老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
そんな年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。

今回は、年金を繰り上げ受給しており、給与とボーナスをもらった場合の支給停止額についての質問です。

■Q:年金を繰り上げ受給しています。ボーナス月に給与とボーナスの合計が46万円、年金が7万円ある場合、年金は支給停止になりますか?
「老齢年金を繰り上げて受給しており、働きながら年金も受け取っています。月によって給与が増え、ボーナスが出ると月の収入が46万円ほどになります。年金は月7万円ありますが、支給停止の対象になるでしょうか?」(あらちーさん)

■A:相談者の総報酬月額相当額を46万円と仮定した場合、繰り上げした老齢厚生年金は一部支給停止になります(令和7年度)が、総報酬月額相当額が46万円より低ければ、支給停止にならない可能性もあります
60歳以降、厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金(特別支給を含む)を受け取る場合、在職老齢年金制度によって年金額が調整されます。老齢厚生年金の「基本月額」と「総報酬月額相当額」を足した金額が、令和7年度の支給停止基準額である51万円を超えると、年金の一部または全額が支給停止となります。令和8年度からは支給停止基準額は月62万円へ引き上げられます。

この仕組みは、老齢基礎年金ではなく、老齢厚生年金だけが対象である点にも注意が必要です。

ご相談文の「給与とボーナスを合わせて46万円」という表現には、在職老齢年金の計算上注意点があります。

ボーナス(賞与)はその月の実額を足すのではありません。

正式には、「交通費などの手当を含む毎月の月収」+「過去1年間の賞与(ボーナス)の合計÷12」で計算したものが総報酬月額相当額になります。


つまり、相談者が「ボーナス月は給与と賞与合わせて46万円」と認識していても、制度上の計算に使う数値とは一致しない可能性が高いのです。

正しい計算を行うため、本記事では次のように前提を置きます。

総報酬月額相当額:46万円
老齢厚生年金の基本月額:7万円(内訳が不明のため便宜的に全額を使用)

すると、合計は53万円となり、支給停止基準額51万円を超えるため、老齢厚生年金が一部支給停止となります。

調整後の支給金額は次の式で求められます。

・基本月額−{(基本月額+総報酬月額相当額-51万円)÷2}

今回のケースにあてはめると……
7万円-{(7万円+46万円)-51万円}÷2
=7万円-(2万円÷2)
=6万円

したがって、調整後の老齢厚生年金は月額6万円になります。

今回のように「月ごとの収入で判定される」と誤解されるケースは多いですが、実際には賞与は1年分を均して(÷12して)計算します。

そのため、「ボーナス月だけ急に支給停止になる」という仕組みではありません。今回の例でも、
あらちーさんの本当の総報酬月額相当額が46万円より低ければ、支給停止にならない可能性もあります。

今回のご相談の計算例では、総報酬月額相当額を46万円と仮定したため、調整後の支給額は月6万円となりました。

しかし実際には、手当などを含む毎月の給与額、過去1年間の賞与総額などにより金額は変わります。正確な支給停止額を知るには、最寄りの年金事務所でシミュレーションしてもらうと安心です。

監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)
都市銀行や保険会社、保険代理店での業務経験を通じて、CFP、証券外務員の資格を取得。
相談業務やマネーセミナーの講師、資格本の編集等に従事。日本FP協会の埼玉支部においてFP活動を行っている。
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