老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
そんな年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。今回は、休職中で、退職をして年金の繰り上げ受給を検討しているという男性からの質問です。

■Q:61歳で休職中です。退職後に繰り上げ受給を考えていますが、繰り上げると妻が遺族厚生年金をもらえなくなると聞きました。本当でしょうか?
「1964年3月生まれの61歳男性です。現在は嘱託社員ですが体調不良で休職中です。近日の退職後は老齢年金の繰り上げ受給を考えています。既婚なのですが、『繰り上げ受給をすると遺族厚生年金がもらえなくなる』と聞き、不安です。本当でしょうか?」(yujiさん)

■A:繰り上げ受給をしても、ご家族は遺族厚生年金を受け取れます。結論として「もらえなくなる」という情報は誤りです
年金制度では「1人1年金」が原則ですが、遺族年金のように他の年金と併給できる例外もあります。遺族厚生年金はその1つで、老齢年金を繰り上げたからといって、ご家族が受け取れなくなることはありません。

まず、yujiさんが繰り上げ受給をしている場合、その減額された老齢年金を受け取るのはyujiさんご本人です。
そして、yujiさんが亡くなった際には、ご家族が遺族厚生年金を受給することができます。これは繰り上げ受給をしていても変わらないルールです。

「繰り上げ=遺族厚生年金が消える」という誤解が広がっていますが、実際にはそのような影響はありません。

■繰り上げ受給には注意点もあります
繰り上げ受給を考える際は、遺族厚生年金以外にも知っておきたいポイントがあります。

1つは、繰り上げた老齢年金は、本来よりも、繰り上げた月数に応じてひと月当たり0.4%ずつ減額された金額が一生涯続くという点です。※昭和37年4月1日以前生まれの方の減額率は0.5%。減額率は後から変えられず、取り消しもできません。

また、今回のご相談では体調不良で休職中とのことでしたが、もし病気やけがで働けない状態が続く場合には、障害厚生年金の対象となる可能性があります。ただし、繰り上げ受給をすると、その後に障害基礎年金や障害厚生年金を新たに請求できなくなる場合があります。治療中の病気や持病がある方は、この点に十分注意が必要です。

なお、老齢年金は課税対象ですが、遺族厚生年金は非課税ですので、ご家族が受け取る遺族年金に税金がかかることはありません。

yujiさんが繰り上げ受給をしたとしても、ご家族が遺族厚生年金を受け取れなくなることはありません。
これは制度上保証されている部分です。

その一方で、繰り上げ受給には……
・生涯減額された金額になる
・障害年金を将来請求できなくなる可能性がある
といったデメリットもあります。

体調面や今後の収入見込みも踏まえて慎重に判断することが大切です。不安があれば、最寄りの年金事務所で詳しい説明を受けてから決めると安心でしょう。

監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)
都市銀行や保険会社、保険代理店での業務経験を通じて、CFP、証券外務員の資格を取得。相談業務やマネーセミナーの講師、資格本の編集等に従事。日本FP協会の埼玉支部においてFP活動を行っている。
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