中学受験を頑張っている生徒のママたちからこんな愚痴を聞くことがあります。

「近隣に日大豊山があります。
中学受験しないママ友たちが『調べたら偏差値50。誰でも受かる学校じゃない? 何年も塾に通ってそんな学校入れるなんてねえ』と失笑するんです」

よく耳にする話です。偏差値50前後と聞くと「超簡単」という印象を持つ人が多いのですが、こういうことを言ってくるのは、中学受験を知らない層です。

■偏差値50は「普通」ではない。中学受験という“上位20%”の戦い
偏差値50前後と聞けば「平均的な学校」に聞こえるかもしれません。しかし、中学受験ではやや違います。データをもとに、その実態を解説します。

まず、中学受験はそもそも、一部の上位層しか参加しない戦いです。首都圏の小学6年生のうち、私立・国立中学を受験した割合は2024年が過去最高の18.12%、2025年も過去2番目の高水準の18.10%でした(首都圏模試センター調べ)。

東京都に限れば、受験した中学校に進学した割合は約22.73%にのぼります。つまり中学受験は約20%の子どもたちのものです。

かつては小学生のうち学力上位20%が中学受験をすると言われていましたが、今は中堅層が増えてきました。
それでも「小学校の段階から塾に通って勉強をしてきた生徒たちのもの」であるのは確かです。

公立小学校で基礎学力が付きにくくなっている今、中学受験をする子としない子の学力の差が広がっています。要は塾に通っているか否かで差が付くのです。

高校受験の偏差値は公立中学の生徒のほぼ全体を母集団とするのに対し、中学受験の偏差値は公立小学校の中の「塾に通って勉強をしている」層だけで算出されます。

■全小学生で換算すれば偏差値60。中受の「50」はハイレベル
この「母集団の違い」こそが、多くの人が見落としているポイントです。中学受験の偏差値50はまさに「勉強をしてきた層の中央値」を意味します。

全小学生を母集団に換算すれば、中学受験の偏差値50は、高校偏差値58から60に相当するとも言われています。中学受験の偏差値50は「普通」ではなく、学力的には「相当なハイレベル」です。

先にも述べましたが、公立小学校での学力が付かなくなっていく一方で、中学受験組は低学年から学習を積み重ねます。

冒頭で紹介した日大豊山に進学した生徒は小学5年の4月から中学受験塾に通い始めたというスロースタートでしたが、公文式の教室で低学年から算数と国語を受講していました。

実際、高校受験の偏差値と比べるとその差は一目瞭然です。


■「偏差値37」の中学が、高校入試では「56」に跳ね上がる理由
大手塾、市進学院のデータを見ていきましょう。埼玉県の武南中学は偏差値37(1月10日)。一見すると「入りやすい」と感じるかもしれません。

ところが武南高校の入試では、進学コースが偏差値56、選抜コースは60、特進コースに至っては64に達します。中学受験で偏差値37の学校が、高校受験では偏差値10は上がるのです。

東洋大学京北中学も、偏差値は54(2月1日午前)ですが、同校高校の偏差値は60です。日本大学豊山中学は偏差値50(2月1日午前)は、高校の普通科特進コース偏差値は58、普通科進学コースは56となっています。

学力上位層が中学受験で抜ける傾向もあり、高校受験はハードルが緩やかになります。

■「御三家」は氷山の一角。SNSには現れない“本流”の受験生たち
中学受験の花形は開成や桜蔭といった「御三家」の受験です。塾はそれらの学校の合格実績をアピールします。大手塾のイベントで登壇して「合格体験」を語るのは御三家の合格者です。


また、SNSには特別に熱心な層が集まり、自分の子どもがSAPIXやグノーブルに通うことをアピールしています。中には子どもの成績を公開してフォロワーを増やそうという人たちもいます。

彼らを見ていると、中学受験は難関校を目指すもののように見えますが、実態は異なります。日能研や栄光ゼミナールは規模で言うと中堅層を支える大手塾の代表格です。

この大手2つのどちらかに通って、偏差値40から55前後の中堅校を第1志望とする受験生が実は主流です。そういった中堅狙いの層は「受験オタク」ではないのでSNSで中学受験について語ったりしません。

SNSはオタクが他のオタクとつながる場所です。好きなアイドルグループがいるけれど、語れるオタク仲間がリアルでいない場合、SNSで同好の仲間を探します。それと同じように受験オタクがSNSに集まります。そのオタクの行動を「全て」と思わないことをおすすめしたいです。

実際には、偏差値50前後の学校こそが、中学受験の「本流」なのです。その学校に合格するためには、遅くとも小学5年から塾に通って、コツコツ勉強をする必要があります。

  
今回は中学受験偏差値50の学校の難しさについて言及しました。次回は中学受験の中央値についてお話ししましょう。

「SAPIXの生徒の中央値の進学先がMARCH」という記事が話題になりましたが、中学受験生の中央値の進学先の大学はどこなのでしょうか。

※この記事の偏差値は市進学院のデータを参照しています。

この記事の執筆者:四谷 代々 プロフィール
塾の偏差値表やパンフレットには載らない、学校ごとの「カラー」や「本当の校風」を熟知する中学受験関係者。しがらみのない立場から「塾や学校が親に絶対に言わない不都合な真実」を発信する。
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