厚生労働省が2025年7月4日に公表した「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、生活が大変苦しいと感じている世帯は28.0%、やや苦しいが30.9%、つまり約6割の世帯が苦しいと感じていることになる。ややゆとりがある、大変ゆとりがあるは合わせても5%に届かない。


これだけ物価が高騰すれば、ごく普通に働いている世帯では厳しくないはずがない。物価高に収入がまったく追いついていかないのだから。「主食の米を週に3回に減らし、量販店で安い麺類を購入している、本当は新米が食べたいけど」と嘆く主婦もいる。

それでもなんとか生きていかなければならない。どうせ生きるなら、嘆くより笑って生きたい。そうやって一般庶民は頑張っているのだ。ところが、「うちは貧乏だから」と「ちゃっかり得しようとしている」人たちもいる。

■「我が家が一番貧乏」と言い切る友人
「小学校5年生と2年生の子がいます。下の子が小学校に入ったころに、同じマンションに越してきた一家がいるんですが、その家のママがなかなか個性的な人でした」

苦笑しながらそう言うのはケイコさん(42歳)だ。ケイコさん一家は、5年前に中古マンションを購入、個性的なママであるマミさんも同じように購入して越してきた。

「マミさんの家は、夫がそこそこの企業に勤めているんです。うちの夫は飲食店勤務なので、うちより夫の収入は高いはず。
彼女はパート主婦、私は在宅のフリーランスで、妻の収入もたいして変わらないんじゃないでしょうか。うちは男の子と女の子、彼女は娘一人だから、うちよりお金はかからないはず。

どう考えても、うちの方が貧乏なんですが、彼女は『我が家がこのマンションの中で一番貧乏』と言い切るんですよ。そして、『なんかいらないものがあったら恵んで』『子どものお下がりがあったらちょうだい』と恥ずかしげもなくねだる。それはある意味、見事で。子どもの洋服なんかけっこうもらっていたみたいですね」

バザーに出してもたいした金額にはならないし、どうせあげるなら知っている人の方がいいと言って、マミさん宅にダンボールを持ち込んだママ友もいるという。

■あっけなく総スカンを食らうことに
そうやって注目を集めて、いろいろなものをゲットしているマミさんに、ケイコさんはどうしても好意をもてなかった。言ったもの勝ちなのかとも思ったが、ケイコさんにはやはり「貧乏だからちょうだい」とは言えなかった。

「ところがあるとき、マミさんがもらったものの多くを、別の町のバザーに出していると聞いてびっくりすると同時に、やっぱりねと思いました。中には、彼女の誕生日にママ友たちが送ったちょっといいグラスもあったらしい。別の町まで見に行った人がいて、あっという間にうわさが広まり、彼女はあっけなくみんなから総スカン。そりゃそうですよね」

うちは貧乏だから。
そう言いきってしまう彼女の「怪しさ」みたいなものはみんなが感じ取っていたのかもしれない。

■夜まで子どもを迎えに来ない母親
近所同士が仲よしだというカズエさん(45歳)。小学校6年生と2年生、二人の息子がいる。下の子は近所に住むヨシミさんの一人息子と同い年で、二人は仲がいい。

「ヨシミさんのところは共働きで、夫が超多忙、出張も多いといつも嘆いています。ヨシミさんも『このところ残業が多くて。でもうちは親戚も近くにいないし。つい息子を一人にしがちで』と言っていたので、うちでよかったら預かるわよと言ったのが運の尽きでした」

ヨシミさんの息子はたびたび遊びに来るようになった。それはいいのだが、夕飯時になっても帰らない。仕方がないので食事を提供するようになった。

「ちょうど食事が終わったころ、『ごめんなさい!』とドタバタ迎えに来るんです。週に1回くらいだったのが週に2、3回になり、最近は週に4回という日も。
しかもありがとうとお礼は言うけど、食費を払うとも言わない。子どもに何か言うわけにもいかないし、本当に困っていたんです。

うちは私が週3回のパートだし、夫だって給料が高いわけではない。自分の息子なら『ごはん、もう終わり。おなかがすいたらパンでも食べよう』と言えるけど、他人の子にそうは言えない」

夫は帰宅が遅いため、現場を見てはいない。夫に相談したら、ヨシミさん宅に怒鳴り込んでいきそうな気がして言えなかった。

■彼女の息子が言った言葉に
「でもヨシミさんの方もさすがに何かを感じていたんでしょう。ある日、息子に菓子折を持たせ、『おばさん、ごめんなさい。うち、貧乏だから僕はごはんを食べられないんです。今日は食べさせてください』って。そう言えと母親に言われたんでしょうね。なんだかかわいそうになってしまって……」

それでも、さすがに他人の家の子にそこまでする必要があるとは思えなかった。
もちろん、ある程度の食費を出すとヨシミさんが言うなら話は変わってくる。いや、食費を出す姿勢だけでも見せてくれればカズエさんは気持ちよく、彼女の息子に食事を出せたかもしれない。

「うちは貧乏だからって子どもに言わせるのがせつなすぎる。同じ親の立場として、そんなことを子どもに言わせるのは許せない。なんだか妙に腹が立ちました」

思い切って言うつもりだったその日、ヨシミさんとその息子は突然、姿を見せなくなった。二人は家を出て、実家に戻ったとあとから知った。

「もしかしたら夫が生活費をまったく入れなかったとか、何か事情があったのかもしれませんね。うちは貧乏だから、という言葉もあながち嘘ではなかった可能性もある……。今となっては分かりませんが、人にはいろいろ事情があるんだろうなと思いました」

ヨシミさんを責める言葉をぶつけなくてよかった。カズエさんは今はそう思っている。

<参考>
・「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)
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