■Q:厚生年金に入り続け将来の年金額を上乗せするのと、勤務形態を変えて繰り下げ受給を選ぶのでは、どちらが得?
「66歳で会社員として厚生年金に加入中。年金は『繰り下げ』ではなく『停止』扱いになっています。このまま厚生年金に入り続けて将来の年金額を上乗せするのと、厚生年金に入らず勤務形態を変えて『繰り下げ受給(1カ月当たり0.7%増)』を選ぶのでは、どちらが得ですか?」(bennyさん)
■A:どちらが有利かは収入や厚生年金加入状況で変わります。実際の金額を年金事務所で試算して比較するのが安心です
60歳以降も厚生年金に加入しながら働くと、給与と老齢厚生年金の合計が「支給停止基準額(2025年度は51万円)」を超えた場合、老齢厚生年金が支給停止となります。これを在職老齢年金制度といいます。
bennyさんの場合も、給与と年金の合計が基準額を超えているため、老齢厚生年金が「停止」されている状態です。なお、この「支給停止」になっている年金は繰り下げによる増額の対象にはなりません。
①厚生年金に加入し続ける場合の増額効果
在職中は厚生年金保険料を支払い続ける必要がありますが、その分、将来の年金額は増えます。年金の増額分は次のように計算されます。
老齢厚生年金の増額額=標準報酬月額×5.481/1000×厚生年金の加入月数
例えば標準報酬月額が30万円で1年間加入した場合……
30万円×5.481/1000×12カ月≒年約1万9730円の年金が上乗せされます。
5年間加入を続ければ、年約9万8650円(=月額約8220円)多く受け取れる計算です。
②厚生年金に加入せず「繰り下げ受給」する場合の増額効果
老齢年金は、受け取りを遅らせる(繰り下げる)と1カ月につき0.7%増えます。65歳から5年繰り下げて70歳から受給を開始すると、年金額は42%増えます。
注意点として、繰り下げ期間中は、要件を満たす配偶者がいる場合にもらえる加給年金は支給されませんし、繰り下げによる増額もされません。
ただ、老齢基礎年金と老齢厚生年金はどちらか一方のみを繰り下げることも可能です。例えば「給与を調整して老齢厚生年金と加給年金を受け取りつつ、老齢基礎年金だけを繰り下げる」といった方法も選べます
■どちらが得かの判断は人それぞれ
厚生年金に加入して働き続ければ将来の年金は確実に増えますが、その分、毎月の保険料負担が発生します。厚生年金に加入していると、医療面や障害を負ったときの保障といった社会保険上のメリットもあります。
一方、繰り下げ受給は働き方を変えて厚生年金保険料負担をなくしつつ将来の年金額を増やせますが、加給年金が止まる点や、増える割合が生活に見合うかは個別の試算が必要です。実際にどういった受け取り方法が有利になるのか、年金事務所で試算してもらうと安心ですね。
監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)
都市銀行や保険会社、保険代理店での業務経験を通じて、CFP、証券外務員の資格を取得。相談業務やマネーセミナーの講師、資格本の編集等に従事。日本FP協会の埼玉支部においてFP活動を行っている。