夏休みは子どもたちの給食がないため、ちゃんと食べさせなければいけない。しかも夫まで休みとなると……。
長い結婚生活で「我慢の限界」を迎えてしまった妻が、とりあえず夫に反逆してみたら。

■仕事からいったん自宅に戻って
「正直言って、小学生の子どもが3人いるわが家は、給食がない夏休みはつらいです。私も自宅近くでパートとはいえ仕事をしているので、朝から昼と夜の食事の下ごしらえをして、昼休みはいったん帰宅しています。

夫は『子どもにやらせればいい』と言うけど、一番上が10歳、下は双子で8歳。子どもたちだけで留守番をさせるのさえ心配なのに、昼ご飯を彼らだけで食べさせるなんて、私にはできない。

『パートやめれば』と気軽に言う夫に、つい先日、『あなただけの給料で食べていければすぐにでもやめるわ』と言い返してやりました。最近、夫に反抗するようになったんです、私」

そう言うのはヒロコさん(42歳)だ。午前と午後3時間ずつ、週4日の仕事は家計には重要なのだ。だが夫は「給料が低いのはオレのせいじゃない」と言ってのける。それは分かっているが、たまには愚痴の1つも言いたくなるのが人情だろう。

「大変だねとねぎらってくれるとか、週末に作り置きの1つも作ってくれるとか、何か協力する姿勢を見せてくれれば話は変わってくるんですけどね。早く帰れるときもあるはずなんだけど、夫はだいたい夕食が終わったころに帰宅する。
そこから私はもう一度、温め直しなどをしなければならない。

自分でやってと言ったこともあるんですが、『働いて帰ってきて、給仕の1つもしてくれないわけ?』と嫌みを言われました」

上の子は食器の片付けをしてくれるが、時折皿の脂分が取れていなかったりする。それでもヒロコさんは「ありがとう」と感謝の言葉を口にする。

「昼食は本当に簡単なものしか作れません。それでも栄養を考えれば、菓子パンだけというわけにはいかない」

いろいろ考えて、今年はお弁当を作ってみたが、朝早く作ると昼までに悪くなるのではないかと不安が募り、結局、昼休みは帰宅することを選択している。

■さらに夫が……
それだけでも苦慮しながらの生活だったのに、なぜか夫が「夏休みをとった」と言いだした。土日を含めれば1週間になる。

「夫は子どもたちに『どこに行く?』と言ったんですが、そもそもそんな急に夏休みをとると言われても対応できない。子どもたちにも予定があるし、私だって急にパートを休むわけにはいかない。

夫は『せめてドライブに行こう』と日帰りドライブを提案。私のパートがない日に出掛けましたよ、朝早くから。しかも当日になってから、夫は『朝食代わりにおにぎりでも持っていこう』と。
言ってくれなければ用意できないと言ったら、『気が利かない』と怒りだして」

結局、コンビニでおにぎりを調達、早朝に出発したが、子どもたちはすぐに眠りこけてしまった。助手席のヒロコさんもうとうとしかけたが、夫が不機嫌そうな顔をしているので、なんとか眠らないよう気を配ったという。

■我慢の限界が近づいて
「夫はもともと自己中なんですよ。急に出掛けようと言いだすのも珍しくない。そのたびに私が振り回される。でも断ると不機嫌になるし、子どもたちの手前、あまり両親のケンカを見せたくないから私が折れるしかなかったんです」

そういう結婚生活が12年も続いてきたのだが、ここへきて、ヒロコさんの我慢の限界が近づきつつあった。

「このドライブの日、とりあえず海に行って、子どもたちはそれなりに楽しそうでしたが、帰りが少し遅くなって、子どもたちはおなかを空かせてしまったんです。ファミレスに行こうと言っても、夫は家で食べたいと言い張る。

これから帰っても何もないし、私も作りたくないと言うと、『食事を作るのが仕事だろ』と夫の暴言。私は食事を作る機械じゃないわと言ってやりました。結局、ファミレス近くの信号で車が止まった隙に、子どもたちを促して車を降りたんです。『ご飯食べに行くよ』って」

■初めての夫への“反逆”
ヒロコさんが初めて夫に見せた“反逆”だった。
夫は焦っていたが、彼女はたまたま前後に車がいないことを十分に確認していた。ファミレスに入ってしばらくすると、夫が入ってきた。

「仏頂面でしたけど、上の子が『パパだっておなか空いてるんでしょ』と。実力行使も時にはいいものだと思いました。今までだったら夫の言いなりに自宅に戻ってから食事を作っていたと思うけど、もうそういうことで我慢しているのが嫌になったんです」

夫も妻の心を少しは理解したのかもしれない。その後、自宅近くのコンビニで、ヒロコさんは子どもたちの好きなアイスを1つずつ買わせた。せっかくの「家族旅行」だったのだから、最後まで子どもたちを喜ばせてやりたかったのだ。

「日ごろはアイスなんてめったに買わないんですけどね、今日だけはいいよって。そういう日を作ることも大事かなと思ったんです。夫は『きみは変わった』とつぶやいていましたが、私が変わらなければ、子どもたちがつらい思いをするだけですから」

強くなれるきっかけは、どこにでもあるとヒロコさんは爽やかに笑った。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。
恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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