今回のテーマはBTSの待望の新譜『ARIRANG』と、制作の裏側を描いたドキュメンタリー『BTS: THE RETURN』について。
■光化門でのカムバックライブを見て
編集担当・矢野(以下、矢野):ゆりこさん、ソウル取材お疲れさまでした。僕も光化門でのカムバックライブの配信を見て、王者としての堂々たるステージに圧倒されました。夜のステージなのに、あえての黒い衣装もセンスを感じましたね。
K-POPゆりこ(以下、ゆりこ):デザイナーのジェイ・ソンジオさんが、「リリカル・アーマー」をテーマに、朝鮮王朝時代の甲冑(かっちゅう)など韓国の伝統的な衣装をモチーフにして製作したそうです。景福宮と光化門という場所、ステージ衣装、そして今回の新譜。全てが一貫していましたね。韓国にしかないものを打ち出すからこそ、話題も感動もさらに外へ外へと広がるという現象が面白いなと思いました。
矢野:BTSに限らず、「その場所でしか生まれないもの」「その人だから生み出せるもの」を見て、体験したいんですよね、みんな。広く売れるためには、どこかクセやカドを取り除いて一般化する調整も必要ですが、“らしさ”や“ならでは”の部分があるからこそ深く愛される。
ゆりこ:そのバランスが難しいんですよね。
矢野:そうなんですよ! 実は今回、ドキュメンタリー『BTS: THE RETURN』を見て、個人的にいろいろな部分に共感してしまって。特にRMさんが語っていた「何を守り、何を変えるか」という一言が刺さりました。
■会社員もスターも30歳前後は「成長痛」に悩む!?
ゆりこ:Netflixで公開されている『ARIRANG』制作の裏側を描いた作品ですね。ネット上でも話題になっていましたが、HYBEのパン・シヒョク議長とメンバーが民謡アリランの入れ方について議論するシーンは会社員時代を思い出して手に汗をかきました。どんなに結果を出しても、自分がビジネスのオーナーではない限り、全てを自由にはできないという現実。私は最終的にリリースされたバージョンが“正解”だったと思うのですが、いろいろな意見があって当たり前ですよね。アーティストの素顔を見せることを目的としたファンコンテンツというより、しっかり「お仕事ドキュメンタリー」だと思いました。社会人はそれぞれに思うことがありそう。
矢野:そこなんです。僕個人の話で恐縮ですが……今年で社会人7年目になり、だんだんと任せてもらえることも増えてきたからこそ、常に目の前にある課題やミッションをいかに速く、いかに正確に成し遂げるかに必死でした。でも最近、僕が尊敬するとある人生のパイセンに言われたんですよ。
ゆりこ:言われたことも言ったこともあるような、聞き覚えのあるセリフ(苦笑)。30代に差し掛かると、急にそういうことが求められ始めるのですよね。
矢野:“会社員あるある”なのでしょうね。正直、答えのない海に放り出されたような感覚だったんです。そんな時にRMさんの言葉を聞いて「ああ、世界的なスターである彼らも、僕と同じように『何を選び、何を正解にしていくか』でもがいているんだ」と、ものすごく勇気をもらいました。あのドキュメンタリーに描かれていたのは、人気ミュージシャンたちの“産みの苦しみ”だけではなく、“30歳前後の男性の成長痛”だったように思えて。
ゆりこ:なるほど! その視点にハッとしました。矢野さんは確か、ジョングクさんと同い年でしたよね?
矢野:はい、今年で29歳になります。だんだん周りに結婚する人、転職する人など、人生が変わってゆく仲間が増え始めました。そんな周囲と比べて「自分はこのままでいいんだろうか?」という思いと、人生のパイセンからの「今が転換期」「課題とゴールは自分で決めろ」というフィードバック。モヤモヤしていた時にBTSのカムバックが重なったことは、僕にとってはラッキーでした。
ゆりこ:それはどんな? 気になります。
■『Dynamite』の先へ。第2幕の名刺代わりとなる新境地『ARIRANG』
矢野:最初に聞いた時は単に「うわ~、かっこいい」とか「ラップが映える曲だな」という感想だったのですが、ドキュメンタリーに深く共感した後は「そもそもBTSの音楽とは?」を再定義する姿勢をひしひし感じましたし、「これは第2幕の名刺となるアルバムだ!」とハッとしたのです。ある意味、直近のイメージを“リセット”するような。
ゆりこ:『Dynamite』『Butter』から『Permission to Dance』あたりのイメージを、ということですよね。コロナ禍はああいった、人の心を明るく励ますようなアンセムが必要だったタイミング。世界中があの感じを求めていて、BTSがそれに応えた。でもデビュー時から見ている身からすると、あれがものすごく“イレギュラー”だったんですよね。「お! BTSはこういうのもやるんだ」って感じでした。
矢野:ドキュメンタリーの中でSUGAさんも、そんなお話をされていましたね。僕がBTSを聞き始めたのは2019年の『Boy with Luv』から、同性の目から見ても「Vさん、すごくカッコいい!」と思ったのがきっかけでした。
ゆりこ:実際にリスナー、ファンの反応は二分していましたよね。いろいろな意見が出る作品は、私はよい作品だと思っています。それだけ人の心を動かして、語りたくなるということですから。『ARIRANG』は“大人に成長した防弾少年団”の新譜として聞くと、すごく自然なのではないかと思っています。2026年の今の彼らだからこそ出せた音楽。
