令和7年6月、年金制度の改正を盛り込んだ法律が成立しました。その改正の1つが、働きすぎると年金の一部(または全部)が支給停止される「在職老齢年金制度」です。


制度がどのように変わり、どんな人に影響があるのか、経済ジャーナリストでAll Aboutマネーガイドの酒井富士子さんに、在職老齢年金制度の改正ポイントについて教えてもらいました。

■基準額が51万円から、62万円に
在職老齢年金制度は、60歳以上で働きながら厚生年金に加入している人が年金を受給する際、給与(賞与含む)と老齢厚生年金(月額)の合計額が一定基準を超えると年金が一部カットされる仕組みです。

これまで(令和7年度)は、この基準額は51万円でしたが、令和8年4月から62万円に引き上げられる予定です。
働きながら年金をもらう人必見! 在職老齢年金制度が、2026年春から見直し
在職老齢年金制度の見直しについて(出典「在職老齢年金制度の見直しについて」厚生労働省)

つまり、今回の改正によって年金を減らされずに働ける収入の範囲が広がるわけです。

■「年金がカットされない」月給はいくらになる?
では、どれくらいの月給までなら、年金を減らされずに受け取れるのでしょうか。

例えば、厚生年金の平均月額とされる17万5000円を受給している方のケースで計算してみましょう。

改正前:
(基準額)51万円-(厚生年金)17万5000円
=(月給)33万5000円

改正後:
(基準額)62万円-(厚生年金)17万5000円
=(月給)44万5000円

つまり、改正後は、月給44万5000円までは年金がカットされず、満額受け取れるようになります。

60歳以上で月給が45万円に届く人というと、役員クラスがほとんどと予測されます。つまり、改正後は多くのシニアが、年金を減らされずに働けるようになります。

なお、在職老齢年金制度で調整(支給停止)されるのは老齢厚生年金のみです。老齢基礎年金(国民年金部分)は減額されません。基礎年金はこれまで通り確実に受け取れます。


また、一度、調整された分の老齢厚生年金は、将来にさかのぼっても受け取ることはできない点も押さえておきましょう。

60歳以上で働くシニアにとっては、「働いたら年金が減らされる」という不安が大きく軽減され、生活費の確保もしやすく、選べる働き方が大きく広がる改正といえるでしょう。

参考:在職老齢年金制度の見直しについて

文:酒井 富士子(経済ジャーナリスト)
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに転職し、定年あるじゃん、あるじゃん投資BOOK等の立ち上げ・編集に関わる。2006年にお金専門の制作プロダクション「回遊舎」を創業。「ポイ活」の専門家としても情報発信を行う。
編集部おすすめ