男の子がいれば、いつか自分が「息子の妻」と接する日が来る可能性があると分かってはいるものだが、いざそうなってみると「いい姑でいなければ」という思いが募り、空回りすることもある。
よかれと思ってやることが、必ずしも「相手にとってよい」ことではないのだ。
■娘がいないからうれしかった
35歳になる長男、32歳の次男をもつマリエさん(62歳)。子どもたちは独立して、今は夫婦二人だけの生活だ。1つ年上の夫は自営業で、マリエさんもずっと一緒に頑張ってきた。
「長男が結婚したのは1年前です。いわゆるできちゃった婚だったんだけど、その時点ですでに2年も同棲していて、かえって婚姻届を出すタイミングができたという感じでした。ただ、私たちは彼が同棲していることは知らなかったので、ちょっと驚きましたが」
それでも息子の選んだ女性を否定する気など一切なかった。むしろ大歓迎だった。マリエさんは「娘ができた」という心境だったという。
「仲よくしたくてたまらなかった。一緒に買い物に行ったりお茶したりできると思ってうれしかったですね。娘をもつ友人がごく普通にしていることをしてみたかったし、できると信じていました」
■お礼のメッセージは届くものの……
長男が彼女を連れてきたときには、彼女の好物をあらかじめ聞いておき、腕をふるった。残った料理ももって帰ってもらった。
帰りがけには、若い女性に人気のブランドのスカーフをプレゼントした。恐縮する彼女に「いいのよ。これからよろしくねというあいさつ代わり」と押しつけるように渡した。
「結婚式は子どもが生まれてからということでした。彼女は仕事を続けていくというので、妊娠しているのに大変だと思い、時々総菜を作っては差し入れしたり、息子の好きな手作りクッキーをもっていったりしていました。
彼女は忙しくて、『今度、ゆっくりお茶でもしましょう』と誘ってはいたけどなかなか実現しなかった。それでも私は娘だと思って、友人に聞いては、いい育児本とか妊婦さんの健康のための本とかも渡していました」
彼女からはお礼のメッセージは届くものの、電話をしてもめったに出ない。忙しいから仕方がないと割り切ってはいたが寂しかった。
■彼女の実家には遊びに行くのに
そろそろ臨月に入るというころ、「もう産休をとってる? どこかで二人で食事でもしない?」と留守電に入れたが、「もう少しの間、仕事をします」ということだった。
マリエさんは仕事の合間にせっせと作った子どもの産着やら毛糸の靴下などを渡したかったので、あるときそれらをもって息子の自宅に行った。
「二人ともいなかったから、宅配ボックスに入れて行こうとしたら、ちょうど息子夫婦が帰ってきたところでした。あら、と思ったら、なんと彼女のお母さんが一緒で。
あいさつをしたら、『今日はうちで夕飯を一緒にとったものだから』と言っていました。え? 私の方にはまったく来ないのに……と思いましたが、そんなことは言えないから、適当に笑って流しました」
帰宅してからもなんだか釈然としない。ついつい夫に愚痴をこぼすと「息子だってそれでいいと思っているんだろうから、いいじゃないか、放っておけよ」という返事。
「息子をとられたという感覚が強かったし、娘だと思った彼女がちっとも懐いてくれないことにも納得がいかなかった。こんなにいい姑、めったにいないと思っていたのに」
息子夫婦の自宅は、彼女の実家よりこちらの方が近い。それなのに彼女の実家に二人はたびたび行っているようなのが気に入らなかった。
■息子から苦情が
「翌日、息子から連絡があったので、『どうしてあちらの家にばかり行くの。うちにも二人で来なさいよ』と言ったら、『しょっちゅう宅配ボックスにいろいろなものを入れるのやめてくれないかな』と思いがけないことを言われたんですよ。
『総菜なんかを入れられても、食べきれないから困るんだよね』『赤ちゃんのものは自分たちで買うから』『お母さんが親切でしてくれているのは分かっているけど、押しつけがましいんだよ』とだんだん言葉がひどくなっていって……」
電話を切ってから、マリエさんはさめざめと泣いた。長男の結婚がうれしくて、孫が生まれるのが楽しみで、息子の妻をかわいいと思って仲よくしたかった。それがそんなにいけないことなのだろうか、と。
「彼女にだって親がいるんだよ。
夫にそう言われて、マリエさんはへこんだ。
「それからは何もする気がなくなりました。結局、孫が生まれたときも私たちには事前に連絡がなく、生まれてからの連絡。行ってみたら、あちらの親御さんはすでに来て帰ったあとでした」
長男の嫁なのに私たちのことは何も考えてくれないのねと、決して使わないと決めていた言葉がつい口から出てしまった。
■もう親しくしようとは思わない
「そんなに嫌わなくてもいいのにと、赤ちゃんに会いに行った場で私、泣き出してしまったんです。夫に引きずられるようにして帰りました」
気を使った“長男の嫁”は、3カ月ほどたったころ遊びに来た。マリエさんは、手料理も作らず、適当に店屋物をとってもてなした。夫と息子一家は穏やかに話していたが、マリエさんだけは自分でも分かるほどギスギスしていた。
「あんな仕打ちをされたら、もう二度と親しくしようという気にはなれません。彼女がフレンドリーなタイプじゃなかったんだと思う。
自分から暴走はしないと彼女は言うが、適切な距離をとろうとも考えていないようだ。次男の妻と相性が合えばいいんだけどと、あまり懲りていない様子だった。
▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
よかれと思ってやることが、必ずしも「相手にとってよい」ことではないのだ。
■娘がいないからうれしかった
