「チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出る」という話は、私も子どもの頃に周囲から言われた記憶があります。おそらく、チョコレートには脳を興奮(覚醒)させる「カフェイン」という成分が含まれているため、「食べ過ぎると興奮して鼻血が出る」という考えが生まれたのでしょう。
しかし実際には、これは根拠のない俗説です。医学的には支持されていません。

そもそも「興奮すると鼻血が出る」というイメージは、日本特有のもののようです。

私が子どもの頃の1970年代に、谷岡ヤスジさんという方のギャグ漫画が流行しました。その中で、魅力的な女性を見た男性が性的興奮を感じ、大量の鼻血を出すという描写がありました。作品内で使われた「鼻血ブー」という言葉が流行語になった影響も大きいのかもしれません。こうした文化的背景から、「興奮=鼻血」という図式が定着したのではないかと思われます。

■鼻血が出る本当の原因とは? 興奮しただけで鼻血が出ることはまれ
しかし実際のところ、「興奮しただけで鼻血が出る」といったことは、ほとんどありません。日常的に鼻血が出る主な原因として、次のような要因が挙げられます。

・鼻の奥の粘膜はもともと薄く、出血しやすい
・鼻をほじったり、ぶつけたりすることで外傷が起きやすく出血しやすい
・空気の乾燥や花粉症などのアレルギー反応による血管拡張が起こり、血流量が増えることでも、出血しやすい
・気温の寒暖差によって血管の収縮と拡張が繰り返されることでも出血しやすい

また、健康上の要因として、血液凝固障害、動脈硬化、高血圧などがある場合も、鼻血が出やすくなることがあります。

確かにカフェインには、血管を収縮させ、血圧を上げる作用があります。そのため興奮の有無にかかわらず、鼻血が出る可能性は理論上ではゼロではありません。
しかし、問題は「どの程度の量のカフェインを摂取するか」です。

■チョコレートのカフェイン量は鼻血を引き起こすほど多いのか?
チョコレートに含まれるカフェイン量については、以下のようなデータがあります。

・一般的なミルクチョコレート:100g当たり約20mg
・カカオマス約50%のチョコレート:100g当たり約40mg

市販されている板チョコは1枚約50g程度で、ひと口サイズは約3~4gです。そのため、チョコレートひと口に含まれるカフェインは、せいぜい約1mg程度と見積もられます。板チョコ1枚を一気に食べても、カフェインは約10mgです。

一方、緑茶には1杯当たり30~50mgのカフェインが含まれています。さらに玉露では、100ml当たり約160mgに達します。つまり、お茶1杯で板チョコ1枚の3~16倍ものカフェイン量になるのです。

もし「カフェインのせいで鼻血が出る」ことが実際にあるのであれば、緑茶を1杯飲んだだけで大量の鼻血が出てしまうはずです。しかし、そのような話は聞いたことがありません。むしろ、おいしいお茶を飲むと「ホッと気持ちが落ち着く」と感じる人のほうが多いでしょう。

■チョコレートは適量を楽しむことが大切! ポリフェノールなどによる健康効果も
こうした点から考えると、「チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出る」という説には、明らかな矛盾があると分かります。


ただし、だからといって「チョコレートは大量に食べても問題ない」というわけではありません。どのような食品でも取り過ぎは偏食につながり、栄養バランスを崩す原因になります。

近年では、チョコレートに含まれるポリフェノールなどが健康維持に役立つ可能性も指摘されています。「適量を、時々おいしく楽しむ」 それが、チョコレートとの上手な付き合い方と言えるでしょう。

▼阿部 和穂プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
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