夏休みは子どもたちと話す機会も多くなる。会話することで、今どきのほかの家の親子関係がうっすらと見えてくることもありそうだ。


■娘から聞いたほかの家の事情
夏休みはどこへ行こうか……。家族でそんな計画を立てていたときのこと、高校1年の娘からショッキングな話を聞いたと、ナツミさん(45歳)は言う。

「友達の家は、家族で話すことがほとんどない、特に両親が不仲で何カ月も一言も話さないと。その家は娘の友達とお兄さん、両親の4人家族なんだけど、お父さんが帰ってくると家族がいっせいに自分の部屋に引き上げてしまうんだそうです。お母さんもおかずを温めるなど食卓が整うと、自室にリフォームした家事部屋に閉じこもるらしい」

夫が「お父さん、ちょっとかわいそうだな」とつぶやくと、娘は首をかしげながら「でもねえ」と続けた。

「彼女が小学生のころは、お父さんとお母さんが大ゲンカして、よくお父さんがお母さんを殴っていたらしいよ。それから互いに距離をとるように話さなくなって、今はまったく言葉も交わさない。たぶん、子どもたちのために離婚はしないけど話もしないというところに落ち着いたんじゃないかな」

娘の分析にナツミさんと夫は顔を見合わせた。子どもは何でも分かっているのだ。ただ、その友達は時々自分も無言になってしまうことがあるそうだ。

■憎悪や蔑視に満ちた家庭
「ケンカやもめ事が嫌なんでしょうね。だから意に染まないことがあっても自己主張はしない。
代わりに黙り込む。そうなってしまったんだと娘は言っていました」

両親が憎悪を剥き出しにして目の前で大ゲンカを繰り広げたり、DVが起こる場合、子どもの心には修復しがたい大きな傷がついてしまう。夫婦が口げんかをする家庭は多いだろうが、そこに互いへの憎悪や蔑視がある場合、単なる「ケンカの多い家庭」とはまったく違う冷たい雰囲気が漂っているものだ。

「その家、家族4人で食事をすることもほとんどない。週末はどうしているのと聞いたら、週末はお父さんがふらっと出かけて夜中まで帰ってこないんだそうです。娘の友達の気持ちを考えると、胸が痛みました」

夫も思うところがあったのだろう。その夜、「憎み合わないよう、何でも話し合おうな」と改めて言ったそうだ。

■母と娘だけの夏休み
また、別の家庭の話を中学2年生になる次女が話してくれたとナツミさんは言う。

「次女も『周りには両親の仲がものすごく悪い家が多い』と。ある友達は、夏に2週間、旅行すると言っていたそうです。次女が『両親がそんなにそろって休めるの?』と聞くと、『お母さんと二人旅なんだ』と。お母さんはパートで働いているそうなので、少し時期をずらせば休みがとれる。
でもお父さんは休みがとれないらしい、と。

『まあ、休みがとれたとしても3人での旅行はあり得ない』と言っていたんですって。その子がお父さんと出掛けることがあるけど、そうするとお母さんの機嫌が悪くなる。つまりは夫婦が不仲だから娘を取り合うようなことになってる。それも気の毒ですよね」

それにしても……とナツミさんは言う。子どもたちが大きくなれば、特別にベタベタと過干渉になる必要はないが、両親がそろって子どもたちに相対することがないのはちょっと違うのではないか、と。

■従順な妻を装っているけれど
「でもね、パート先にもいますよ。夫に自分からは絶対、話しかけないという人。本当は離婚したいけど、離婚したら子ども3人を育てていけない。だから夫の前では完全に従順な妻を装っている。

言われることにハイハイと答えて言いなりになっているけど、裏では夫のお弁当の野菜炒めにキッチンシンクのゴミを紛れ込ませたりしているって。そうでもしないとやっていられないのよと涙ぐみながら言う彼女を責めることなどできないなと思ったことがあります。
恋愛結婚なのに、どうしてそこまで歪んでしまうんでしょうね」

些細な違和感から相手への不信感が生じ、それが日常生活の中でどんどん大きくなっていき、相手が何を言おうと嫌悪感しか覚えなくなっていく。断ち切りたいけど断ち切れない。そうなったとき自分を守り、子どもたちの将来を守るためには表向きの現状を維持していくしかないのだろう。

「子どもたちの心についた傷はどうなるんでしょうね。修復できない関係なら、子どもの気持ちを優先して、経済的なことを確保できるなら早く離れた方がいいとは思うんですが。当事者でないからなんでも言えますけど、なんだかせつなくてね」

ナツミさん一家は3泊で旅行した。笑いの絶えない4日間だったという。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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