矢野:僕も最初に『SWIM』を聞いて、意外に思いました。メインにはもっとアップテンポで派手な曲が来ると思っていたからです。でも、少し時間がたって改めて気付いたことがあります。どんな気分の時でも『SWIM』は聞けるんです。僕はへこんでいる時、明るい曲が流れてくると煩く感じてしまったり、気分を上げたい時にバラードを聞くと辛気くさく感じたりしてしまうこともあります。
ゆりこ:私も最初『SWIM』から聞いて、矢野さんと同じように「おお! こんな感じで来たか~」とビックリしました。BPMも94、近年のBTSのタイトル曲と比べると静かで落ち着いた曲です。ドキュメンタリーでメンバーたちも最初は心配していましたよね。これがタイトル曲で本当にいいのだろうかって。確かに単発のデジタルシングルとして発売されていたら、薄味に感じる人もいるかもしれません。でも『SWIM』の神髄はアルバムを1曲目から通しで聞いて分かりました。あの流れの中にあってこそ、ハマる曲なのだと。『ARIRANG』ってフルコース料理なんですよね。
矢野:ああ、そうかもしれません。アリランをサンプリングした『Body to Body』から始まるコース料理的なアルバム。
■歴代のポップスターたちにも重なること
ゆりこ:もちろん執筆時点で約720万枚と爆売れしていますし、Billboard 200で全米1位、UKチャートでも最高1位を記録しました。その上で『ARIRANG』はもっと時間がたつほど評価される予感がしています。『Listen Without Prejudice Vol. 1』的なアルバムといいますか。
矢野:「リッスン…ウィズアウト…?」
ゆりこ:説明もなく、失礼しました。私が敬愛するイギリスの大御所アーティスト、ジョージ・マイケルさんのアルバム名です。ソロでのファーストアルバム『FAITH』が世界中で大ヒットした後に出した2枚目のアルバムなのですが、まさにBTSが今の『Dynamite』『Butter』で世界的スターになった後の『ARIRANG』のような立ち位置で、発売当初は賛否両論があったそう。つまり前の『FAITH』っぽいものを求めていたファンからすると、“予想外”だったということです。
矢野:確かに、ミュージシャンも俳優も「大ヒット作」の次って、難しいといいますよね。本人にも周りにもプレッシャーがのしかかる。かといって過去にウケたものをまたやるわけにはいかないし、思い切り変えるとファンからの反発が来るかもしれない。そんな中で「変化」を選べる人やグループは強いなと思うんです。実際に残っているのは、そういう人ですよね。
ゆりこ:そう思います。私は『FAITH』よりも内省的な曲が多い『Listen Without~』の方が、むしろ“ジョージっぽさ”を感じて好きなんですよ。収録曲『Freedom!'90』は2025年にアメリカの人気姉妹バンドのHAIM(ハイム)がサンプリングで使っていますし、今でも支持されています。『ARIRANG』の曲もそんなふうに、後世までいろいろな形で残るんじゃないかと思って。
矢野:聞く人の心にすぅーと入ってきて、じんわり残り続けてくれる、風化しにくいアルバム。“変化”には本当にいろいろな形がありますね。『Dynamite』がはやっていたコロナ禍はみんなの敵がウイルスという同じ相手だったからこそ、一致団結して戦っていたと感じています。でも今、各地で起こっている戦争や政治問題はそれぞれの正義と意見があって矛先もバラバラ。格差も広がってきて、個々の課題が変わってきてしまいました。そんな時代だから『SWIM』。絶え間ない波の中で、たまに浮かんで漂って、休みながらも自分の道を泳ぎ続けることが大事だと思います。
ゆりこ:今回、矢野さんのお話を聞いて、若手から中堅へとステップアップしていく……そんな過渡期にいる世代だけが共鳴できるメッセージが『ARIRANG』にはあるのかも、と思いました。リアルタイムかつ等身大の共感は、2026年にBTSの同世代として頑張る人たちの特権ですね。ちょっとうらやましい! そして私たち、大人もきちんと変わっていかねば。
矢野:最後にもう1つ思い出しました! ドキュメンタリーでRMさんの言葉と同じぐらい共感したシーンを。ジミンさんの「休日に10時間ゲームをしている」という発言です。あんなに人気スターでも、引きこもって休む日があるんだなって。僕は休むことに罪悪感を持つ方でしたが、これからはしっかり休もうと思います! 周囲のみんなの充実ぶりに焦ってしまうこともあったけれど、何を選ぶかを自分で決めて、それを正解にしていきたいです。
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:音楽・エンタメライター。雑誌編集者を経た後、渡韓し1年半のソウル生活を送る。帰国後は、K-POPや韓国カルチャーについて書いたりしゃべったりする「韓国エンタメウオッチャー」として、雑誌やWebメディアなどでの執筆活動や、韓国エンタメ情報ラジオ番組『ぴあ presents K-Monday Spotlight』(TOKYO FM)でパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。
この記事の執筆者: K-POP ゆりこ
音楽・エンタメライター。雑誌編集者を経た後、渡韓し1年半のソウル生活を送る。帰国後は、K-POPや韓国カルチャーについて書いたりしゃべったりする「韓国エンタメウオッチャー」として、雑誌やWebメディアなどでの執筆活動や、韓国エンタメ情報ラジオ番組『ぴあ presents K-Monday Spotlight』(TOKYO FM)でパーソナリティーを務めるなど幅広く活躍中。
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