望理由を明確に提示して受験するものである、という側面です。

最難関校の中には、塾の勉強に専念して学校の勉強を放棄してしまう生徒もいますが、うさねこらーじさんはそうはせず、真面目に取り組んだからこそ合格を掴み取りました。

その戦略的な思考と、面接をも笑いに変えた唯一無二の個性、そして「東大卒110kgの女」という強烈なキャッチコピーで自らをプロデュースする発信力は、現在の活動の原点とも言えるのではないでしょうか。

うさねこらーじさん プロフィール
エンジニア・YouTuber。桜蔭高校から東京大学工学部へ推薦入試で合格・卒業。現在はエンジニアとして働く傍ら、自身の日常や独自の視点を発信するYouTubeチャンネル「新・うさねこらーじ【110kg東大卒の女】」を運営。

この記事の執筆者:杉浦 由美子 プロフィール
キャリア20年の記者。『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』(青春出版社)、『女子校力』(PHP新書)、『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)など単著は14冊。『ダイヤモンド教育ラボ』、『ハナソネ』(毎日新聞社)『マネーポストWEB』(小学館)などで取材記事を寄稿している。
趣味は取材。
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