電車の中では「携帯電話での通話はNG」で「私語はOK」というルールがありますが、よくよく考えてみると不思議な話です。声量に違いはないのですから……。世の中に氾濫するルールを問い直す『謎ルール: 10代から考える 「こんな社会」を生き抜く解放論』(内田樹監修、高部大問著)から一部抜粋し、電車マナーや学校のブラック校則、職場の意味不明な規則のさまざまな「なぜ?」に着目します。■ルールまみれの現代社会「規則はいらない、紳士たれ」。札幌農学校で教鞭をとったクラーク博士によれば、人を育てるにあたってルールなどは不要で、「紳士たれ」この一語で十分だということでした。では、私たちが暮らす今の社会はどうでしょう。「紳士たれ」の一語で間に合うでしょうか? ルールは必要ないでしょうか? 結論を急ぐ前に、今の社会がどれだけルールに溢(あふ)れているか、現状を確認しておきましょう。法律や校則や就業規則にはじまり、社会は決め事に溢れています。法令データベース「e‐Gov法令検索」によれば、日本の法律は約2100件、政令は約2300件、勅令が約70件、府省令が約4000件、規則が約400件もあります。1970~80年代から比べると約8倍も増え、「立法爆発」と呼ばれています。まるで、複雑に絡み合ったスパゲティ状態ですね。明文化された成文法でさえこれだけの数ですから、暗黙の了解や不文律といった言葉にされていないルールを含めると、相当な数に上るでしょう。皆さんも、謎なルールに取り囲まれているはずです。■なぜ会話はOKで車内通話はNGなの?たとえば電車に乗ると、「携帯電話での通話はおやめください」というアナウンスはあるのに、「私語はお控えください」というアナウンスはありません。不思議だと思いませんか? 声量に違いはないのですから。自転車に乗ると、ヘルメットの着用を、これまた謎な「努力義務」として求められます。義務なのでしょうか? 義務ではないのでしょうか?学校に目をやると、ここ数年「ブラック校則」が世間を賑わせましたね。ツーブロック禁止や茶髪の場合の届出の義務づけ、スカート丈は膝上何センチまでなど、髪型や髪色、服装に至る詳細な決まり。さらには、男女交際禁止など、一般常識とは掛け離れた不合理な校則による拘束。生徒の皆さんが選択できる余地がなく理不尽でも従わざるを得ない点が、ブラックといわれる所以(ゆえん)です。大学に入ってからも、インターンシップ(就業体験)の評価を採用に使っていいだとか、就職活動はいつから始めてよろしいだとか、「個性」や「多様性」と大合唱する割に、国のお偉方に謎にルールを決められています。■謎ルールは世界中に存在している学校から離れて趣味の世界のルールはどうでしょうか。大人が目の敵にしてきたゲームにもルールが登場したのを覚えていますか。「ゲームは1日60分まで」と香川県が制定した全国初の「ゲーム条例」は、一部から「謎だ」という声が上がりました。家庭内のルールならまだしも、自治体が決めることへの疑問です。謎ルールは日本だけの現象でしょうか? そんなことはありません。世界に目を向けても、ユニークな謎ルールは枚挙に暇(いとま)がありません。食事の際のチップに始まり、メキシコでは国歌を歌い間違えると罰金を徴収され、ハンガリーではポテトチップス税が、イギリスでは渋滞税が導入されました。 監修:内田樹(うちだ・たつる)1950年東京生まれ。思想家、武道家、凱風館館長、神戸女学院大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。第六回小林秀雄賞(『私家版・ユダヤ文化論』)、2010年度新書大賞(『日本辺境論』)、第三回伊丹十三賞を受賞。著者:高部大問(たかべ・だいもん)1986年淡路島生まれ。教育思想家。全員バラバラの血液型の家族、片目は失明し歯も1本だけの祖父、不登校の近親者、母子家庭の幼馴染、車椅子のクラスメイトなど、いわゆる多様性に囲まれた幼少期・青年期を経て、慶應義塾大学商学部在学中、地球2周分の海外ひとり旅、中国へのインターンシップ・留学を経験。卒業後、リーマン・ショックによる就職氷河期にリクルートに就職。人事・総務・営業を経験した後、大学事務職員にキャリア・チェンジ。入口の学生募集業務から出口の進路支援業務まで10年間従事し、現在はインクルーシブ保育・教育を実践する社会福祉法人どろんこ会に所属。1年間の育休経験も踏まえ、幼児教育から高等教育まで教育現場のリアルを執筆・講演などで幅広く発信。