物価の上昇や医療費の負担増を背景に、「老後のお金」に不安を抱える人は少なくありません。特に単身の高齢者世帯では、身近に頼れる家族がいないため、生活費や医療費を全て自分の年金でやりくりしなければならず、日常の暮らしに大きな負担を感じる人も。


厚生労働省の調査でも、高齢者世帯が生活保護受給世帯の過半数を占めています。今回は、60~70代単身世帯の資産状況の実態と安心につながる備え方を考えてみましょう。

■2025年5月時点での生活保護の申請は減少
厚生労働省が公表した「生活保護の被保護者調査(令和7年5月分)」によると、生活保護を受給している人の総数(被保護実人員)は199万861人となっており、前年同月の201万3709人に比べ、2万2848人(1.1%)減少しています。

また、2025年5月の生活保護の申請件数も前年同月比で「3.9%」減少し、2万3028件となっています。

2025年5月時点で生活保護を受けている世帯数の内訳(保護停止中の世帯を除く)の中で最も多いのは、高齢者世帯で全体の「55.3%」を占め、そのうち単身世帯が「51.6%」を占めています。

単身の高齢者は、近くに頼れる家族がいないケースも多く、生活費や医療費の負担が大きな課題となるケースもあります。特に近年は食料品や光熱費など、日常生活に欠かせない支出が相次いで値上がりし、年金収入だけではやりくりが厳しい状況に置かれる人も少なくありません。そのため生活保護に頼らざるを得ない高齢者世帯は依然として多数を占めています。

■60代・70代の単身世帯で、約3~4人に1人は資産100万円未満
金融経済教育推進機構による「家計の金融行動に関する世論調査(2024年)」で、60代・70代の単身世帯が保有する資産に関するデータを見てみましょう。

このうち、金融資産が100万円未満(金融資産非保有含む)の世帯の割合は、

・60代世帯(429人を対象):36.6%
・70代世帯(508人を対象):32.1%

約3~4人に1人は「100万円未満」ということになります。

資産には、銀行や郵便局などでの預貯金のほかに生命保険や株式、投資信託などの投資商品も含まれています。なお、ここでいう「金融資産非保有」とは、日常の預貯金がゼロという意味ではなく、「老後の備えや資産運用などの目的で確保しているお金がない」状態を指します。


また、60代・70代の単身世帯の貯蓄額の平均と中央値は以下のとおりです。

【60代世帯】
・平均:1679万円
・中央値:350万円

【70代世帯】
・平均:1634万円
・中央値:475万円

平均額は60代・70代ともに1600万~1700万円ですが、一部の資産を多く持つ人が数値を押し上げています。実態を表す中央値は60代で350万円、70代で475万円。多くの人が「そこまで余裕があるわけではない」ことが見えてきます。

■老後資金は「足りるかどうか」より「どう備えるか」
こうしたデータを見ると「老後、お金が足りないのでは……」と不安になりますが、ポイントは「十分にあるかどうか」ではなく、「どう備え、安心につなげるか」です。老後を考えるとき、以下のことを心掛けておきましょう。

●公的年金をベースに、生活費とのギャップを把握する
まずは毎月の必要生活費と、年金見込み額との差を確認。差額が小さいなら無理に大きな備えを目指さず、コツコツ補う意識を持ちましょう。

●少額からでも私的年金や積立を活用する
個人年金保険やiDeCoなどを利用し、老後の“上乗せ資金”を準備すれば安心材料になります。

●固定費を見直して将来にゆとりを持たせる
保険料や通信費などは、早めに整理しておくと、定年後の生活費を軽くできます。

●地域の制度やサービスを知っておく
地域包括支援センターや自治体の福祉サービス、趣味サークルやボランティア活動などを活用すれば、経済的な負担を抑えながら人とのつながりも得られます。

■安心のカギは「備え方の工夫」
高齢者単身世帯の多くが、十分な貯蓄を持てていない現状があります。
しかし大切なのは「どれだけ資産があるか」よりも「自分に合った方法で安心を積み重ねていくこと」。

生活費の見直しや少額の積立、地域サービスの活用など、小さな工夫の積み重ねが将来の安心につながります。

老後を支えるのは「お金」だけではありません。日々の暮らしにあわせて備えを工夫していくことが大切です。

文:舟本 美子(ファイナンシャルプランナー)
会計事務所、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として勤務後、FPとして独立。人と比較しない自分に合ったお金との付き合い方を発信。3匹の保護猫と暮らす。All About おひとりさまのお金・ペットのお金ガイド。
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