ある女性お笑いタレントが番組の中で、「先輩と一緒に食事に行ったとき、『明日、仕事?』と聞かれるのが嫌だ」と語っていた。何を探っているのだろうと疑心暗鬼になってしまうそうだ。


ところが先輩側は、「翌朝、仕事で早いのなら早く切り上げた方がいいし、朝遅かったり仕事がないのであれば今日はゆっくり楽しめるねという意味」なのだという。

後輩の方が「気遣ってくれているんだな」と思えるなら何の誤解も生まないが、「仕事が暇かどうか探りを入れている」と感じてしまえば、「明日、仕事?」という一言は彼女にとって「嫌な言葉」になってしまう。感覚が違うと、こうも受け取り方が変わるのかという典型的な例だ。

先輩側も一言「明日の朝、早くないのなら今日はゆっくりできるね」とつけ加えれば誤解を招かないし、後輩側も「仕事ですけど早くはないので、今日は遅くなっても大丈夫です」と言えば済んだ話。

一言多くて誤解を生むこともあるが、一言少なくても誤解を生む。適度に言葉を尽くすのは難しいのかもしれない。

■「この日、あいてる?」と聞く前に内容を話してほしい
会社の先輩に「この日、あいてる?」と聞かれるのが苦手だというサヤさん(38歳)。独身のため、以前はよく“親切な”先輩たちが合コンを予定してくれたが、その際の誘い方がいつも気になっていた。

「その先輩が、この日あいてる? というときはだいたい合コンの打診なんですよ。ただ、内容によっては行かないわけでもない……。それなのにまず日程を押さえようとするのが嫌だったんですよね。『こういう飲み会があるけど、この日、あいてる?』なら素直に答えられるんですけどね」

これは飲み会のみならず、さまざまな場面で聞かれることかもしれない。


■内容によって行く行かないを決める自由もあるはず
サヤさんは以前も、別の先輩とのやりとりの中で、いきなり日程だけ聞かれ、「その日はちょっと友達と予定があって」と答えたら、それは仕事で有益かつサヤさんが以前から出席したいと思っていた会合についてだった。

あわてて「それなら行きます」と言うと、「私の誘い、内容によって選ぶんだ」と言われて気まずい思いをしたことがある。

「でも内容によって行く行かないを決めるのは私の自由だと思うんですけどね。そうは言えなかったけど……」

だから後輩を多く抱える今、サヤさんは必ず内容を説明してから日程的に大丈夫かどうか尋ねることにしているという。

■思いがけない失敗
「断りづらい状況にしたら気の毒だと思って。そう決めているのに、つい先日、私、やらかしちゃったんですよ」

それは、先輩女性の誕生日にサプライズでお祝いしたいという後輩の一言から始まった。筋書きとしては、取引先との会合と言って、先輩のスケジュールを押さえる。そして仕事が終わり次第、先輩をレストランへ連れ出す。だが、取引相手がなかなか来ない。

先輩が焦れてきたころ、いきなり電気が消えて店内は真っ暗に。パッと明かりがつくと社内の有志、かつての同僚など20人ほどがいきなり彼女を取り囲んでハッピーバースデーを歌うというものだった。レストランを貸し切り、当日の準備も万端だった。


だが、実際に電気が消えて真っ暗になったとき、先輩はパニックに陥った。次のハッピーバースデーの歌のときには顔がひきつっていたという。

「びっくりしたのか喜んだのかと思っていたんですが、彼女、暗闇恐怖症だったんですって。本気で怖かったと震えていて……。そもそもサプライズで何かしてもらうのが実は好きではなかったことも判明。そこまで知っている人は誰もいなかったから、猛反省しましたね。

彼女は『みんなが喜ばせようとしてくれたことだから感謝してる』とあとから言ってくれたけど、その時点ではかなり恐怖感を覚えていたんだと思います。必死で楽しそうにふるまってくれたんでしょうけど、けっこうぎこちない雰囲気になってしまっていました」

■ちょっとした感覚のズレが誤解を生むことも
誰もがサプライズ好きだという思い込みも決していいことではなさそうだし、そもそも彼女のスケジュールを押さえるために「仕事の会合」としたのもよくなかったとサヤさんは言う。先輩はその仕事について念入りに準備をしていたからだ。

その仕事は実はまだ企画段階で、相手と会うところまでは進んでいない。彼女によけいな準備をさせてしまったことがサヤさんには後悔として残っている。

「素直に誕生日パーティーをしたいと言った方がよかった。
サプライズが嫌いな人もいるとか、暗闇恐怖症の人もいるとか、仕事をダシにするとよけいな手間をかけるとか、いろいろな想定をせずにことを進めてはいけないなと痛感しています」

人間関係は、ちょっとした感覚のズレから、とんでもなく険悪になる危険性もある。そのことは頭に入れておかなければならないとサヤさんは真剣な面持ちでつぶやいた。

▼亀山 早苗プロフィール明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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