老後のお金や生活費が足りるのか不安ですよね。老後生活の収入の柱になるのが「老齢年金」ですが、年金制度にまつわることは、難しい用語が多くて、ますます不安になってしまう人もいるのではないでしょうか。
そんな年金初心者の方の疑問に専門家が回答します。今回は、高収入で年金の繰り下げをしたい人からの質問です。

■Q:65歳で年金を繰り下げましたが、高収入だと一生もらえない?繰り下げは意味がありますか?
「現在65歳で会社を経営しています。年金は繰り下げ申請をしましたが、年収は今後も2000万円程度になりそうです。在職老齢年金の仕組みを見ると、老齢厚生年金は全額支給停止になるようです。この先もずっと年金はもらえないのでしょうか? また、国民年金(老齢基礎年金)は収入があっても停止されないと聞いたことがあります。どうせ今は受け取れないので、80歳くらいで会社を畳んでから、繰り下げた年金をもらった方が得かと思い繰り下げましたが、この選択は正しいのでしょうか?」(TIさん・男性)

■A:老齢基礎年金の繰り下げは有効ですが、支給停止中の老齢厚生年金は増えません。繰り下げた年金は75歳までに請求をしてください
結論からいうと、TIさんの判断は「一部は正しく、一部は誤解がある」ということになります。TIさんは会社経営を続け、年収2000万円と高い収入があるとのこと。

この場合、老齢厚生年金は「在職老齢年金制度」の対象となります。

令和7年度の支給停止基準額は……老齢厚生年金の報酬比例部分の月額+総報酬月額相当額=月51万円

年収2000万円ほどであれば、この基準を大きく超えるため、老齢厚生年金は全額支給停止となります。この状態は、収入が下がらない限り続きます。


一方で、老齢基礎年金(国民年金部分)は在職老齢年金の対象外です。収入がどれだけ高くても、支給停止にはなりません。そのため、TIさんが「今は生活に困らない」という状況であれば、老齢基礎年金を繰り下げる選択自体は合理的です。

繰り下げをすると、繰り下げる1カ月につき0.7%ずつ増額され、最大75歳まで繰り下げれば84%増額された年金を一生受け取れます。※昭和27年4月1日以前生まれの方の繰り下げの上限年齢は70歳まで、増額率は最大42%。

多くの方が誤解しやすいポイントですが、在職老齢年金で支給停止されている老齢厚生年金は、繰り下げしても増額されません。また、あとから「まとめて受け取る」「さかのぼって受け取る」こともできません。

つまり、繰り下げで増えるのは「老齢基礎年金のみ」で、支給停止されている老齢厚生年金は止まっている間は増えない、という点は押さえておく必要があります。

厚生年金の加入は70歳までですが、TIさんが70歳まで厚生年金に加入して働き続けた場合、支給停止中であっても厚生年金の加入期間は延びます。そのため、将来収入が下がり、在職老齢年金が解除された時点では、加入期間が長くなった分だけ再計算された老齢厚生年金を受け取ることになります。

年金は、75歳までに請求しないと権利が消滅します。「80歳まで待つ」という選択はできません。
仮に75歳で請求した場合、84%増額された老齢基礎年金、75歳時点で再計算された老齢厚生年金を受け取ることになります。

監修・文/深川 弘恵(ファイナンシャルプランナー)
都市銀行や保険会社、保険代理店での業務経験を通じて、CFP、証券外務員の資格を取得。相談業務やマネーセミナーの講師、資格本の編集等に従事。日本FP協会の埼玉支部においてFP活動を行っている。
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