老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは、難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
そんな年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。

今回は、公務員退職者の年金繰り下げについて説明します。

■Q:現在、特別支給の老齢厚生年金と退職共済年金(経過的職域加算)を受給中です。66歳以降に繰り下げ受給を選んだ場合、退職共済年金の加算部分も増額されるのですか?
「元公務員です。現在、特別支給の老齢厚生年金と特別支給の退職共済年金(経過的職域)をもらっています。66歳以降に繰り下げた場合の老齢厚生年金の記事についてはよく見かけるのですが、退職共済年金(経過的職域)についても同様に増額されるのですか?」(年金ビギナーさん)

■A:はい、退職共済年金(経過的職域加算)も、老齢厚生年金と一体的に繰り下げ申出を行うことで増額の対象になります
退職共済年金のうち「経過的職域加算」は、平成27年9月以前に共済組合へ加入していた方を対象とする特例です。65歳以降に支給される老齢厚生年金に上乗せされる形で支給され、一定の要件を満たすことで増額を受けられます。

この加算部分にも、老齢厚生年金本体と同時に繰り下げ申請を行うことで「繰り下げ加算」が適用されます。ただし、職域加算のみを個別に繰り下げることは認められておらず、あくまで老齢厚生年金と一体で判断・申請を行う必要があります。

具体的な増額額は以下の算式で算出されます。
旧共済期間に係る職域加算額×7÷1000×繰り下げ月数

例えば、月額2万円の職域加算を12カ月繰り下げた場合、
2万円×7÷1000×12=月額1680円の増額となります。

■増額に差が出る?見落とせないポイント
ただし増額額は個々の加入状況やライフスタイルによって異なります。
判断材料となるポイントとして、以下の要素が影響します。

・共済期間・厚生年金期間の加入状況
・65歳以降の在職状況(給与・賞与の有無)
・配偶者の有無(加給年金の対象かどうか)

特に注意したいのが、在職老齢年金制度の影響です。在職により年金の一部が支給停止された場合、「仮に年金を受給していたとしたら支給停止されることとなる部分」は加算の対象外となる額として扱われます。このため、繰り下げ加算が適用されず、結果的に増額額が抑えられる可能性があります。

また、加給年金(配偶者加算など)やその他の付加給付は、繰り下げ加算の対象外です。繰り下げ待期期間中はこれらの給付が支給停止となるため、生活設計に与える影響も踏まえて慎重な判断が求められます。

■将来の暮らしにどう関わる?制度を生かすヒント
制度が複雑になりやすい共済年金加入者の方ほど、ご自身の加入履歴や現在の収入状況を正確に把握することが重要です。日本年金機構が提供する「年金見込額試算」や、各共済組合の年金相談窓口を活用することで、支給条件や試算額を具体的に確認できます。

年金の繰り下げは、単なる受給額の増加を狙う制度ではなく、将来の収入見通しや生活費とのバランス、在職中の影響なども踏まえた多面的な視点での検討が必要です。加給年金の有無や支給停止の可能性も含めて、年金全体の仕組みを整理しながら判断することで、より納得感のある老後設計につながります。

制度理解に不安がある場合は、専門家へ相談し、情報を整理したうえで冷静に判断することも有効な選択肢です。

文:京極 佐和野(ファイナンシャルプランナー、キャリアコンサルタント)

FPオフィス ミラボ代表。
CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、国家資格キャリアコンサルタントなどの資格を持ち、マネープランと働き方の両面から、20年以上「稼ぐ・使う・借りる・貯める・増やす」をアドバイス。FP向け継続研修、社員向けライフプラン・キャリアデザイン研修講師として活動する傍らJ-FLEC認定アドバイザーとして携わる。
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