老後の生活費が不安で「年金を65歳まで待てない」「少しでも早く現金がほしい」といった理由から、年金を前倒しで受け取る「繰り上げ受給」を検討する人は少なくありません。

今回は、繰り上げ受給を考えるときに押さえておきたい視点について、経済ジャーナリストでAll Aboutマネーガイドの酒井富士子さんに教えてもらいました。


■年金は「早く受け取る」のも権利です
年金制度は原則として65歳から受け取りますが、希望すれば60歳から受給を始められる「繰り上げ受給」という制度があります。

===
老齢基礎・厚生年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受け取ることができます。ただし、繰上げ受給の請求をした時点に応じて年金が減額され、その減額率は一生変わりません。(『年金の繰上げ受給』日本年金機構)
===

繰り上げを検討する方の中には、「年金がないと生活が成り立たない」「体調を崩して働けない」など、やむを得ない事情を抱えている人も多いと思います。

そうした状況であれば、たとえ減額されても早く受け取る判断は決して悪いものではありません。年金を受け取るのは権利です。必要な時期に使うことは何もおかしいことではないからです。

私自身、60代前半でがんを患った知人に「繰り上げてもよいのでは」と勧めたことがあります。体力を温存し、少しでも安心して生活してほしいと感じたためです。

年金受給のタイミングを考える際、「長く生きるかどうか」だけを基準にするのではなく、その人の健康状態や暮らしの状況に合っているかが大切だと思います。繰り上げを選ぶ判断材料としてよく挙げられるのが、次の2つです。

経済的な不安:
60歳から65歳の間にどうしても生活費が不足してしまうケースです。
貯蓄が心もとない、再雇用も難しい――そうした状況では、減額を承知のうえで年金を頼るのは1つの選択肢です。

健康上の理由:
自身の健康に不安があり、「長生きするかも分からない」という考えから、早めに確実にお金を受け取りたいというケースもあります。

繰り上げ受給は、一般には「避けたほうがよい選択」と語られることが多い制度です。しかし、家計がショートしてしまうことは、何より避けなければならない事態です。

年金をいつから受け取るかは、損得の問題ではありません。老後の暮らしをどう設計するか、その中で「早くもらう」という選択が合う人もいるはずです。焦らず、自分にとって納得できる形を選んでください。

文:酒井 富士子(経済ジャーナリスト)
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに転職し、定年あるじゃん、あるじゃん投資BOOK等の立ち上げ・編集に関わる。2006年にお金専門の制作プロダクション「回遊舎」を創業。「ポイ活」の専門家としても情報発信を行う。
編集部おすすめ