35歳になる長男、32歳の次男をもつマリエさん(62歳)。子どもたちは独立して、今は夫婦二人だけの生活だ。1つ年上の夫は自営業で、マリエさんもずっと一緒に頑張ってきた。
「長男が結婚したのは1年前です。いわゆるできちゃった婚だったんだけど、その時点ですでに2年も同棲していて、かえって婚姻届を出すタイミングができたという感じでした。ただ、私たちは彼が同棲していることは知らなかったので、ちょっと驚きましたが」
それでも息子の選んだ女性を否定する気など一切なかった。むしろ大歓迎だった。マリエさんは「娘ができた」という心境だったという。
「仲よくしたくてたまらなかった。一緒に買い物に行ったりお茶したりできると思ってうれしかったですね。娘をもつ友人がごく普通にしていることをしてみたかったし、できると信じていました」
■お礼のメッセージは届くものの……
長男が彼女を連れてきたときには、彼女の好物をあらかじめ聞いておき、腕をふるった。残った料理ももって帰ってもらった。
帰りがけには、若い女性に人気のブランドのスカーフをプレゼントした。恐縮する彼女に「いいのよ。これからよろしくねというあいさつ代わり」と押しつけるように渡した。
「結婚式は子どもが生まれてからということでした。彼女は仕事を続けていくというので、妊娠しているのに大変だと思い、時々総菜を作っては差し入れしたり、息子の好きな手作りクッキーをもっていったりしていました。
彼女は忙しくて、『今度、ゆっくりお茶でもしましょう』と誘ってはいたけどなかなか実現しなかった。それでも私は娘だと思って、友人に聞いては、いい育児本とか妊婦さんの健康のための本とかも渡していました」
彼女からはお礼のメッセージは届くものの、電話をしてもめったに出ない。忙しいから仕方がないと割り切ってはいたが寂しかった。
■彼女の実家には遊びに行くのに
そろそろ臨月に入るというころ、「もう産休をとってる? どこかで二人で食事でもしない?」と留守電に入れたが、「もう少しの間、仕事をします」ということだった。
マリエさんは仕事の合間にせっせと作った子どもの産着やら毛糸の靴下などを渡したかったので、あるときそれらをもって息子の自宅に行った。
「二人ともいなかったから、宅配ボックスに入れて行こうとしたら、ちょうど息子夫婦が帰ってきたところでした。あら、と思ったら、なんと彼女のお母さんが一緒で。
あいさつをしたら、『今日はうちで夕飯を一緒にとったものだから』と言っていました。え? 私の方にはまったく来ないのに……と思いましたが、そんなことは言えないから、適当に笑って流しました」
帰宅してからもなんだか釈然としない。ついつい夫に愚痴をこぼすと「息子だってそれでいいと思っているんだろうから、いいじゃないか、放っておけよ」という返事。
「息子をとられたという感覚が強かったし、娘だと思った彼女がちっとも懐いてくれないことにも納得がいかなかった。こんなにいい姑、めったにいないと思っていたのに」
息子夫婦の自宅は、彼女の実家よりこちらの方が近い。それなのに彼女の実家に二人はたびたび行っているようなのが気に入らなかった。
■息子から苦情が
「翌日、息子から連絡があったので、『どうしてあちらの家にばかり行くの。うちにも二人で来なさいよ』と言ったら、『しょっちゅう宅配ボックスにいろいろなものを入れるのやめてくれないかな』と思いがけないことを言われたんですよ。
『総菜なんかを入れられても、食べきれないから困るんだよね』『赤ちゃんのものは自分たちで買うから』『お母さんが親切でしてくれているのは分かっているけど、押しつけがましいんだよ』とだんだん言葉がひどくなっていって……」
電話を切ってから、マリエさんはさめざめと泣いた。長男の結婚がうれしくて、孫が生まれるのが楽しみで、息子の妻をかわいいと思って仲よくしたかった。それがそんなにいけないことなのだろうか、と。
「彼女にだって親がいるんだよ。
きみが息子をかわいいと思うのと同じように、あちらの親御さんだって娘がかわいい。きみは自己アピールが激しいだけで、相手がしてもらってうれしいと思うようなことはしていないんじゃないか。放っておいてほしいんだろう」
夫にそう言われて、マリエさんはへこんだ。
「それからは何もする気がなくなりました。結局、孫が生まれたときも私たちには事前に連絡がなく、生まれてからの連絡。行ってみたら、あちらの親御さんはすでに来て帰ったあとでした」
長男の嫁なのに私たちのことは何も考えてくれないのねと、決して使わないと決めていた言葉がつい口から出てしまった。
■もう親しくしようとは思わない
「そんなに嫌わなくてもいいのにと、赤ちゃんに会いに行った場で私、泣き出してしまったんです。夫に引きずられるようにして帰りました」
気を使った“長男の嫁”は、3カ月ほどたったころ遊びに来た。マリエさんは、手料理も作らず、適当に店屋物をとってもてなした。夫と息子一家は穏やかに話していたが、マリエさんだけは自分でも分かるほどギスギスしていた。
「あんな仕打ちをされたら、もう二度と親しくしようという気にはなれません。彼女がフレンドリーなタイプじゃなかったんだと思う。
次男はもうちょっとオープンな人と結婚してくれたらいいんだけど」
自分から暴走はしないと彼女は言うが、適切な距離をとろうとも考えていないようだ。次男の妻と相性が合えばいいんだけどと、あまり懲りていない様子だった。
▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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