新学期が始まって2カ月が経ち、子どもたちもクラスも落ち着きを見せる頃でしょう。しかし5・6月は、子どもたちに疲れや中だるみが出やすい時期でもあります。
学級経営の難しさを感じ始める先生もいるかもしれません。

でも、ご安心ください。実は、この時期に「コーチング的な思考」を取り入れることで、1年間を通して円滑な学級経営をすることができるのです。

■「うちのクラス、うまくいってる?」平均5.8点に隠された危機
筆者が主宰するコーチング塾では多くの先生が学んでいますが、先日、塾生以外の先生向けに「学級経営×コーチング」のオンラインセミナーを実施しました。

セミナーに参加された先生方に「現在担任されている学級について、どれくらいうまくいっているか」を10点満点で評価していただいたところ、2点から9点までと回答は幅広く、平均は5.8点でした。

この数値は決して低いわけではありませんが、もしクラス運営に不安を感じるなら、今のうちに対処することをおすすめします。夏休み明けは運動会や文化祭など大きなイベントが控えているため、クラスに小さな「揺らぎ」があると、立て直しには膨大な時間とエネルギーが必要になるからです。

では、具体的にどうすればいいのか、すぐに実践できる「コーチング的学級経営」のポイントをご紹介します。

■6月は学級経営の分岐点
新学期の新鮮な勢いが落ち着き、クラスの“揺らぎ”が表面化しやすいこの時期は、学級経営における最大の分岐点です。

ここで従来の成功体験やルーティンに安易に頼ると、小さなほころびがやがて大きな混乱を招いてしまう危険性があります。だからこそ、このタイミングで先生自身が「観察」「傾聴」「フィードバック」というコーチングの基本サイクルを意識的に回すことが重要です。

例えば、朝のホームルームであえて3分間、静かに子どもたちのしぐさや表情の変化を見つめる。
これだけでも、クラス内に潜むトラブルの芽を早期に摘み取ることにつながります。

子どもたちの感情や自我が爆発し、1~2割以上の生徒が学級のルールの枠を超えてくると、学級崩壊の危機につながる可能性も出てきます。この時期は、まず「生徒たちの変化」や「小さな違和感」に敏感になることが非常に重要です。

■過去の成功体験にとらわれず、目の前の子どもたちを見る
また、子どもたちを深く理解し、適切に関わるためには、先生自身にある心構えが必要です。

先生としての成功体験が豊富であればあるほど、あるいは経験を積むほど、「クラスはこうあるべきだ」「子どもはこう育つべきだ」という「こうあるべき」という思い込みを持ちがちです。

しかし、子どもたちの価値観や学びのスタイルは日々変化しています。この思い込みに固執してしまうと、目の前にいる子どもたちの本当の声や様子が見えなくなってしまうことがあります。

大切なのは、まず自分自身の「こうあるべき」という考えに気付くこと。そして、その捉え方に対して、「こうあるべき」ではなく、「どちらにも価値がある」という「二極」の視点で考えることです。

これは、ある現象には両極の捉え方があり、そのどちらにも同等の価値があるという「二極コーチング」という考え方です。

例えば、静かでおとなしいクラスの担任になったときに、「もっと活発なクラスがいい」と捉えてしまうと、子どもたちを変えようとしてしまい、うまくいきません。ですが、そういったクラスには「じっくりと物事を考える子が多い」「落ち着いて学習に取り組める」など、素晴らしい面もたくさんあるはずです。


目の前の子どもたちを見て、そのときに自分が感じる感情に目を向ける。そして、その感情を俯瞰(ふかん)した上で、今目の前にいる生徒たちを観察する。そして、生徒たちが何を考えているのかをしっかり聞くことが重要です。

■「ガス抜き」と「締め付け」でクラスはもっとよくなる
学級経営は、先生と生徒の間におけるパワーバランスの絶妙な調整作業です。自由を尊重しすぎると統率を失い、制限を強めすぎると反発や閉塞感が生まれてしまいます。「ガス抜き」と「締め付け」のバランスを見ながらクラスを運営していくことが大切です。

さらに、「先生主体」と「生徒主体」という2つの軸で操作することで、クラスに緊張感と安心感を同時にもたらすことができます。

例えば、授業中に生徒が自発的に意見を出し合う時間には、まず小さな努力や成果を褒めて承認する“ガス抜き”を行い、その上でルールを逸脱したときには理由を示しながら注意を行う“締め付け”をかけます。

また、朝のあいさつや教室ルールの徹底といった「先生主体」の場面と、学級活動や休み時間の運営を生徒に任せる「生徒主体」の場面を状況に応じて切り替えることで、生徒は「自分ごと」として学級経営に主体的に関わりながらも、必要なときには先生の統率による安心感を得られます。

このようなバランス調整をコーチング的二極思考で行うことで、クラスは揺るがない安定と活力を取り戻します。

■3つの軸を取り入れれば学級経営はうまくいく
先生が「生徒(クラス)の小さな変化に気付くこと」「こうあるべきという見方を手放すこと」「自由と制限のバランスを取ること」。この3つの視点を学級経営に取り入れることで、揺らぎやすい時期を乗り越え、持続可能な成長を遂げるクラス運営が可能になります。


実は筆者自身、公立小学校で5年生を担任した際、生徒たちとの信頼関係も深く、素晴らしいクラス運営ができていました。しかし、翌年の6年生担任時には、前年度受け持っていた生徒が数名いた別のクラスが学級崩壊寸前に陥ってしまったのです。当時は『あの指導はよくなかったのか』と自責の念にかられながらも、日々の指導に追われ、自分を見つめ直す余裕がありませんでした。

その苦い経験が、「現場で苦しむ先生を1人でも減らしたい」という強い原動力となり、今日のコーチング的アプローチへとつながっています。

日々、学級経営に奮闘されている先生方には、ぜひこの3つの軸を実践に取り入れ、生徒と共に未来を切り拓いていただきたいと心から願っています。

▼坂田 聖一郎プロフィール教員を13年間経験した後、独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングとやさしさを」コンセプトに、子どもたちがイキイキと学べる教育を実現できる世の中を学校の外から作りたいという想いで活動する教育革命家。
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