老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
そんな年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。今回は、お得になる退職の時期について質問です。

■Q:会社を65歳で辞めるのと、64歳11カ月で辞めるのでは、どちらが得?
「昭和50年生まれの50歳です。会社を65歳で辞めた方がいいのか、64歳11カ月で辞めた方がいいのか迷っています」(舟渡組さん)

■A:64歳11カ月で退職して「基本手当」をもらう方が、給付金額は多くなる傾向にあります。ただし、退職金や年金への影響もあるため、総合的に判断することが大切です
舟渡組さんのご質問は、「退職のタイミングによって、もらえるお金がどう変わるのか?」という内容ですね。

実は、“65歳になる前に辞めるか”“65歳を過ぎてから辞めるか”によって、雇用保険から受け取れる給付の内容が変わります。

■65歳未満で辞めた場合「基本手当(失業等給付)」が支給される
まず、64歳11カ月など65歳になる前に退職した場合は、雇用保険から「基本手当(失業等給付)」が支給されます。基本手当は年金(特別支給の老齢厚生年金など)との併給はできません。

支給を受けるためには、離職日以前の2年間に通算12カ月以上の雇用保険加入が必要です。基本手当の支給日数は、雇用保険の加入期間によって90日~150日間。

支給額は……
賃金日額(退職前6カ月の給与÷180)×0.45~0.8
で算出されます。給与が高いほど、また加入期間が長いほど支給額も増えます。


■65歳以降で辞めた場合「高年齢求職者給付金」が一時金で支給される
一方、65歳の誕生日の前日以降に退職した場合は、「高年齢求職者給付金」という一時金が支給されます。

離職日前の1年間に通算6カ月以上の雇用保険加入があれば受給資格があり、支給日数は次の通りです。

加入期間1年以上:基本手当日額×50日分
加入期間1年未満(6カ月以上):基本手当日額×30日分

こちらは一括支給のため、早めにまとまったお金を受け取りたい人には便利ですが、総額としては基本手当より少なくなる傾向があります。

ただし、高年齢求職者給付金は老齢年金と同時に受け取れるというメリットもあります。

■金額だけ見ると「64歳11カ月退職」が有利
給付総額だけを比較すると、64歳11カ月で退職して「基本手当」を受け取る方が有利なケースが多いです。なぜなら、基本手当は最大150日間支給されるのに対し、高年齢求職者給付金は30~50日分の一時金にとどまるためです。

ただし、実際には「もらえるお金の総額」以外にも、いくつかの注意点があります。

■注意点①:退職金や賞与の支給条件に注意
勤務先によっては、「定年満了で退職した場合のみ退職金が満額支給」といった条件があることも。

64歳11カ月で退職すると、退職金や賞与が減額・不支給になるケースもあるため、必ず会社の就業規則を確認しておきましょう。

■注意点②:基本手当の支給までに1カ月の待期期間がある
自己都合退職の場合は、7日間の待期期間+1カ月の給付制限期間を経て、基本手当の支給が始まります(※2025年4月以降の法改正により、給付制限期間は従来の2カ月から1カ月へ短縮)。

また、4週間に1度ハローワークで失業認定を受ける必要があり、最大150日分を受け取るにはおよそ4~5カ月かかります。

■注意点③:厚生年金の加入月が1カ月短くなる
64歳11カ月で退職すると、厚生年金の加入期間が1カ月分短くなります。
この分、将来の老齢厚生年金の支給額がわずかに減ることもあります。金額的には数百円程度の違いですが、長期的に見れば無視できない場合もあります。

給付金額だけで見ると、「64歳11カ月で退職して基本手当を受け取る」方が有利に見えます。しかし、退職金や賞与の支給条件、年金加入期間の影響なども含めて考えると、最適な選択肢は人それぞれです。

最終的には、勤務先の人事担当者やハローワークに確認し、
・退職金や賞与の支給条件
・基本手当・高年齢求職者給付金の支給見込み
・年金加入への影響
を比較したうえで決めると安心です。

監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)
都市銀行や保険会社、保険代理店での業務経験を通じて、CFP、証券外務員の資格を取得。相談業務やマネーセミナーの講師、資格本の編集等に従事。日本FP協会の埼玉支部においてFP活動を行っている。
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