近年、教育現場における性犯罪の報道が後を絶ちません。中でも、名古屋市の小学校教員が児童を盗撮し、その画像をSNSで共有していたという事件は、世間に大きな衝撃を与えました。


このニュースに、多くの方が怒りや嫌悪感を抱いたことでしょう。特に保護者の方々の中には、学校教育に対して不安を感じた方も少なくないはずです。

このような行為は断じて許されるものではなく、教育現場は子どもたちが安心して過ごせる場所でなければなりません。その安全が脅かされたという点で、この事件の重みは極めて深刻です。

一方で、筆者は元教員であり、現在はプロコーチとして“人間の心理構造”に深く向き合っている立場から、こうした問題を感情的な否定にとどめず、「なぜこのようなことが起きたのか?」という視点で冷静に考える必要があるとも感じています。

■「光」と「影」──人間に内在する二面性
人は誰しも、社会に見せる「光」の面と、自分の中に抑圧された「影」の面を持っています。心理学的には、こうした内面の“見せたくない自分”を「シャドウ」と呼びます。

教員という職業は、社会的な信用、他者からの尊敬、そして子どもたちからの期待といった“光”に強く照らされた立場です。「先生」として期待された役割に応えることで、やりがいや誇りを感じる一方、感情や弱さを表に出すことが難しい職業でもあります。

そしてこの“光”が強くなればなるほど、その反対側に「影」が深くできるというのが、人間の自然な構造です。

例えば、自分の性的欲求や孤独感、過去の傷、プライベートの不満など、人には話しづらい、自分の中に押し込めた感情が「シャドウ」として蓄積されていきます。この蓄積された感情は、普段は表に出ることはありません。


しかし、処理されずに溜まり続けたシャドウは、あるとき「暴走」という形で表出することがあります。それが今回のような事件の引き金になった可能性は否定できません。

■加害者も「もともとは異常な人間」ではない場合がある
ここで明確にしておきたいのは、筆者は性犯罪加害者の行為を一切擁護するものではないということです。性犯罪は、社会的に許されず、倫理的にも決して容認できない行為です。いかなる理由があろうとも、被害者やそのご家族が負う深い傷や苦しみが正当化されることは断じてありません。

ただし、今回のような事件を「最初から異常な教員が起こしたことだ」と片付けてしまえば、本質的な再発防止は難しいと考えます。

性犯罪の加害教員が、現場で評価されている人物である場合も珍しくありません。

これは何を意味するのか? それは、一見“まとも”に見える人間でも、内面に向き合わず、シャドウを放置したまま過ごしていると、突然一線を越えることがあるということです。

人間の心は、常に光と影を抱えて生きています。心理学の世界では、この内側のバランスが崩れたときに、理性では説明のつかない行動が起こった事例が数多くあります。

■シャドウと向き合える教育者を育てるために
では、こうした性犯罪の問題を未然に防ぐために、私たちは何ができるのでしょうか。

筆者は、教育関係者はもちろんのこと、私たち社会全体が「影の存在を否定せず、それと向き合う文化を持つこと」が重要だと考えています。


例えば、以下のような取り組みです。

・教員の自己内省の習慣化(セルフリフレクション)
・心理的安全性の高い職場づくり
・外部コーチやカウンセラーとの定期的な対話機会の提供
・「完璧な先生像」からの脱却

性犯罪の未然防止には、教育現場の変革も不可欠です。私たちは教員に「理想」を求め過ぎ、全てを犠牲にして子どもたちのために尽くす「完璧な先生像」を押し付けていないでしょうか。そのプレッシャーが、知らず知らずのうちに教員の「影」を暴走させてしまう構造を生み出している可能性はないでしょうか。

教育現場の教員が、教員としての役割だけでなく、一人の人間として自身の内面と丁寧に向き合える環境を整えることこそが、性犯罪といった問題の根本的な解決につながると筆者は考えています。

■教育は「信じること」で成り立つ
一方で、こうした事件を目の当たりにした保護者の皆さんの不安や不信感も、非常によく分かります。

自分の子どもを預けている学校で、信じていた教員が加害者になる――そんな恐ろしい想像をせずにはいられません。しかし、それでも筆者は、教育は「信じること」で成り立つ営みであると信じています。

筆者は元教員であり、今も現場で奮闘する多くの先生方の姿を知っています。大半の教員は、毎日汗水たらしながら、子どもたちのために本気で向き合い、一生懸命働いています。

そうした現場の努力が、今回のような一部の事件によって一括りにされ、「教師=信用できない」といった空気になることに、悔しさや怒りを感じている教員も少なくないでしょう。

教員が子どもの可能性を信じ、保護者が教員の真摯(しんし)さを信じる。
この信頼関係があるからこそ、教育は機能します。

もちろん、それを裏切るような行為があってはならない。だからこそ、「影があること」を否定するのではなく、どう扱うか、どう向き合うかを共に学んでいくことが必要なのではないでしょうか。

■まず、自分の影に気付くことが大切
筆者は現在、「学校教育にコーチングを」という理念のもと、教育と心理学、そして人間理解を軸に活動しています。

今回のような痛ましい事件が二度と起きないために、私たち一人ひとりが「光と影を併せ持つ人間である」という認識を持つことが不可欠です。そして、その認識のもとで内省と対話を続けていくことこそが、子どもたちの未来を守る確かな一歩になると強く信じています。

何よりも、「自分の影に気付ける教育者」こそが、子どもたちの“光”になれる存在であると筆者は考えます。そのためには、自分自身の心の声に耳を傾け、コーチングを通じて内面と向き合うことが非常に重要です。筆者はそのような教育者をこれからも一人でも多く育てていきたいと思っています。

▼坂田 聖一郎プロフィール教員を13年間経験した後、独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングとやさしさを」コンセプトに、子どもたちがイキイキと学べる教育を実現できる世の中を学校の外から作りたいという想いで活動する教育革命家。
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